近所の公園
公園で出会った七緒とまつりは、それから仲良く話すようになった。
引っ込み思案なまつりは最初、七緒に声をかけてもらうのを待っていたが、そのうちに自分から駆け寄って挨拶するようになった。
「ななお!」
「まつりちゃん」
その日も二人はベンチに座り、とりとめのない話に花を咲かせる。アイドルが可愛くて。面白い漫画があって。友達がこんな面白いことをして。勉強が難しいけど楽しくて。
アイドルやおしゃれが好きなまつりと、アニメや本が好きな七緒の趣味はあまり重複していなかったけれど、その差はむしろ二人の世界を広げた。
「お母さんが、服選ばせてくれないんだ。ハシタナイってどういう意味?」
「うーん……かわいすぎる、みたいな……?」
「いいことじゃん!」
「そうだよね」
「…………あたし。変なのかな」
まつりがぽつりとこぼす。友達に変なことを言いたくなくて我慢していた辛さが、堰を切ったように溢れてしまった。
「かわいいって思ったらだめなのかな。がまんして勉強しないといけないのかな……」
「ちがうよ!」
返ってきた声の強さに、まつりの目が丸く見開かれる。
七緒は最初に会った日のようにまつりの手を握り、真剣な表情でまつりを見つめた。
「まつりちゃんは変じゃない。だめじゃない。かわいいとか、好きって、ぜったい大事だもん」
「ななお……」
「ちゃんと言おう。言えなくても、ちゃんと……好きって、思おう。お母さんには内緒でもいいから。わたしには教えて」
「…………なんで? いいの?」
「いいの! 友達だもん」
に、っと微笑んだ七緒は、自分の鞄を探る。取り出されたのは魔法のステッキだった。
「……!?」
「えへ」
七緒は照れた表情で、二年ほど前に放映していた魔法少女アニメのステッキの玩具を握る。スイッチを押すと杖の飾りがきらめき、可愛らしい音が鳴った。
「わたし、魔法少女になりたいんだ」
「……魔法少女に」
「うん。……わ、わかってるよ? アニメだもん、ほんとじゃないって。でも、なりたい気持ちはほんと。大人になったら、人を助ける人とか、おもちゃを作る人とか、声優さんとか……魔法少女じゃなくても、そういう人になりたいなって思うの」
「…………ななお、かっこいい」
まつりは知らない。
七緒がその想いをいつから言葉にできるようになったのかを知らない。学校で口にして笑われたことも、泣きながら祖母と共にアニメを見返したことも、一人で杖を握り締めていた夜も知らない。
「えへへ。……だからね、まつりちゃん」
ステッキがゆっくりと振るわれる。七緒の仕草に迷いはなく、何度も練習したのだとまつりにも伝わるほどに。それ以上のことを知る必要もなかった。
「好きってちゃんと言える魔法!」
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