第2話 モブの友達第一号はヒロインだった。

 ――俺はいつも通り登校して席に着いた。


 訳あって一月前の五月に転校して来た俺には友達がいない。


 転生したのが転校初日だったのだが、その時は友達を作る余裕なんて無かった。 


 今は何をすればいいのかとか、色々と分からない事が多くてそんな時間がなかった。

 まぁ、今では割りと落ち着いて来て、友達作っても良いなと思いつつ、二度目の人生って事もあって、一人で過ごすのも悪く無いなって思ってたりもする。

 でもまぁ、数人は友達を作った方が良いかな?


 それにしても今日も今日とて高堂ハーレムは健在だな。

 1年の講堂妹まで今日はいるしな。


 美月さんが高堂の肩を叩きながらイチャイチャしているが酒井は何も思わないのだろうか……

 正直凄く気になっちゃうな……

 幼馴染が親友とイチャイチャしてるってどんな感じなのだろうか。

 幼馴染なんていた事が無い俺には分からないがな。


 てか眠いな……少し伏せるか。


「だから、ごめんて、うっかりしてただけだからさ」

「兄さんまた約束すっぽかしたんですか?」

「空君……」

「ははは、すまんすまん俺が誘っちゃったせいだよなそれ」

「それは違うよ、空が約束覚えてれば断ってただろうし、誘うのは悪く無いって」


 つい会話を聞いてしまうな……

 俺の席が近いせいで良く聞こえるんだよな。

 

「誘った俺が言うのもなんだけどさ、空?女性との約束を忘れるのは良くないぞ!」

「分かってはいるんだけどね……」

「分かって無いよ、だって一回や二回じゃないんだからね?」

「こんな感じの会話ももう慣れたね」

「兄さんがしっかりしていればこんな会話になれる事も無かったんですけどね……」

「あーー、もう終わり、ほらそろっと授業が始まるからさ美月は戻らないとだぞ!ほら!」

「あーもう始まっちゃうんですね……それじゃあ失礼しますね」


 てか、高堂はそんなに何回も約束忘れてるのかよ……

 いや、これがこのエロゲ世界の主人公か。

 そりゃ、恋が叶うのに時間が掛かるわ…… 


 担任の先生が教室に入って来たのだが、数学の先生が訳あって休みらしく一限は自習になった。


 うん、寝よ――



「……慶……君」


 ん?誰か呼んでるのか?


「慶君!!!!!」


 名前を呼ばれるのと同時に背中に痛みが走った。

 

