第14話 初めての言葉 宮本美月(side)
「は!……あれ?私なんで?家に?」
突然目を覚ました私だが一晩ぐっすり寝たからか、昨日より明らかに体調が良くなっていた。
「あ、そう言えば神道君に……」
うろ覚えではあるけど体調に限界が来て私危ない所だったんだっけ……
神道君が居なかったら車にぶつかってたんだ。
「でも余り思い出せないけど手を引っ張られてからどうなったんだっけ?」
手を引っ張られて見上げると神道君の顔があってそれから肩を借りて帰ったんだっけな。
あれ?でも家まで歩いた覚えはないよね?
「あっ!そう言えば……」
私はその後の事を思い出して急に恥ずかしくなった。
辛かった私に気付いて神道君がおんぶしてくれたんだった……
「あれ?ていうか私、それ以上に恥ずかし事言ってるじゃん……」
気のせいじゃなかったら私は凄く恥ずかしい事を神道君に言ってる……普段だったら絶対に思っても言わないようなことを……いや、でも記憶が曖昧だしどうだろう?もしかしたら私の気のせいかも。
取り敢えず昨日どうなったのかお母さんに聞いてみようか。
私がそんな事を思っていたら音で私が起きた事が分かったのか、お母さんが部屋に入って来た。
「おはよう美月。大丈夫?」
「うん。大丈夫だよお母さん」
「そう。この後医者に診てもらうから準備してね」
「分かった。ねぇ?お母さん……昨日私ってどうやって帰って来たんだっけ?」
私は昨日の記憶が正しいかどうかをお母さんに恐る恐る聞いてみた。
出来れば私の記憶違いであって欲しい……だってそうじゃないと恥ずかし過ぎるからね……
「どうって?覚えてないの?塾の帰りに倒れかけた美月を同じクラスの神道慶君って子が背負って来たのよ?」
「そ、そうだったね……」
まぁ、薄々分かってはいたけどやっぱり気のせいじゃなかったんだね……
「神道君って凄く良い子ね。美月とはどういう関係なの?」
「えっと。どういう関係って?友達?なのかな?」
私と神道君の関係を聞かれても微妙に分からない。
結衣ちゃんと違って話す訳じゃないし、私の趣味を知ってる数少ない人だけどあれ以来まともに話してないし……
「曖昧ね?まぁ、助けられたのは事実だしお礼はしなさいね?神道君は要らないって言うと思うけどね」
「そうだね……でもお礼って何をすれば……」
「何でもいいと思うけど……何かを奢るって言ってもあの子は断ると思うし、ご飯でも作ってあげたら?美月って料理得意でしょ?」
何で奢るって言うと断るって言いきれるのか分かんないけどお母さんが言うならそうなんだろうな……昨日話したのかな?
ていうか手料理って……ただでさえ恥ずかしい事を言っちゃったかも知れないのに……尚更恥ずかしいよ。
いや、でもお礼はしたいし私が出来る事と言ったら料理位だし……本当に私の記憶が正しいかの確認もしたいし丁度いいかもね。
「そうだね。でも先に体調を直さないと」
「そうね。それじゃあ美月の支度が終わったら行くから準備してちょうだい」
「うん」
◇
――三日間安静にして体調が全快した
「どうしよう……何て連絡を送れば良いか迷ってこんなにギリギリの時間になっちゃった……」
今日の朝、神道君にお礼をしたいと連絡をしようとしていたのに、結局昼近くになった今でも連絡出来ていない。
いざ送るとなると恥ずかしくなって緊張してしまう。
「駄目だ!学校が始まる前にお礼をしないと益々気まずくなっちゃうよ!」
私はそう思い一思いにメッセージを送信した。
凄くぎこちない文章だけど大丈夫かな……
私がそんな事を思っていたら直ぐに返信が来た。
『いや、大丈夫だよ。それより元気になったのか?』
『はい。医者に診て貰ったんですが実はテスト勉強や塾やらでろくに寝てなかったので疲れが急に来たらしくて、この三日間しっかり休んだら元気になりました』
『そうなのか……勉強を頑張るのは偉いけど体調には気を付けなよ?』
心配してくれる神道君の言葉を聞いて少し緊張が解ける気がした。
『はい。これからはちゃんと気を付けます……えっと、神道君はこれから用事はありますか?』
『そうだな。これから昼ご飯を食べようとしてた位で特に用事はないけどどうしたんだ?』
『えっと。神道君にお礼がしたくて良かったら一緒にお昼ご飯を食べませんか?私が作りますので……』
『宮本さんのお母さんにも言ったけどお礼とか気にしなくて良いんだぞ?』
『これは私の気持ちなので……それにお母さんにもその位しなさいって言われましたし』
私はちょっと恥ずかしくてお母さんを理由にしてそう言った。
『分かったじゃあ作ってもらおうかな』
『はい!えっと、それじゃあこれから私の家までこれますか?材料はあるので作って待ってますので』
『あぁ、分かった。じゃあこの後行くから』
『はい。待ってます』
「よし……準備しないと」
◇
――料理の準備が終わった位に丁度チャイムが鳴った。
(ピーンポーン)
私は少し緊張しつつもドアを開けた。
「宮本さんこんにちは」
「あ……こんにちは……神道君……取り敢えず中に入ってください」
確認したい事はあるが取り敢えず中に入ってもらう事にした。
ていうかちゃんと話せてないよね私……凄いぎこちない喋り方だし。
そんな事を思いながら私はリビングルームへと案内した。
