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「今でも覚えているよ。君との初見を。〝人を探す方法を教えろ〟だなんて、この仕事に携わって初の依頼だったからね」
「‥‥」
「対象を知られたくないのか、教えられない理由があるのか知らないけれど、実に興味深いものだったよ」
張り詰めた空気が、外部から遮断された空間に漂う。
空気さえ震わすほどの威圧感を醸し出す男だ。常人であれば安易に臆すだろう。
戦闘中ですら一切の気配や殺気を感知させないことで有名な男が、確かな〝怒り〟を露わにしている。
そんな危機的状況であるというのに、楽しげに笑う男はもはや狂人としか言いようがないだろう。
「あれ、もしかして怒っちゃった?ごめんごめん、つい気になっちゃってさ〜」
この男が感情を露わにすることは極めて珍しい。
珍しいからこそ、価値がある。
隙を見せない男の唯一の〝地雷〟とでもいうべきか。
「ーー人としての器さえも捨てたいのならそう言え。ただの記憶媒体の代用品でしかないその脳さえ無事なら幾ら他の箇所が破損しても問題ないだろう?」
「‥‥」
「近場に一人、居場所までは探れないがもう一人いるな。今更人員を増やして何を企んでいるのか知らないが、まさか同じ過ちをもう一度繰り返すつもりじゃないだろうな」
「‥‥」
「身の程を弁えろ、黒猫風情が」
要するに、これ以上詮索するなら脳以外の部分を破壊するという脅しだ。
敢えて回りくどい言い方をするのは、本気で実行するつもりがないことをこちらが理解している上で釘を刺すためだろう。
「君の言い分は尤もだけど、まあ許してくれよ。これが情報屋としての僕の性分なんだ。めぼしい情報があるのにそれを易々と見過ごしては、僕にはこの〝器〟を繋ぎ止めるだけの価値もなくなるよ?」
「‥‥」
「でも、生まれてしまったからには死に際くらいは選びたいからね。君への詮索はこのくらいにしておくよ」
「‥‥お前。自分がまともな死に方ができるとでも思っているのか」
「まさか、だから敢えて〝死に方〟と言ったんだよ。出来ることなら、死に方くらいは自分で決めたいかな〜って。とはいっても、特別執着があるわけでもないから安心してね」
「‥‥」
「欲を言えば、可愛い女の子に膝枕されながら安らかな眠りにつくっていうのが理想だったりするんだけど。君はどう思う?」
「‥‥心底どうでもいい話だ」
話が脱線すると同時に、用済みだと言わんばかりに踵を返す男。
「ーー無駄足にさせたお詫びも込めて、一つだけ伝えておくよ。尤も、ただの噂にしかすぎないけどね」
だが、男に足を止める様子はない。
「〝ジャンヌダルクの正体は、年端もいかない少女である〟」
わざわざこんな所まで足を踏み入れた割には、特に反応らしい反応は見せなかった。
それはそうだろう。
なにせこの男は、ジャンヌダルクの正体を知っているのだから。
「僕が情報を売らなかった理由が分かったかい?」
「‥‥馬鹿げた話だ」
「僕もそう思うよ」
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