33
〇〇川は数日前に氾濫をした。
その傷跡は今もまだいたるところに残っていた。川の流れもひどい。水は透き通るような、あの鮎や鮭などが泳いでる透明な〇〇川の水ではなくて、もっとどろどろとした、なにも見通すことのできない、とても濃い土の色をしていた。
道草先生の言ったように橋も落ちてしまっていた。
これでは向こう側に渡ることは不可能なことのように思えた。
「おそらくは『最初のシナリオ』では、私たちは向こう側に渡ることはできなかったのかもしれない」さゆりちゃんは久美子と信くんを見て、そう言った。
「どういうことだよ?」腕組みをしながら、氾濫した〇〇川を見て、(信くんはすごくなにかに向かって、怒っているように見えた)信くんがいう。
「この川は『一方通行であり、一度渡ったら、向こう側には戻れない川だった』、という意味」さゆりちゃんは言う。
「今もそうだろ」信くんがいう。
「ううん。違う。『シナリオは変更されている』。明らかに。でなければ、雨が止むわけはないし、こうして私たちがこの川沿いの場所までくることもできなかったと思う。この川は渡れる。たぶん、どこかに道があるはず」さゆりちゃんは言った。
久美子はさゆりちゃんの言葉をなかなか信じられなかった。
いくら頭のいいさゆりちゃんでも、この状態では向こう側には渡れないと思うのが普通だと思った。久美子はどちらかというと信くんの意見に賛成だった。
でも、「ちょっと道を探索している」と言って、移動を開始したさゆりちゃんは、それからすぐに「渡れる道を見つけた」と言って、同じように〇〇川のそばの道を探していた信くんと久美子の元に戻ってきた。
久美子たちがさゆりちゃんについていくと、確かにそこには道があった。
あの『久美子たちが通学に利用しているおんぼろの水色のバス』が川の真ん中に落ちて、それが橋の代わりになっている場所があった。
久美子はその光景を見て驚いた。(信くんも驚いていた。すげーな。とか言っていた)
確かにそれは奇跡のような出来事だったし、『誰かが意図的にそのようにシナリオを書いた』と言われれば、そうなのかもしれないと思えるような偶然だった。
そんな二人のことを尻目に、「さ、いくわよ」と言って、さゆりちゃんは〇〇川の真ん中で横転しているバスの上を移動し始めた。
久美子と信くんはお互いの顔を見つめ合ったあとで、そんなさゆりちゃんのあとを追ってバスの上を渡った。
そのまま、三人は無事に氾濫した〇〇川を渡ることに成功した。
……、……ぐるるるぅ。
と、そんな獣ような声が森の中に響いた。
それはきっと、闇闇の悔しがる声だったのだろう。
でも、その恐ろしい声は、幸か不幸か、幼い子供たち、三人の耳にまで届くことは永遠になかった。
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