第11話 高堂空との接触

 ――俺は結衣を家まで送った後、家のベッドで考えていた。


 それにしても今日はちょっと大変だったな。


 まさか転生しても尚師匠からの教えが活きるとは思っていも見なかったよ。


 前世の俺には幼い頃から両親が居なかったがその代わりに師匠が両親替わりだった。

 俺は結局死ぬまで師匠がどういう過去を持っているのか分からなかったが、師匠は滅茶苦茶強かった……師匠が誰かに負ける事なんてとてもじゃないけど想像すら出来ない位には強かった。

 そんな師匠に俺は幼い頃から稽古をつけて貰っていていつの間にか同世代、いや年上ですら敵なしになっていた。


 師匠からはこの力は誰かを守る時に使え!人を傷つける為じゃ無くて誰かの為に使え!とずっと言われて来ていた。

 そんな訳で俺は同じ道場の人やいじめをする不良。夜道でカツアゲをする様な奴らと戦って来た。

 武器を持ってる奴らも居たが師匠の地獄の特訓を受けて来た俺からしたら全然脅威にはならなかった……まぁ、勿論やりすぎには注意しながらね。


 師匠はそんな俺は毎回褒めてくれたので子供だった俺はそれが嬉しくて戦い続けて来ていたと思う。

 

「懐かしいな……」


 正直に言うと師匠との思い出は良い物も辛かった物もある。

 特に小さい頃からキツイ稽古をしていた俺は吐きそうな位疲れる日々を送っていた。

 当時の俺はそんな日々に酷く辟易している面があり嫌になっていたが、師匠的には俺の為にやっていた事だってのは今となっては明らかだ。

 子供の俺を引き取りどうやって育てれば良いか分からず取り敢えず稽古から入ったって言ってたよな……家族が師匠以外に居なかったから強くなって欲しかったとも言ってたな。

 まぁ、不器用は師匠らしいよな。


 でも俺は続けて良かったなって思う事は多い。だって今日も結衣を守れたわけだしな。


「そう言えば今回のイベントってやっぱり高堂の活躍の場面を奪った形になるのかな?」


 勘違いじゃなければ結衣の俺への好感度は結構上がってるんだと思う。

 まぁ、だからと言って何かが変わる訳でもないよな……好感度を上げない為に助けないなんて選択肢を取れる訳無いし。

 例え高堂が活躍するイベントがあったとしても結衣が危険な目に合う位なら助けなきゃ友達なんて名乗れるわけないし……大体この世界はエロゲの世界だとしても今の俺からしたら現実世界で結衣たちもちゃんと意思を持った人間なんだしな。

 セーブとかロードとか存在しないんだから助けない選択肢はゼロだな。


「っと。そうだそう言えば一応結衣に連絡しておこうかな。メンタル面とか心配だしな」


 俺はそう思いスマホを手に取り結衣にメッセージを送った。


『結衣大丈夫だった?心配だから一応連絡した』


 俺が連絡すると直ぐに既読になったが、その後数分かかった後連絡が帰って来た。


『大丈夫だよ慶君のおかげでね』

『そっか。良かったよ本当に』


 文字だけだと感情は伝わりにくいが思ったよりも大丈夫そうなのかな?

 普通だったら怖がっていてもおかしくない事件だったけど……


 そんな事を考えていると続けて返信が来た。


『ねぇ?慶君?これからもよろしくね』


 改まってどうしたんだろうか?そんな事言わなくてもそのつもりだけど……


『ん?急にどうした?そんな事当たり前だろ?前から言ってるけど俺には結衣以外に友達いないんだからそれは俺の言葉だぞって事でよろしくな』


 俺がそう返事をするとまた直ぐに返信が来た。


『うん。最初の友達なんだから他にも友達出来てもちゃんと相手してよね?』

『当たり前だろ?俺はそんなに薄情じゃないぞ』

『冗談だよ。慶君がそんな人じゃないのは私が一番良く知ってるよ。今日だって助けてくれたしね、それにこれからも助けてくれるんでしょ?』

『勿論そのつもりだぞ。遠慮しないで言ってくれよ』

『頼りにしてるよ慶君♪』

『あぁ、何より元気そうで良かったよ。それじゃあ今日はもう寝るからお休みな』

『うんお休みなさい』


「んー、元気そうで良かったな。ちょっと違和感を感じたけどそこまで気にする事もなさそうだな。おおよそいつも通りだしな……寝るか」



 ――次の日俺はいつも通り登校した。


 教室に入ると多くの人が席に座って友達と勉強をしていた。

 まぁ、明日からテストだし皆が必至になるのも当然だな。


 俺はそんな事を思いながら席に着いたのだが高堂達の方に目を向けると結衣は居なかった。

 いつもなら一緒に登校して机に鞄を置いてから高堂達と話しているはずなのに……鞄も置いてないしな。

 結衣がまだ登校していないなんて事は俺が見た中では初めてだな……昨日の事を引きずってるって事は無いと思うけど。

 大丈夫かな?


 ――その後10分が経ちチャイムが鳴るギリギリに結衣は登校してきた。


 息を少し荒くしている所を見ると急いで走って来たんだろう。

 教室に入った結衣は自分の席に一直線に来てそのまま席に着いた。


「おはよう結衣」

「あっ、おはよう慶君」

「それにしても結衣がこんなにギリギリに来るなんてめずらしいけど何かあったのか?」


 俺がそう聞くと結衣は恥ずかしそうに少し顔を赤くして答えた。


「いや、何かあった訳じゃないけど……ちょっと考え事をしちゃって寝るのが遅くなっちゃってね……だから大丈夫だよ」

「そうなのか?まぁ、大丈夫なら良かったよ」


 昨日のチャラ男事件を引きずってる感じじゃないし、悩んでる訳でもなさそうなので俺はそれ以上は聞かない事にした。

 そんな会話の後直ぐに先生が教室に入って来て授業が始まった。


 ――今日最後の授業が終わったので俺が帰ろうとしていた時の事だった。


「じゃあ、俺は帰るからまた明日ね結衣」

「えっ、あっ慶君!もし良かったら今日も……」


 結衣さんが俺に何かを言おうとしていた時、後ろから高堂が結衣さんに話しかけてきた。


「おーい結衣!明日テストだし勉強教えてくれよー」

「えっ、えっと……」


 そう言われた結衣はチラチラこちらの方を見ながら言い淀んでいた。

 んー、さっきの「良かったら今日も……」の続く言葉は簡単に想像できるが……この場合はどうすればいいんだ?

 俺と約束してた訳じゃ無いから迷う必要は無いと思うけど……これはやっぱり俺と勉強したいとも思っているって事だよな。

 んーでも見た感じだと、美月さんと酒井も一緒なのだろう……正解は分からないけど結衣の為にも余計な角を立たせる訳にも行かないよな……

 今ここで俺と勉強しようなんて言ったら空気がヤバい事になるのは考えるまでもないし。

 ここは適当に用事があるから帰るって言った方が良さそうだな。


「じゃあ……俺は用事もあるし帰るね」

「う、うん……ばいばい。またあしたね」

 

 そう言って俺は結衣と高堂の隣を通り過ぎたのだが……え?

 何か高堂に滅茶苦茶睨まれた気がしたんだが……


 まぁ、本当に一瞬しか見えなかったし気のせいかな……

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