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 〇〇町には誰もいなかった。

 みんな消えてしまったみたいに、人の姿はどこにもなかった。

 大雨による、〇〇川の氾濫の傷跡は町のいたるところに残っていた。電信柱が折れていて、電線が垂れ下がっている場所があったりしたし、水道管が割れて、水の吹き出ているところもあった。

 道路は割れていて、陥没しているところもあった。

 家も、流されている家や、半壊している家なども多かった。

 人が誰もいなくなった(なぜか動物の気配もしなかった)しんと静まり返っている〇〇町の中を、久美子たち三人は一列になって歩き、(順番は信くん、久美子、さゆりちゃんだった)いつもはバスで通る道まで合流すると、そこから学校とは反対方向の道を進んで、三人の家のある方向に向かって、山間の〇〇町の中を歩き続けていた。

 久美子はそんな〇〇町の姿を見て、まるで『ゲームの中の世界』のようだと思った。最近買ってもらったゲームに、そんなゲームが一つあった。

 崩壊して、人類のいなくなった世界の中を、たった一人だけある偶然によって生き残ってしまった主人公の男性(または女性)がその世界(主に、その主人公の町が物語の舞台だった)を探索していく、と言うゲームだった。

 久美子はそのゲームが結構好きだった。

 淡々と静かな世界を探索して、道具や使える部品、廃墟、残された家などを使って、日々を過ごしていくゲームなのだけど、久美子はそういった、静かで単調な作業の繰り返し、のようなゲームが結構好きだった。(さゆりちゃんも面白いと言っていた。信くんはつまらないと言っていたけど)

 でも、実際に自分が誰もいなくなった自分の故郷の町の中を、こうして(幸いなことに久美子には信くんとさゆりちゃんがいてくれたけど)歩いていると、なんだかとても寂しい気持ちに久美子はなった。

 久美子は自分の空想の中で、たまに、大人なんて、みんな消えちゃえばいいのに、と思ったりして、こうして誰もいない町の中を一人で駆け回って遊ぶ、ような空想をしていたことがあった。(今よりも、もっと幼いころの話だ。たぶん、小学校低学年くらいのころの話)

 そのころの久美子はそんな空想に憧れを持っていたのだけど、それは久美子の間違いだったようだ。

 久美子はこんな世界を望んではいなかった。

 いつも久美子に優しくしてくる(たまに怒られたりもするけど)〇〇町のみんなが幸せに暮らしていけるような、そんな世界を久美子は望んでいた。

 ……本当に心から、久美子はそれを望んでいたのだ。

 ぴちゃん。

 と水の弾ける音がした。

 それは先頭を行く信くんが道路の上にある水たまりを踏んづけたときの音だった。その音を聞いて、久美子は思考の世界から、現実のみんなのいる世界の中に、戻ってこられた。

「水たまりは避けたほうがいい」

 そんなさゆりちゃんの声がどこか遠い場所から、聞こえた気がした。

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