フリージアの夢幻

@tsukushi-sakura

プロローグ

かつて、全ての人類は地上世界に住んでいた。

ウィザーという化け物が地下世界から現れるまでは。


ウィザーは地上世界に現れるなり、手当たり次第に人々を襲った。

その勢いは人類の存続が脅かされるほどであった。

ウィザーとの争いで半壊した世界は、人類から生き残るための力と希望を奪った。

人口は3分の1に減り、安全な生存圏は約半分までになっていた。


そんな世界に、ある時ひとつの命が誕生した。

その赤ん坊は不思議な力と背中に大きな花の模様を宿して生まれてきた。

母親は赤ん坊の背中に描かれた花の模様からとって、名前をつけた。


「愛しい私の娘…、あなたの名前は、ジギタリスよ…」


ジギタリスは健やかに成長し、次第に自身に宿った不思議な力も自然と扱えるようになった。

その力は、ジギタリスの願いを次々と叶えていった。


『今日はパンが食べたい』と思いながら街を歩けば誰かが偶然パンを分け与え、『畑に水をやるのがめんどくさい』と思いながら空を眺めれば雨が降る。


彼女にとって、願いは叶うもの。

なにか願い事があれば、それは心の中で願うだけで叶う。

それが当たり前だった。

しかし、他の人はそうでは無いのだと、彼女にも分かっていたのだ。

彼女は、自分の力を人に見せることはなかった。


ジギタリスもお年頃の可憐な少女に育ち、愛する人ができた。

彼はとても明るく活発で年相応のやんちゃな一面もあるが、ジギタリスを一途に思い、優しく寄り添う愛に溢れた人だった。


しばらくして、ジギタリスと彼は成人した。

彼はウィザーと戦うため戦士団に入った。

ウィザーとの戦争は日々激化しており、人類の方が劣勢だということを誰もが知っている。

彼はそんな世界を救いたいと、ジギタリスに話をした。


彼女の心は彼の言葉に動かされた。

そして、ずっと隠してきた自身の力のことを彼に打ち明けたのだ。


「私の願いを叶える力は、戦争を終わらせることができるかもしれない」


そして、共に戦いたいと。

ジギタリスは戦士団に入った。


ジギタリスの願いを叶える力は、ウィザーにとても有効的だった。

彼女が願えば、味方は強靭な生命と力を手に入れ、敵はその光の強さに怯んだ。

ジギタリスが戦士団に入ってから、人類の生存圏はほぼ取り戻すことが出来たのだ。


ジギタリスは神の子だと、讃えられるようになっていった。

手塩にかけて育てた弟子には、願いの力によって自分のような不思議な力を宿らせた。

火を、風を、水を、土を。

自然に由来する能力を自由に扱うことができる力を。

彼らは普通の人間とは一線を画した強さを持ち、ウィザーを滅ぼすために多大な貢献をした。


ウィザーとの戦いもついに佳境に入った。

ウィザーが、地下世界から出てくるための大穴を見つけたのだ。

この穴を塞ぐことができれば、人類は元の生活を取り戻すことが出来るかもしれない。

しかし、この大穴を塞ぐ手立てを、ただ一人除いて誰も持ち合わせていなかった。


ジギタリスは言った。


「私の願いの力で、この大穴に巨大な門を作りましょう。そして私は地下世界でウィザーと戦い、決して門が開かないよう守護者となりましょう」


そして願いの力によって、大穴には巨大な門が現れた。

ジギタリスは弟子と共に門の中に飛び込み、その巨大な門を閉じた。


そうして、地上世界には平穏が訪れたのだった。



ーイオンの手記



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