第22話 高堂と結衣の喧嘩

 明香里を助けた次の登校日、俺はいつも通りに登校していたのだが、学校に向かっている途中で誰かが言い合ってる様に見えた。


 俺は何事かと思い前方を目を凝らして確認したのだが、そこには結衣と高堂が言い合いをしていた。

 そして次の瞬間、高堂が大声で叫んだ。


「何だよその言い方はさ!!俺はお前の心配してやってんのにさ!!!もう良いわ!!!」


 そう言ってその場から去って行った。


 え?いや、マジで何があったんだよ……



★ 遠坂結衣(side)


 ――数分前


 私は久しぶりに空と登校していた。

 前までは良く一緒に登校していたのだが、慶君を意識し始めてからは一緒に登校する事にちょっと違和感を覚えた。

 慶君はまだ私が空の事を好きだと思ってるから何とも思わないんだろうけど、私の心情的には幼馴染だからと言って必要以上に仲良くしている所を見られたくないって思っちゃったからだ。


 今日は空が私の家の前で待っていたので仕方なく一緒に登校している。

 因みに明香里ちゃんは風紀委員なので朝は私達より三十分以上前に登校する事が多い。


「なぁ?結衣?何で最近は俺の家に迎え来なくなったんだ?」

「私も色々忙しいからね……前までは無理して行ってたんだよ」


 正直別に無理をしていた訳では無いが、いきなりの事だったので良い言い訳が思いつかなかった。

 流石に慶君が居るから……何て事は言える訳が無い。

 別に慶君の事が好きって空に知られたくない訳では無いが、他の人に教えるにしても美月や明香里ちゃんに先に言いたい。

 それ以外にも理由はあるがそんな訳で言うには時期が早すぎる。


「俺的には来て欲しいんだけどダメか?最近結衣が来てくれないから遅刻ギリギリの事があったしさ?」

「それだったら尚更駄目じゃん。これから先の人生は私が迎えに行ってあげれる訳じゃ無いんだからさ?朝が弱いのは分かってるけどいい機会じゃない?」


 私がそう言うと空は怪訝そうな顔になった後に口を開いた。


「でもさ?だったら俺が朝を克服できるように結衣が協力してくれないか?」

「それじゃ意味無いんじゃない?ていうかそれだったら明香里ちゃんも居るんだから明香里ちゃんに起こして貰えばいいじゃん」


 明香里ちゃんの名前を出すと空は少しばつが悪そうな顔になった。


「明香里か……明香里はちょっと今は無理なんだよな」

「え?明香里ちゃんと何かあったの?」

「あぁちょっとな……数日前から少しな……喧嘩した訳では無いんだが今は頼み事し辛い状況でな、ていうか明香里は早すぎて絶対無理だって」


 明香里ちゃんには何も聞いていないが何があったんだろうか?

 まぁ、空に聞いても教えてくれる気はなさそうな返答だし、明香里ちゃんが言わないんだったら何か理由があるんだろうな。

 

「何があったのかは知らないけどそれだったら尚更自分で克服すればいいでしょ?」

「何か冷たくないか?」

「そんな事ないって、これは空の為でもあるんだからね?」


 これは事実だ。

 空は私が迎えに行くとまだ寝ぼけていてご飯すら食べていない事がある。

 明香里ちゃんも起こしてるんだけど朝早すぎて全然起きてくれないとの事だったから、私がお願いされていた。

 今までは私が目を覚まさせていたから良かったが、私がずっとそんな事をする訳にはいけないから空に頑張って貰うしかない。


「まぁ、そう言われると……確かにそうかもな」

「そうだよ」


 私が納得してくれて良かったと思っていたら空は続けて言った。


「んじゃあさ!最近二人で遊んでなかったしさ、今日の放課後俺の家に来て遊ばないか?」

「え?二人で?」

「そう、今日は明香里も帰って来るの遅いらしいしさ」


 高校に入ってから二人っきりで部屋で遊ぶ事は無くなっていた。

 まぁ、お互いに大人になって来た事もあり恥ずかしいって事が大きかったが、それよりも常に明香里ちゃんか美月、又は哉太君が居たからだ。

 それなのに何で急に?今まではこんな事言った事なかったのに。


 慶君に会う前の私だったら喜んで行ったけどさ……


「でもさ、私達はもう高校二年生だよ?二人っきりは色々まずいんじゃ?」


 私がそう言うと空はあたふたして言った。


「い、いや、俺達は幼馴染じゃん!小さい頃から一緒に居るんだから大丈夫じゃない?」


 なんで急にそんな事を言って来るのかは分からないけど、とにかく二人っきりで遊ぶ事は避けたい。

 

