第21話 初めての感情 高堂明香里(side)

★高堂明香里(side)



 ――私は家のベッドに倒れた。


「はぁー、こんなに疲れたのは久しぶりですね……」


 そう言いながら私はスマホを手に取り連絡先の欄にある神道慶と言う文字を眺めていた。

 今思えば家族以外では初めて男性と連絡先を交換した。

 酒井先輩とは仲が悪い訳では無いが連絡先を交換する程仲が良いわけでは無いからだ。


「あっ!そう言えばまだ兄さんに言って無かった……」


 兄さんは今日、酒井先輩の家に男友達と集まって泊まるって言ってたっけな。

 

 私はそう思い兄さんに電話をかけた。


『あっ、兄さん今大丈夫ですか?』

『おぉ!明香里か!どうした?』

『あの……実は今日……』


 私がさっきあった事を話そうとすると兄さんが遮った。


『あ!!それは俺のアイテムだぞ!!!』

『えっと……兄さん……』

『あぁ、ごめんな明香里、やっぱり後日でも良いか?』

『あ……そうですね大丈夫ですよ』

『悪いな、じゃあお休みな!』

『はい。お休みなさい……』


 ……まぁ、兄さんからしたらいつも通り軽い雑談電話程度だと思ったのだろう。

 そういえば普段だったらこんな感じの事が有ればちょっと悲しくなってたけど今日は不思議と全然何も思わないな。


「神道先輩か……」


 神道先輩とはあの日助けて貰ってからは一度も話してなかった……

 

「……そう言えば神道先輩に助けられたのはこれで二回目でしたね」


 昨日までの神道先輩のイメージと言うと、私の中では結衣さんと仲の良い先輩程度の相手だった。

 結衣さんが神道先輩の事を話す時は凄く楽しそうだったので良い人なんだろうなとは思っていたが、それだけだ。

 私は性格上、男性とは仲良くなる気がないのでその程度のイメージだった。


「それにしても神道先輩の手大きかったですね……」


 私は神道先輩に撫でられていた時の事をふと思い出してそう呟いていたし、それと同時にドキドキしていた。

 それに本来ならあんな姿を人に見られたら、兄さんだとしても恥ずかしくて一月は引きずる自信があるのだけど、神道先輩にはそんな気持ちがない。

 いや……ないのではなく、神道先輩の気遣いと安心感によって消されたって言った方が正しいかな。


 私はそんな事を考えながら神道慶と表示されているスマホの画面を再び眺めていた。


「そうだ……今日のお礼……はもうしたけどもう一回くらいした方が良いですよね……」


 私はそう思い神道先輩に電話をかけてみた。


『神道先輩今日は本当にありがとうございました』

『まぁ、明香里が無事で何よりだし気にすんなって』

『そうですね……神道先輩がそう言うならそうさせていただきますね』


 少し緊張してるけど思ったよりは大丈夫そうで良かった。


『あぁ、それでいいよ。それより兄には言ったのか?』

『いや、言って無いですね。兄さんは明日学校が休みなので、酒井先輩の家に泊まりに行くって言ってましたから』

『その……兄の方に連絡は入れたのか?』

『えっと、そうですね……実は電話をしたら今友達とゲームしてるからって直ぐに切られちゃいましたね』


 私がそう言うと少し間が空いてから神道先輩は言った。


『えっと?大丈夫か?その……精神的な面でさ?』


 神道先輩は慎重そうにそう聞いて来た。

 喋り方や声色を聞いただけで本気で心配してくれてるのが伝わって来る。


『神道先輩って意外と心配性なんですか?』

『え?心配性?』

『そうですよ?私は全然大丈夫ですよ?確かにあの瞬間は凄く怖かったですけど』


 もし神道先輩がいなかったらと思うと震えてしまうけど、結果的に神道先輩が助けてくれたので私は大丈夫。

 それに恐怖心や不安。そんな感情は神道先輩が消してくれましたから……

 これ以上神道先輩に心配をかけない様にしたいですしね。

 

『そっか、だったら安心だな』

『まぁ、そんな訳だから神道先輩は心配しなくて良いですからね!……それじゃあ私はもう寝ますから』

『うん。お休み明香里』

『お……おやすみなさい……』


 私はお休みと言うのが恥ずかしかったので、少し噛んでしまったがそれが原因で更に恥ずかしくなり電話を切った。


「はぁー」


 私らしくない……昨日までの私だったらこんなに感情がコントロール出来ないはずがないのに……

 男性とまともに話すのは兄さんと酒井先輩だけだったけど、酒井先輩は勿論兄さんが相手ですらこんなにドキドキした事はない。

 あれ?そう言えば私って兄さんに対してドキドキした事なんてあったっけ?


 私は兄さんと一緒に居るのが当たり前で、これからもそれが良いと思っていた。

 中学生の頃の友達が恋バナをしているのを聞いていたけど、一緒に居たいと思うのが恋って言っていたから私は兄さんに恋してると思っていたけど……


「あれ?恋って……」


 そういえば他の子はドキドキや安心感が大きければ大きいほど好きって事も言っていたっけ……

 兄さんと神道先輩、どっちと一緒に居たいかは正直分からない……それに関しては今は何年も一緒に居た兄さんの方がすこし上かも知れない。

 それでもドキドキや安心感は間違いなく神道先輩の方が圧倒的に上だ……と言うより男性にそんな感情を抱いたのは初めてだ。


「もしかしてこれが……」


 私はそう思ったら尚更心臓がバクバクしてきた。

 私って兄さんに対して恋愛感情は無かったのか……

 恋愛偏差値の低い私でもこれは何となく分かる。

 この感情が恋じゃ無かったら間違いなく病気か何かだ。

 私は初めての感情に正直戸惑っている。


「結衣さんと美月さんに相談してみましょうか」


 でも今思えば私は恋バナみたいな事をした事がない。

 聞いた事はあるが自発的に発言した事は無かったためどう話せばよいかも良くわからない。

 何でも話し合える結衣さんと美月さんともした事がない。

 まぁ、その対象が同じなので皆話せるわけがないんですけどね。


「あ!そう考えると私が兄さんに対する気持ちが恋じゃなかったって分かったら二人は喜ぶんじゃ……」


 ……いやでもそうなったら神道先輩の事も話す事になりそうだね。

 そうなるのはちょと、いやかなり恥ずかしい。

 それに良く考えてみたらこれは吊り橋効果みたいな一時的な感情の可能性もある。


「はぁー、もう少し様子を見て神道先輩と話して見て考えましょうか……」


 そうだそうしよう……明日から神道先輩と話して……でもどうやって話せば?

 クラスも学年も違うし、結衣さんにつなげて貰う?でもそれも怪しまれるだろうし……

 私からさそって放課後に?でもそれってデートじゃ……


 そう考えると顔が真っ赤になって頭がパンクしそうになった。

 

「ふぅー、今考えても何も思いつきそうにないですね」


 私はその後冷静になってそう呟いた。


「まぁ、今日は疲れましたし早めに寝ましょうか」

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