「これ全部宮本さんが作ったの?」
神道君は机に並んだ料理を見て少し驚きながらもそう言った。
「はい。そうです……」
「凄いね。めっちゃおいしそうだよ」
「ありがとうございます……」
神道君が笑顔でそんな事を言うから私はちょっと嬉しくなった。
料理は勉強の次に頑張って来た事なのでそれを褒められるとやっぱり嬉しくなる。
「えっと、宮本さん?メッセージでやり取りしてた時から思ってたけど……何で敬語?」
私は神道君のその言葉を聞いて心臓が飛び跳ねた。
でも聞くなら今以上に良いタイミングは無いよね……私はそう思い恐る恐る聞く事にした。
「あ、ごめんね……でもうろ覚えだけど私が神道君に負ぶって貰った上に、その……凄く恥ずかし事を言った気がして……」
私がそう言うと神道君は少し何かを考えてから話し出した。
「あ、えっとそれで敬語だったのか?そんな気にする事でも無いんじゃないか?俺も悪い気はしなかったしな」
私に気を遣ってか具体的な事は口にしなかったけどこの反応を見るとやっぱり本当だったんだ……その事実を知って自分の顔が真っ赤になるのが分かる。
「てことはやっぱりアレは私の気のせいじゃなかったんですね……」
「それより宮本さんの料理食べていいか?」
「あ、うん大丈夫だよ」
私が恥ずかしがってるのを見た神道君が慌てて話を変えてくれのでちょっと助かったと思った。
そんな神道君を見て私は凄く気が利く人なんだなって感じた。
神道君がオムライスに手を付けると目を見開いて言った。
「え!このオムライスめっちゃ美味しいよ!宮本さんって料理まで上手なんだ」
「ありがとう。実は小さい頃からお母さんとお父さんに喜んで貰いたくて練習してたの」
神道君の反応が凄く嬉しかった。神道君の顔を見てお世辞とかじゃなくて本当にそう思ってるんだと感じたからだ。
私は神道君に対して恥ずかしい思いもあったが、ここまで喜んでくれたら嬉しい気持ちの方が大きくなった。
「マジで美味しいよ料理人を目指してるって言われても納得出来るレベルだよ」
「ふふ、そんなに喜んでもらえると私も嬉しいよ」
正直大袈裟だなって思ったがそんな事を笑顔で言われると凄い嬉しいし、私も自然と笑顔になっていた
――私と神道君は料理を食べ終わった後少し話していた。
「そう言えば神道君はテストどうだったの?」
「そうだな。思ったより出来たなって感じかな?」
「そうなんだ、結衣ちゃんに教えて貰ってたんだよね。覚えが早いって褒めてたよ」
「いやいや、あれは結衣が教えるの美味いだけだよ」
「……いつの間に呼び捨てになったの?」
私が少し驚いて聞いてみると神道君は少し悩んだ様子で答えた。
「えっと、まぁ、仲良くなったし呼び捨てでいいよって事になったんだよ」
「そうなの?でもまぁ、神道君の話をする結衣ちゃんって凄く楽しそうだしそうなのかもね」
神道君は曖昧な答えだったが、結衣ちゃんも神道君の事を楽しそうに話してるし余り聞いても困るんじゃないかと思いそう言った。
「そう言えば宮本さんってなんで倒れるまで勉強を頑張れるんだ?」
「そうだね……私って要領悪いんだよね……結衣ちゃんは少し勉強をすると出来ちゃうタイプだけど私はそうじゃないから……」
勿論結衣ちゃんだけじゃないが私は中学生の頃から他の人より人一倍頑張らないと良い成績が取れなかった。
そんな訳だから教師になるには頑張るしかないんだ。
「宮本さんって凄いんだね……」
「え?私が凄い?」
私は神道君のそんな言葉を聞いて素直に驚いた。
今の話を聞いてどこを凄いと思ったのか?要領も悪ければ勉強も出来るタイプじゃないって言ったのに
「だって倒れるまで頑張れるなんて事、誰にでも出来る事じゃないよ。そんなに努力出来るのに凄く無い訳ないじゃん」
「そんな事ないよ……だってそれだけしても結衣ちゃんより頭悪いし……」
私は神道君が褒めてくれてるのに自分に自信が無くてそんな返しをしてしまった。
こんな卑屈だから昔から友達が少ないんだよね……私って。
分かっているがなかなか変われないんだよね。
「いや、努力出来る事に意味があるんだよ……宮本さんだって成績で言うとトップなんだしそんなに悲観する必要ないと思うよ。少なくとも俺の目から見たら努力出来る宮本さんは凄くカッコよくて素敵だよ?」
神道君の言葉は今まで誰にも言われた事のないような言葉だった。
私の卑屈さを聞いても尚褒めてくれたし……
私の努力を見てカッコよくて素敵なんて言われた事なんて初めてだ。
勿論褒めてくれた人はいたのだが神道君程真剣に言ってくれた人はいない。
それこそ哉太や空君もそうだったけどどこか適当な感じだった。
まぁ、私より出来る人が近くに居たからってのもあるだろうけど……
それに比べたら神道君の言葉にはちゃんと心がこもってる。
喋り方や目を見ればそこに嘘はなく本心で言ってるのが伝わる。
私は本当の意味で初めて努力が認められた気がして心から嬉しくなり体温が上がるのが感じられた。
「……そっか。ありがとう……」
自分の気持ちがふわふわしているのが感じられて、俯きながらそんな素っ気ない返事になってしまった。
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