「いった!!!」

「何回呼んでも起きないのが悪いんだよ!」


 どうやら結衣さんに背中を叩かれたみたいだ。


「……それでなんだよ」

「何だよ……じゃないよ!移動教室なのにいつまで寝てるの!」


 そう言われ周りを見ると誰も居なかった。

 これが友達がいない弊害だな……


「なるほど、それで起こしてくれたのか、さんきゅー」

「全く能天気だね、私が筆記用具を忘れてなかったら大変だったじゃん」

「いや、まじ助かったわ、ありがとう」

「それじゃあ、貸一って事で」

「あー、まぁ、じゃあそれで」

「ってそれより早くいくよ!!!」

「そうだな」


 ――そうして俺と結衣は教室を出た。


「慶君は何でいつも一人なの?話してる感じ別にコミュニケーション能力が無い訳じゃないじゃん?」

「んー、転校してきたばかりだし……色々整理しておきたい事もあったからな」

「良く分からないけど別に友達が欲しく無い訳じゃないの?」

「まぁ、そうだな……いっぱい欲しいとは思わないけど、ある程度作りたいかなとは思ってるかな」

「なら私が友達第一号になってあげよう」


 結衣さんは胸を張るようにそう言って来た。

 何を言っているのか、好きな人がいるんだからそっちに集中した方が良いんじゃ……


「好きな人がいるのにそんな簡単に異性の友達を作っていいのか?」


 俺がそう言うと結衣さんは怪訝そうな顔でこちらを見て来た。


「なんで知ってるの……変態?」

「何言ってんだよ……見てれば分かるって」

「そんなに私の事見てたの?」

「違うけどな、まぁ、どう思ってても良いよ」

「初めて話した時ですら私に対して気を遣って無かった癖に、今更なに言ってんだか」


 結衣はやれやれというかの様に首を振った。


「大体私って友達多いよ?勿論異性もね?まぁ、ちょっと壁を作ってる所はあるけどね……」

「そうなのか?」

「うん、私って人と話す時は気を遣ってるからちょっと疲れるんだよね……」


 そんな事を思ってたのか。

 正直ただの能天気だと思ってたよ。すまん。


「だったら止めれば良いんじゃないか?気を遣うのを」

「今更無理だよ、それに皆の期待を裏切りたくないしね……それもあって私は本当の意味で気を遣かわない相手が居ないの」

「それこそいつも一緒に居る四人がいるじゃんか」

「あー、えっと、女子の二人はそうだけど、男子の一人は幼馴染で好きだからこそ気を遣っちゃうんだよね……それにもう一人はその親友だよ?もっと難しいでしょ……」


 そんなものなのかな?

 そんな関係になった事無いからしっくりこないな。


「まぁ、そんな事より、慶君は私に全然気を遣わないわよね?初めて話した時からそうだったし」

「たしかに……気を遣った覚えはない」


 そう言われると昨日は弁当が冷めると思ってたから全然気何て遣って無かったな。


「そう……だから私も慶君には気を遣わないで話せるのよ」

「それで友達って事か?」

「それもあるけど、友達が居なそうだったから可哀そうって思ったからだよ」

「それはどうも、ありがとうございます……」


 俺は素っ気なく返事をした。


「冗談よ……そんな呆れたような返事しないでよ」

「俺もそんな事は分かってる上で返事してるって」


 俺がそう言うと結衣さんは心なしか何処か嬉しそうだった。


「ほら!廊下は走っちゃダメだけど今だけは走るよ!遅れちゃうから」

「あぁ、そうだな」


 そうして俺達は遅れることなく移動出来た。



 ――俺はその日の夜、ベッドの上で寝転んで考えていた。


「そう言えばがっつりヒロインに関わっちゃってるけど……まぁいいか、ストーリー展開とか覚えてないし、こうなったら仕方ないよな、今更友達止めるとか言ったら大変な事になりそうだし」


 そんな事を考えていたらLIMEの通知が鳴った。


 見てみると結衣さんからだった。

 あれ……教えたっけな?


『慶君ーこんばんは、グループチャットの方から追加したよ!』

『あーなるほどな、あとこんばんは』

『私思ったんだよね……』

『何がだ?』

『慶君には好きな人バレてるし、今まで男性で相談出来る人がいなかったけど、慶君なら相談出来るじゃん!ってね』


 そう言う事か。でも俺高堂の事はマジで全く分からないぞ……


『だとしたら人選ミスだな……俺は高堂の事全く分からんぞ』

『確かに……あんたしれっと私達のグループに入って来てよ』


 なに言ってんだこの人は……


『出来るかそんな事……結衣さん以外は全く話した事も無いんだぞ』

『ははは、冗談は置いといて実際男性ってだけで助かるから大丈夫だよ』

『そうか?まぁ、だったら話くらいは聞くよ』

『ありがとう!!!じゃあ早速聞くけど、男子って女子との約束とか忘れる人って多いの?』

『それは無いな、人によるとは思うけど、大体の人はしっかりと覚えてると思うぞ』

『じゃあ、空が私の約束を忘れるのって……』

『んー、ちなみに講堂は一緒に居る他の二人との約束は忘れるか?』

『そう言えば、余りそんな事は無いね、てことはやっぱり……』

『あー、まてまて、変な風に考えるなって、恐らく幼馴染だから気が緩んでるんだと思うぞ?何だかんだ許してくれるから大丈夫ってね……だから同じことを繰り返すんだよきっと』


 これはたぶん間違いないだろう……

 俺がこの世界の事で知っている事は少ないが、これは覚えている。

 だって確か主人公曰く幼馴染だから、信用しているからこそ接し方が適当になっていたと。


 はい、これイライラポイントです。

 普通幼馴染だからこそ丁寧になるんじゃないのか?

 俺に幼馴染がいたらそうするぞ?


 って感じで主人公に対してムカついていたので記憶に残っているのだ。


『そうなの?何で分かるの?』

『それは内緒だ……』


 やべ、良い言い訳思いつかなかったわ。


『そう、まぁいいや、それを聞いてちょっと安心したよ』


 安心できる様な内容かも怪しいが、まぁいいか。


『だったら良かったよ……まぁ詳しいアドバイスは期待しないでくれよ』

『それは大丈夫だよ、私も頑張るしね』

『そうか、頑張れよ』

『うん!』


 そんなやり取りをしていた。

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