第3話 <成長>

 退

                    (ゲーテ)


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 目が覚めた。

 

 見たこともない部屋にいる。スラムにいる時よりは居心地がいいがそれでもどこか貧相だ


 周りには子供達がいた。年は10歳前後、同じぐらいだろうか。

 少ない割合だが、種族が違う子供もいる様だ。


 お腹が熱い。果たしてジェルバンの言っていたことは正しいのか、今は確かめようがない。


 しかし、体は少し丈夫になった気がするし。すこしばかり視野が広がった気がする。


 あくまで気がする程度であるが。小さな変化でも強くなったことは強くなったのである。


 アルテは満足していた。


 時間はある。焦らずに行こう。生きていればどうにでもなる。


 アルテは前世から混乱しそうになった時、精神安定剤を打ち込むかの様に自分自身にポジティブな言葉を送っていた。


 それで現状の不可解な状況に慣れるのかはわからないがやらないよりはましであろう。


 部屋にいた1人の女の子が話しかけてきた。


 「どうも、不運だね、こんな所連れて来られちゃって。」


 本当に同情している様だった。

 この場所の情報が少なすぎるので率直に聞いてみた。


 「ここは何をする所なのかな?」


 その女の子は驚いたように答えた。


 「なんにも知らされないでここに来たの!?んー、簡単に言えば私たちは子飼いの羊って感じかな。」

 

 女の子は続けて言った。


 「この施設は私たちに力を与えてくれる、訓練はキツいけど、力をつけるためには最適って感じかな。一定の水準まで力をつけて認められたら、外の世界に出ることができるって聞いたね。この施設で私たちがかける代償は命、死んじゃった子達の代わりに補充されてくから、好き勝手教育できるって仕組みみたい。」


 女は最後に言った。


 「まぁ、外に出ても上の人たちに管理されて暗殺者の真似事をさせられるって聞いたけど!」


 笑いながら言う女を不気味に思いながら、教えてくれたことに礼を言った。


 聞いた話から考えるに、ジェルバンは差し詰め調達係ということになるのか、うまく乗せられてたってわけだな。


 とりあいず力をつけるまではここから出れないと分かったが、いつになったら訓練が始まるのか、休憩などはどうなっているのかなど、わからない事が多い。


 俺は、他の子供より知恵あると自負している。できるだけ最善の選択を取れる様に基礎情報を集めていこうと決めた。

 

 思考をまとめていると女は話しかけてきた。


 「今は夜で寝る時間で、朝になったら訓練が始まるから早く寝て体力回復した方がいいよ?」


 親切で言ってくれたのかはわからないが感謝を伝えておこうと思った。


 「ありがと、そうするよ。」


 周りを観察すると寝ている人もいれば、起きて何かやっている人、体を鍛えてる人がいた。


 俺も体を鍛えるぐらいならできるが、魔核を食べて少し強くなったとはいえ、元が貧弱なのに変わりはなく。明日の訓練に響くといけないので目をつぶり眠ることにした。


 もちろんこんな環境ですぐに眠れるわけもないが、目をつぶり集めた情報を整理し、思考を加速させているうちに眠りについた。









 3回鐘が鳴った。

 目を覚まし周りを見渡すと、みんな起きている様だった。


 少し経つと鐘が1回鳴った、みんなが一斉に外に出る。

 ついてくことにした。

 

 どうやらここで体力の基礎訓練をする様だった。


 教官らしき人が話す。


 「ランニングから始める、10週終わったものから休んでよし。始め!」


 その掛け声と共に子供達がトラックの周りを走っていく。

 俺はついていくことにした。

 もちろん貧弱である俺は多くの子供達がいる中でも、10 週を終わらせるのはビリに近かった。


 一番遅れている子が10週を終わってから、教官はみんなを集めて次のメニューに行った。


 似た様なことを午前中行い。

 最後の体幹を鍛える訓練を終えた後、教官はみんなに紅コインを一枚渡してきた。


 そして教官は言葉を発した。


 「エル、前に来い。」


 体力訓練が始まった時から、全ての訓練で好成績を出していた子だと覚えている。

 その言葉と共にエルに追加で紅コインを2枚渡した。


 何に使うかよくわからないがもらっておいて損はなさそうだと思った。


 その後は教官は解散と言い渡し、各々がある建物に向かっていった。


 俺もそれについて行き入るとそこにはご飯の匂いが漂ってきた。


 食堂か。ここで皆コインを使っていた。

 皆が注文するのに習い俺は列に並び、順番が来るまで待った。


 俺の番になった時に紅コインを一枚渡し、一番量のあるものをお願いした。


 皆と違い、うまそうな料理ではなかったが、体力をつけるためにも今は気にしてられる場合じゃないと認識していた。


 



 午後は、各々が選択した訓練を受けれる様だった。

レパートリーはそれほど多くはないが興味深い内容もあった。


 聞いた感じによると、体術、剣術、魔術の中から選択をする様だった。


 魔術はすぐには身につかない可能性が高いと踏み、剣術か体術で悩み、体術にすることにした。


 午後の選択の訓練は火が落ちる前に終わり、コインを受け取った後、部屋に皆戻って行った。


 夜のご飯は各々が決められた時間までになら好きな時に行ける様だ。


 俺は部屋に戻り、体力を高めるために体を酷使するトレーニングを続けた。


 不味い飯を食い、体を酷使する。

 不味い飯を食い、体を酷使する。

 不味い飯を食い、体を酷使する。

 不味い飯を食い、体を酷使する。 

 対人訓練でボコボコにされる、まずい飯をたくさん食べる。

 対人訓練でボコボコにされる、まずい飯をたくさん食べる。

 不味い飯を食い、体を酷使する。


 

 1週間のうちに2回午前に対人訓練の日、残りは体力作りというスケジュールだった。


 それを一ヶ月続けた。


 楽しくはなかった。


 だか、体力は明らかに増加した。


 筋力も増えただろう。


 ある程度の技術も身につけた。


 成長を実感できている。


 死から遠のく感覚が俺の気持ちを昂らせていった。


 



 

 


 

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