第20話 高堂明香里のピンチ 高堂明香里(side)

「ふぅー、やっと帰れますね」


 私は今日、学校の委員会に行った後に塾があったので帰りが遅くなっていた。

 塾の回数はかなり少ないのですが、一回一回に力を入れて行っている。


「それにしても最近の結衣さんと美月さんはどうしたんでしょうか……」


 結衣さん……は何となくあの先輩のせいっていうのは分かるけど……

 まぁ、悩んでると言っても最近の結衣さんはぼ~としていない時は前よりも明るいので大丈夫なんでしょうけどね。

 美月さんに関しては正直検討もつきませんね……一体どうしたんでしょうか?


 まぁ、話さないって事は何か理由があるんだろうし大丈夫なんでしょう。

 それに悩んでいると言っても悪い方で悩んでいる訳でもなさそうだしね。


 ――私はその後も帰り道を歩いていて、いつも通っている道に差し掛かった。


「ねぇ?明香里ちゃん♪」

「え?」


 私の背後から急に私の名前を呼ばれた。

 全然足音が無かったのでずっとここに居た人なのだろうか?


 私が後ろを振り向くと……全くしらない背が少し高い男性がいた。


「えっと?誰ですか?」

「え?誰って本当に言ってるの?俺だよ俺」


 え?全然意味が分からない。

 私とは初対面のはず……

 私はこの時点で既にヤバそうだと心の中で思った。


「えっと?初対面だと思いますが?」

「いやいや、あった事あるって!本当に思い出せないの?嘘だよね?そうだよ嘘だよ!」


 私は男が急に大きな声を出すものだから息が止まるかと思う位びっくりした。

 この男はどう見たってヤバい!私はこの時点で逃げる方法を考えつつ話す事にしました。


「えっと、すいません思い出せません……」

「ははは、まぁいいやだったらこれから覚えて貰えば良いからね♪ほら!明香里ちゃんってバイトしてたでしょ?その時仲良くはなしたじゃん!」


 男はニヤニヤしてそう言うが下心全快で嫌な気分になった。

 それより私はこんな男と話した覚えは全くない……私は同じ場所で働いている人は覚えるから……てことはお客って事!?


「えっと?もしかしてお客様として来ていたんですか?」

「そうだよ!明香里ちゃん!!思い出してくれたんだね!!!」


 やっぱりそうなんだ……ていうか思い出した訳じゃ無いよ……

 この人は本当にヤバい。

 どうにかして逃げないと。

 とにかく今は冷静さを見せないと。


「そうなんですね……でも私はあなたの事は覚えていないんですが……人違いでは……」

「いやいや!あり得ないから?二重にあり得ないからね?俺を覚えていないってのもあり得ないし人違いもあり得ないよ」

「でも本当に……」


 私がそこまで言うと男が叫んだ。


「はぁ?覚えてるよね!!!俺に笑顔を向けてくれたじゃん!!!」

「いや、それはマニュアルで……」

「もういい!!!!!」


 男はそう叫ぶと背中に隠してあった手を前に出しつつ、近づいて来た。

 私は何を持っているのかを一瞬で理解出来た。

 包丁……まさにそれだった。


「え?」

「覚えてないならこうするしかないね♪動けなくなったら俺が面倒見てあげるからさ♪」

「……」


 私は強がって冷静さを装っていたが、包丁を見た瞬間声が出なくなり動けなくなった。

 そして足に力が入らなくなり、地にお尻を着いてしまった。


「あ……」

「これからは一緒だからね♪俺の事をたっぷり教えてあげるから」

 

 この人は私を傷つけて、動けなくして……監禁でもしようとしているのか……

 私はパニックになっていて、逃げる事よりもし捕まったらの事を何故か考えてしまっていた。


「にひひひひひ」

 

 そう歪んだ笑顔で笑いながら私に包丁を刺そうとしてきた。

 何でこんな事に……助けてよ……兄さん……


 私はもうだめだと思い目を瞑ったのだが……私に包丁が当たる事は一向に無く、グサッと音が聞こえた後に、ボンッと鈍い音が数回なった。

 私は恐る恐る目を開けると……そこには先程包丁を持っていた男がもう一人のガタイの良い男性に組み伏せられていた。


 後ろからだから顔は見えないが、男性の腕から血がぽたぽた垂れている。

 私は何が起こったのか見れて無かったのだが、状況的に私を守る為に傷ついたんだと分かった。


 私は安心、心配、恐怖、などで頭の中がごちゃごちゃしていて、感情がぐちゃぐちゃだった。


 その時男性が呟いた。


「っ!……暗くて手元が狂ったな……」


 やっぱり痛いのかな?