「まぁ、どちにしろ今日は既に予定が入ってるんだよね」

「そうなのか?だったら何でもっと早く言わなかったんだよ……」


 私がそう言うと空は明らかに不機嫌そうになった。


「てか明香里って最近付き合い悪いよな?勉強会だって前までは毎日やってたのに、今回は結衣だけいなかったしさ」

「まぁ確かに勉強会は行けなかったけど別にあらかじめ予定してた訳でもないじゃん?」

「でも毎回そうなんだからそうだって皆思うだろ?ていうか今更だけど俺達と一緒に勉強しないで神道と勉強してたじゃんか?」


 空はイライラしてる感じでそう言って来た。


「いやだからそれは前も説明したでしょ?あれは仲良くなったばっかりって事もあったし、転校してきたばかりで勉強に不安がありそうだったから余裕のある私が教えてただけだって……」

「それだったら別に結衣じゃなくても……あ!そうだ!そういえば知ってるか?神道の噂」


 え?慶君の噂?なんだろう……


「ううん、知らない」

「昨日友達に教えて貰ったんだけどさ、どうやら少し前に人を殴って病院送りにしたらしいぞ?結衣もあいつと関わるのやめておいた方が良いって」


 は?慶君が理由もなくそんな事するなんてありえない……

 

「それっていつくらいの話なの?」

「えっと、確か……テスト直前位だったかな?俺が聞いたのはそうだった気がするな……どうやら一年生が丁度通った時に神道が丁度殴ってボコボコにしてたんだけど、びっくりしちゃって一瞬だけ見て逃げたらしいな」


 テスト前って事は……もしかして私を守ってくれた時の事なの!?

 それだったら私もいたのになんでそんな噂が……


「それって、けい……神道君以外にだれか居たの?」

「ん?いやそれは聞いてないな?でもなんでそんな事聞くんだ?」

「ううん。ちょっと気になっただけで別に意味はないよ」


 最悪だ……多分わたしはいなかった事になってるし……この噂が広まったら慶君に友達が出来なくなるよ……

 私は内心相当焦っていた。


「いやー、アイツっていつも一人でいると思ったらそんな不良だったんだな……結衣も友達止めた方がいいぞ?いつ巻き込まれるか分からないしもしかしたら騙されてるかもだしな?」


 空はへらへらそう言って来るが私はそれを聞いて一瞬で沸点が上がった。

 慶君は不良なんかじゃなくて凄く優しくて暖かい人だ。

 慶君と友達を辞めるなんてありえない。

 慶君が私を騙してる?そんな事は百パーセントあり得ない……もしそうなら私を身を挺して守ってくれるわけがない。

 

 私は空に怒った事はほとんどない。

 あったとしても軽く注意したり数時間喧嘩になる程度で本気で怒った事は無いが今の私はそうじゃなかった。

 そして気付けば呟いてしまっていた。


「何も知らない癖に……」

「は?何も知らないって……現に見たって人が……」


 私は空の声を遮って言った。


「だから何?仮にそうだっとしても何か理由があったのかも知れないじゃん、その人だって一瞬しか見て無いんでしょ?」

「いや。だとしても病院送りは普通じゃないだろ?てか何で結衣がそんなに言うんだよ?意味分かんないぞ?俺は結衣の事を心配してやってんのになんだよそれ?」


 大体その病院送りってあり得ないんだよ……慶君はそこまでやってなかったしどうせ脚色された噂だろう。

 でも空にそれを言っても信じる訳が無い……


「はぁ?今度は黙るのかよ?まじで意味分かんないって……結衣があいつを庇う理由ないだろ?」

「理由とかじゃなくて何でそんなホントかも分からない噂で私の友達を貶めるような事いうの?」

「いやだから見てる人がいるから事実だって言ってんだろ?だから結衣も友達止めるべきだって、結衣は不良嫌いだろ?」


 ……これは私が何を言っても聞いてくれないんだろうな。

 前から空と喧嘩する事はあったが今日は慶君の悪口を言われていて怒りが強いが、同時に空に対して凄く冷めているのを感じる。

 そう思ったら私はつい叫んでいた。


「もう良いから!!私が誰と仲良くしようと私の勝手でしょ!!!空がどうこう言わないでよ!!!」

「何だよその言い方はさ!!俺はお前の心配してやってんのにさ!!!もう良いわ!!!」

 

 空はそう言って歩いて行った。

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