神の国:ジギタリス
01 出会い①
目が覚めたら、まるで天使のような、とてつもない美少女が俺の顔を覗き込んでいた。
「あぁー、俺死んだんだな」
「生きてるよ!珍しいね!」
「……まじで?」
俺は無事に地下世界に落ちたようだ。
この世界は、地上と地下に別れている。
地上世界、通称勇者の国グロリオーサと地下世界、通称神の国ジギタリスは、若干不仲。
理由は知らない。
ただ分かることは、グロリオーサでは異能を持つものを畏怖し、禁忌としている。
19歳の誕生日前日、俺は異能を発現した、らしい。
らしい、というのはなんせ記憶がないのだ。
どうやら住んでいた場所が火事になったらしいが、俺は結界のようなもの?の中ですやすやと眠っていたらしい。
目が覚めたら軍に捕まっていて、次の日にはジギタリスへの譲渡が決まっていた。
ジギタリスへ譲渡の日、つまり俺の誕生日当日。
俺は体と腕を縄で縛られ、歩かされていた。
目的地は、軍の中心部にある広場に鎮座する巨大な門。
鈍い白銅色の重厚な円形の門は、神が作ったとしか思えない繊細な美しい意匠が散りばめられている。
まるで、天国への門のようだ。
実際は地下への入口だが。
門の近くにたどり着くと、後ろを歩いていた偉そうな軍人がどこかに合図を出した。
しばらくすると、地鳴りのような音と共に門が真っ二つに割れるように開いた。
そこに軍の人が、まるで飛び込み台のような簡素な台を設置した。
俺はそれの上に立たされる。
門の中をのぞき込んでみたが、底が見えることはなく、ただ真暗な闇がぽっかりと浮かび上がっていた。
「あのー、俺って
譲渡、というなら
それとも、
俺は死ぬことはないだろう。
だから、恐れを抱く必要も無いのだ。
しかし、迎えが来る気配も、一緒に行ってくれる人が来る気配もない。
悪い予感に、冷や汗がダラダラと垂れてくる。
こんな台に腕と体を縛られた状態で立たされては、飛び込めと言われているような気がしてくるというものだ。
「えっと、誰か迎えとか来て下さるんですかね、はは…」
嫌な予感から目を逸らすように、俺の右後ろに立つ偉そうな軍人に話しかけた。
軍人は冷めた目で俺を見下ろし、ため息を吐いた。
「そんなわけないだろう。力のない我らには
その言葉と同時に、ドンッと勢いよく背中を押される。
その場に踏みとどまろうと踏ん張る力も虚しく、俺の体は虚空へと投げ出された。
こんなの、実質死刑じゃないか。
俺、誕生日当日に死ぬのかー。
なんて頭の中では現実逃避しているが、体は恐怖で震えている。
叫び声すら出なくなり、遠くなっていく光がもう豆粒ほどの大きさになった時、俺は意識を失った。
ーそして今に至る。
透き通るようなさらふわブロンドヘア、あどけなさの残る超絶美少女が俺の顔を覗き込み、色素の薄いグレーの目は、俺の体を上から下へと辿っていく。
なんだか、恥ずかしい。
それにしても、俺、生きてるのか。
「そうだよー、ほんと珍しい。それに無傷なんて、そんな
またまた恥ずかしい。
声に出てたのか、気をつけよう。
それにしても、ここはどこだろうか。
空は晴天。
どこまでも広く青空が広がっていそうだが、俺の視界では鬱蒼と茂る木々がその行く手を邪魔している。
ここは、森か。
どこかの森に落ちたみたいだ。
とりあえず、目の前の少女に話を聞いてみるしかないな。
いつまでも地べたに寝っ転がっているわけにもいかないので、俺は立ち上がり、彼女に問うた。
「えっと、ここは
彼女の身長は俺の胸よりちょい下、150センチいかないくらいか。
彼女は立ち上がった俺の周りをぐるぐる周りながら答えた。
「そうだよー。君は
「ふ、ふろーら?」
ここが死後の世界ではなく、
「え?
「え?その、ふろーら、ってのを説明して欲しいんだけど…」
「
俺たちは、二人してキョトン、と顔を見合わせる。
これは、どうにもならなそうな予感だ…。
話題を変えよう。
「ところで、俺の名前はアオイ。君は?」
「私?私の名前は…」
彼女が自分の名前を言いかけたところで、ハッと口を噤んだ。
静かになった森の奥から、誰かを呼ぶ男性の声が聞こえ始めたのだ。
彼女は声が聞こえてくる方角に顔を向け、少し残念そうな、イタズラが見つかってしまった子供のような表情を浮かべた。
「あちゃー、さすがというか…。もう見つかっちゃうなんて早いなー」
この間にも、声はどんどん近づいてくる。
「君の知り合い?」
「そう、私の…家族」
彼女はそう言って一呼吸置いたあと、笑顔で俺の方を振り向いた。
「私の名前はフリージア。アオイ、仲良くしようね!約束だからね!」
そうして、俺とフリージアは出会った。
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