 見ず知らずの私の為に……


 私はそう思ったら直ぐにお礼を言わないとと思って声をかける事にした。


「あ、あの?大丈夫ですか?」


 私がそう言うと男性はこちらに振り向いたのだが……神道先輩だった。

 私は神道先輩だと理解したとたん、不安な気持ちや怖い気持ちなどが一気に吹き飛んだ。

 神道先輩の顔を見たら何故か安心出来た……知ってる人が私を守ってくれたからなのだろうか?


 私が涙をこらえながらそう思っていると神道先輩が言った。


「え?明香里だったのか……」


 神道先輩に名前を呼ばれた私は膝から崩れ落ちて泣いてしまった。

 どこか緊張の糸が切れたのだろう……安心からくる涙だと思う。

 普段の私だったら人前では絶対に泣かないのに止まらない。


「神道……先輩……」

「えっと?大丈夫だぞ?どうしてこうなったかは分からないがこいつはもう気絶してるしな?」

「は……はい……ありがとうございます……」


 泣きじゃくる私に対して神道先輩は「大丈夫だぞ」と言いながら頭を撫でてくれた。

 暖かい……落ち着く……

 神道先輩の胸の中は凄く安心出来てもうちょっとこのままで居たいと思った。

 私がこんな事をするなんて普段なら絶対にあり得ない……でも今だけは……


 

 ――その後警察とのやり取りを終えた私達は帰っていた。


「ありがとうございました……」


 事件が起きた時から現在だと、時間も経ったので私は正気を取り戻していた。

 ていうか正気を取り戻した途端あり得ない位恥ずかしい……やっちゃったよ……

 そう思ったら顔が赤くなっているのが分かった。

 今の私は神道先輩の顔が見れない位恥ずかしかった。


「たまたま通りかかっただけだし気にしなくて良いよ、あの男も逮捕されるらしいし危険はもう無いだろうしね」

「はい……」

「それより今日は流石に家まで送って行くけどいいよな?あんな事があったばかりだしな」

「そうですね……お願いします……でも腕は大丈夫なんでしょうか」


 私はずっと気になっていたので聞いてみた。


「うん。これ位だったら全然ケガの内にも入らないからな。手当もしたしな」


 神道先輩はそう言って笑顔でケガを負った方の腕をブンブン動かして見せて来た。

 そんな神道先輩からは私に心配をかけない様にと言う気遣いが感じられて安心感が凄くそれと同時に少し胸が高鳴っていた。


「そうなんですね……だったら良いですけど……その、無理はしないでくださいね……」

「うん。大丈夫だよ、それじゃあ帰ろっか」

「……はい」


 私は返事をするが恥ずかしくなり凄く小さな声になっていた。


 ――家の前まで着いたので私はお礼を改めて言う事にした。


「えっと。本当にありがとうございました……」

「大丈夫だって。それに明香里の恥ずかしがる顔が見れてちょっと嬉しいしな」


 ……この先輩は……私は先輩に迷惑をかけた事に申し訳なさを感じていたのだけど、この言葉を聞いて吹き飛んだ。

 それと同時にそんな事を言われたので再び恥ずかしくて体温が上がるのが分かった。


「なっ!恥ずかしがって何て無いですよ……それに私が泣いていた事は忘れてくださいね!!」

「そうか?だったら何で顔が赤いんだ?」

「そんな事知らないですよ!仮に赤いとしても暑いからですよ絶対に!!」

「そっか。まぁそう言う事にしとくよ。じゃあ俺は帰るからゆっくり休めよ」

「わ、分かってますよ……」


 私に気を遣って揶揄いつつもちゃんと心配をしてくれる。

 そんな神道先輩のおかげで今の私は不安とか全部無くなっていて、安心感と謎のドキドキで埋まっていた。


 神道先輩が帰ろうとした時私は神道先輩を止めた。


「あ、あの……」

「ん?どうした?」

「えっと……連絡先を交換してください……」

「え?連絡先?」

「あ、あれですよ!両親が帰って来た時に連絡をとると思うのでその為ですよ!け、決して他意はないですよ!!」


 自分でもどうしてこんなに慌ててるのか分からないけど、とにかく恥ずかしかったのでそう言い訳をしていた。

 勿論両親が帰って来た時に連絡しないとっていうのもあるけど……


「そうだな。じゃあ連絡先の交換するか」


 ――LIMEを交換した後。


「それじゃ、帰るからじゃあな」

「はい……さようなら……」


 そうして神道先輩は帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る