36

 最初に三人がやってきたのは、さゆりちゃんの家だった。

(家の位置から考えて、近い順で、順番的に、さゆりちゃん、信くんの家。そして久美子の三島家の順番でそれぞれの家に三人一緒によっていくことにした)

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 そう行ってさゆりちゃんは家の中に一人で入っていった。

 さゆりちゃんが自分の家の中を探索している間、久美子と信くんはさゆりちゃんの家の玄関前に座って、一緒に灰色の空を見ながら、ぼんやりとしていた。

 足が歩きっぱなしで少し痛かった。

 久美子は自分の足を軽く手でマッサージした。

「……足、痛いのか?」

 信くんがいう。

「うん。ちょっとだけ。でも大丈夫」

 にっこりと笑って久美子は言う。

「そうか」

 同じようににっこりと笑って信くんが言った。

「それにしてもさ、関谷のやつ、なにをじっと考えていたのかな?」灰色の空を見上げて、信くんが言った。本当は、もうそろそろ鳥の鳴き声が聞こえる時間帯なのだけど、今日はどんな鳥や動物の鳴き声も聞こえなかった。(むささびもいないしりすの姿もなかった)

「たぶん、闇闇の弱点についてじゃないかな?」

 うーんと言いながら久美子が言う。

「闇闇の弱点は光だったっけ?」(さゆりちゃんの闇闇の説明を思い出しながら)信くんがいう。

「うん。闇闇は光が苦手ってさゆりちゃんは言っていた」久美子は言う。

「その光以外にも、もしかしたら闇闇には弱点があるかもしれないって、関谷はさっきの俺の話を聞いて思ったってことなのかな?」腕組みをして信くんはいう。

「たぶんそうだと思う」

 久美子はいう。

「そうだよ。その通り」

 急に後ろからさゆりちゃんの言葉が聞こえて久美子と信くんがびっくりして後ろを振り返った。

 するとそこにはにっこりと笑った関谷さゆりちゃんがいた。

「私に隠れて内緒話をするとは、……百年早い」

 さゆりちゃんは言った。

 そんなさゆりちゃんは、その手に年季の入った『うさぎのぬいぐみる』を持っていた。

「そのぬいぐるみ。ずっとさゆりちゃんが持っていたぬいぐるみだよね」久美子は言う。

「うん。名前はななちゃん」

 さゆりちゃんは言う。

「それ、持っていくのかよ?」信くんはいう。

「うん。お父さんもお母さんもいなかったから、ななちゃんだけは一緒に連れて行こうって、思った」

 さゆりちゃんは言った。

「……そっか」

 真剣な顔をして信くんが言った。

「悪かったな」

 信くんがいう。

「ううん。別にいい。もうわかっていたことだから」

 ぎゅっと、うさぎのぬいぐるみのななちゃんを抱きしめながら、震える声でさゆりちゃんは言った。

 それから三人は今度は信くんの家に向かって移動を始めた。

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