剣士の選択
森杉 花奈(もりすぎ かな)
剣士ゼディル
剣士ゼディルは絶対絶命に陥っていた。
一対一の決闘に持ち込んだまでは良かったが
相手に技量と背丈で劣っていた。そして決闘
で勝敗を決めようとしたことを、心の底から
後悔した。くそ。こんなところでくたばって
たまるか。追い詰められた彼はある作戦を
思いついた。
「どこ見てんだよ。こっちこっち」
彼はわざと頭上に隙を作った。相手が振り
被って頭を狙ったその隙に、彼は胴体をえぐ
ったのだった。
「覚えてやがれぇ」
相手は一目散に逃げて行く。
「おととい来やがれ」
彼は剣を鞘に収めたのだった。
そもそもこんなことになったのは、誰のせ
いか。ゼディルは思う。おやっさんが、荒く
れどもに囲まれて助けを求めてきたのだ。
また賭け事かな。理由はどうあれ、酒場のマ
スターはゼディルにその場で助けを求めた。
強いゼディルに荒くれどもはかなわないと察
した。そして荒くれのボスと一対一の決闘に
なったのだった。致命傷は与えなかった。報
復に来ない程度に、ダメージは抑えた。報復
に来るとしても、それはおやっさんの問題で
ある。ゼディルには関係ないことだった。
「報酬は一万ゴールドでいいかね」
「もう少しはずんでくれよ」
「わかった。一万五千出そう」
「それでいいよ」
「よし。決まりだな」
一万五千ゴールドを手にしたゼディルは、
酒場を後にしたのだった。
旅籠屋ルーティスは漁師達で賑わっていた。
大漁の船が帰って来たらしい。ゼディルは美
味しい魚料理にありついていた。
「ねぇ。ゼディル。酒場でひともめあったそ
うじゃない?」
自分と同業の剣士ファンナが話しかけてきた。
「面倒事はほどほどにしておきなさいよ」
「仕方なかったんだよ。おやっさんの頼みだ
からさ」
「ふーん。まあ良いけど。今夜は漁師船が
帰って来たそうじゃない。悪いことは忘れて、
楽しんじゃいなさいよ」
「ああ。そうさせてもらうよ」
「じゃあ、またね。ゼディル」
「またな」
剣士ファンナはどこかへ行ってしまった。
自分もそろそろ部屋へ引き上げよう。
ゼディルは今日の疲れを存分に癒したのだっ
た。
翌日ゼディルは酒場にいた。今は戦争も起
こってないし、剣士で傭兵でもあるゼディ
ルは仕事がなかった。ギルドの仕事でも探
そうと思ったのである。ギルドには要人警
護、荷物運び等、様々な仕事があった。
だがゼディルはどの仕事もする気がなかった。
昨日一万五千ゴールドを手にした為だった。
「ゼディル。昨日はお父さんを助けてくれて
ありがとう。私、昨日は酒場にいなくって
後で聞いたのよ」
酒場のマスターの娘のメリエルが話しかけて
きた。
「大したことはしてねーよ」
「お父さん。あの連中には頭を痛めてたのよ。
本当にありがとね」
メリエルはゼディルに頭を下げた。
「いいってことよ」
メリエルはゼディルに上等の酒を振る舞った。
これで良い。いい加減に酔いながら、ゼディ
ルはメリエルの笑顔が守れたことを嬉しく思
うのだった。
剣士の選択 森杉 花奈(もりすぎ かな) @happyflower01
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