38

 久美子は久しぶりに赤い頭巾をかぶったお地蔵さんのある木造のバス停まで戻ってきた。(本当に随分と久しぶりな気がする)

 ここまでくれば、もう久美子の実家である三島家はすぐそこの距離だった。

「ただいま」

 久美子はそう言って自分の家の玄関を開けた。

 でも、家の中から「おかえり」の声は返ってはこなかった。やっぱり三島家の中は無人だった。

 誰もいない。

 ……そこにはただ、空っぽになった家だけがあった。

 久美子は家の中をいろいろと探索してみた。

 とくに欲しいものや、思い出の品と言ったものもなかったのだけど、(あることにはあったけど、持って歩けるもので、これ、と言ったものが思いつかなかったのだ)最後に自分の生まれ育った三島家を見れてよかったと思った。

 久美子は実家の中をいろいろと見て、それらの風景をなるべく多く、できるだけ自分の頭の中に記憶したあとで、もう戻ってくることもない三島の家に、ばいばい、をしたあとで、実家の家の横にある三島神社に向かった。

 そこには信くんとさゆりちゃんがいた。

「なんだ。三島は思い出の品はなしかよ」と信くんが言った。

「うん。でも、最後にばいばいができてよかった」と久美子は言った。

「そっか。よかったな」信くんはそう言ってにっこりと笑った。

「久美子ちゃん。神社の中、見てもいい?」

 さゆりちゃんが言った。

「もちろん。いいよ」

 にっこりと笑って、久美子が言った。

 三島の家に向かっている間、やっぱりわたしお母さんとお父さんい会いたい。おばあちゃんやおじいちゃんにもう一度、会いたい、と久美子は強く思った。

 でも、やっぱり久美子の家族はもう誰もいなかった。

 久美子は一人ぼっちだった。

 さゆりちゃんも、信くんも、みんなみんな、一人ぼっちだった。

 神社の中を探索している間、久美子は急に寂しくなった。

 寂しくなって、久美子は一人、神社の前で体育座りをして、そこで一人で泣いてしまった。

 久美子が泣いている間、さゆりちゃんと信くんは久美子の了解をとって、神社の横にある古い木造の倉庫の中を探索した。

 いろいろと興味深いものもあったようだけど、結局、闇闇に対抗する武器になるようなものはなかったようだ。

 でも、さゆりちゃんは『一冊の古い文書』を手に持って倉庫から出てきた。

「いいものがあった。やっぱり、久美子ちゃんの家まで戻ってきてよかった」と久美子に言った。

「本当?」

 うさぎのぬいぐるみを抱きしめながら久美子は言う。

 そのうさぎのぬいぐるみは寂しくないようにって言って、さゆりちゃんが久美子に貸してくれたものだった。

 うさぎのぬいぐるみからは、確かに関谷さゆりちゃんの匂いがした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る