第2話 <安定>

 

               (イマヌエル•カント)


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 一瞬だった。

 

 俺は扉の裏に隠れていた。


 ダンツが帰ってきた。大きな足音だ。


 俺の右手にはナイフを持っていた。体格は負けている、精神が犯されていたとしても、素手で戦う様な阿呆ではなかった。


 ドアを開けた。


 ダンツが上機嫌に部屋の中を歩いて行った。


 後ろから、隙をついて、冷静に首の神経を狙い刺した。


 「ツッッッ!…」


 声にならない悲鳴を聞いた。

 体が地面に崩れ落ちた。

 絶命したかわからない。

 だから、だから!とにかく刺した。

 体を刺した、腕を刺した、足を、関節を、指を刺した。

 絶命したのかわからない。判断ができないほどに精神は安定していなかった。

 

 でも、頭は刺さなかった。


 依頼だからね。


 力が欲しいと思った。


 頭を切った、床は血でいっぱいだった。


 頭を袋に入れ、自分の体を綺麗にして、家を出た。


 精神を落ち着かせてたら、夜になっていた。


 ダンツの死体を片付けるのを忘れていたが、特に気に留めなかった。


 ジェルバンに会いに広場に来た。

 葉巻の様なものを吸っていた。嫌いな匂いだった。

 静かに話しかけた。


 「依頼達成してきました。」

 

 頭が入っている袋を渡した。


 「やるではないか、改めて問おう。力が欲しいか?」

 

 精神が安定している。極めて良好だ、さっきまではおかしなことをしていたと思う。

 これからの選択は正しく俺が決めたことになるんだと、理解していた。


 乗り掛かった船だと思っている。普通だったら、もっと楽な道を進みたい性分だった。少し耐えてたら、打開できる策を考えていた。だか、殺してしまったからには、もうあそこには戻れない。


 選択は一つしかなかった。


 冷静に答えた。


 「欲しいです。」


 ジェルバンはその答えを確信してたかのようだった。


 「いいだろう、これを食べろ。」

 

 紫色の玉だった。


 食べ物なのかと疑った。


 だが、知っていたことだ。


 リスクが生じないものに価値はない。

 俺はこれを食べた結果何を失うかわからないが、得る力の大きさは確信していた。


 答えは決まっていた。


 悩んでいると思われていなたのか、ジェルバンは玉について説明をした。

 

 「これは、お前の土台を作ってくれる魔核だ、うまく適合すればお前の求めてるものに一歩近づくだろう。」 


 続けてこう言った。

 

 「この魔核と適合できるかは、精神の強さが物を言う。今までのところ、生き残る確率は3割と言った所だ。」


 精神の強さで変わるのか。


 俺は安心した。


 俺は今、<安定>した精神だからな。


 客観的に見れば狂っている様な考え方だろう。


 アルテが静かに発した。

 

「いただきます。」

 

 腹の中、奥深く、心と言われるであろう何かが、犯されている。


 抵抗はしない。受け入れることが正解であると、気づいた。


 意識が混濁していく。


 アルテは気絶した。


 ジェルバンは意識がないアルテに語りかけた。


 「アルテここからが地獄の始まりだぞ、機会はお前にやった、掴み取るかはお前次第だ。」


 


 

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