〈忘都〉アテニア/3
丸一日かけてアテニアの記憶を聞いたまつりは、翌日、オリヴィアを伴って街の方へ向かった。
良いアングルを求めてしばし歩く。
「まーでも大聖女ちゃんの気持ちもわかるわ。めっちゃ綺麗だもんね、〈白峰〉」
「はい。常に雪が積もって白いことから名付けられたといいます。登るには険しい山ですが、美しい」
「うちの地元もさ、富士山ってでっかい山があって。常に見えてっから、他の土地行って見えないと方向感覚狂うんだよね」
「なるほど……そのフジサン山も美しいのでしょうね」
「ん。見た目、結構似てるかも? 〈白峰〉の方がちょーっと鋭い感じ? かな?」
コンパクトを開いて鏡を山へと向ける。遠い〈白峰〉はまつりの手のひらに乗るほどのサイズに見える。その鋒を触るような振りをして、映えるポーズを探す。
「大聖女ちゃん、色々旅してたんだよね。あたしと同じような文句言ってたりして。『〈白峰〉が見えないと迷うんだけど!』みたいな」
「……まつりが道に迷うのは、興味を持ったものをすぐ追いかけるからでは。リプタの街でも急に道を外れたと思ったら露天商にふらふらと」
「いや違うんだってあれはマジで布が綺麗でさ」
「大聖女様はそのような不用意な行動はしないと思います」
「ガチ注意かよ。ほんと、大聖女ちゃんのこと大好きだよねーオリヴィア」
「前にも言った通り、これは敬意という感情です。……貴女が『ちゃん』などと呼ぶのも許したわけではありませんからね?」
「こわ」
けらけらと笑うまつり。オリヴィアが足を止めて、歩いていく背中を見つめる。
「オリヴィア? どしたん?」
「敬意であるのは間違いないのです。ですが……。…………まつり。貴女はなぜ、そのように。屈託なく、好きと言えるのですか」
まつりは振り返るかどうか少し悩んで、結局背中を向けたまま答えることにした。
「なんで、かぁ。オリヴィアって結構、理由とかそういうの大事にするよね」
「いけませんか?」
「んーん、やっぱり頭いいんだなって。なんで、好きって言えるのか、ね。ふふ……長い話になるぜ、相棒」
まつりが振り返り、にやりと笑う。その笑みの意味がわからないままオリヴィアは頷いた。
さらに少し歩き、座りやすそうな岩を見つけて二人で座る。
「前に話したっけ? あたし、大切な友達がいてさ」
「別れる時にきちんと話ができなかった、という?」
「そそ。ななお……七緒っていう女の子で」
峻険な〈白峰〉からは冷たい風が吹く。その鋒を遠く望みながら、まつりは昔の話をぽつりぽつりと語り始めた。
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