アンラック・プライド

蛇足

第1話 <片鱗>

 

                 (ラリー•ペイジ)


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 混濁する記憶。

 周りの建物は老朽化が進んでおり、道路には生きているか死んでいるかわからない者たちがまばらに座っている。

 持っている記憶で推定するのなら、ここはおそらくスラム街と呼ばれる様な場所なのだろう。


 自分自身の記憶では年は20歳後半だったはずだが、手足は縮んでおり、飢餓感が神経を蝕んでいく。

 おそらく生まれ変わったのだろうか。不思議とそれほど驚きはなかった。周りの悲惨な状況を見て逆に精神が安定し、驚かなかったというのは果たして正しいのだろうか。


 9〜12歳ぐらいの子供達が広場の様な場所に集まっている。

 怪我をしている様な者も多く、腐敗臭が漂っている感じはするが、この体の持ち主がこの状況に慣れているのか息は通常通りだ。


 俺たちとは違って体は一回り大きく腰に剣を持っている男が言葉を発した。


 「餓鬼共、今日の仕事は終わりだ、自由に過ごすといい。」


 周りにいる子供達が手に持っている赤い札を一回り大きな男の近くの女性に渡し、貨幣やパンを受け取っている様だった。


 飢餓感からか無意識にズボンのポケットに手を入れると赤い札を一枚持っていた。


 同じ様に女性に渡し少々のお金とパンを受け取った。

 安全なところに行きたい、休息を取りたいその思いが強くなっていった。

 持っている記憶を辿りに道を進み、今にも崩れそうな建物についた。

 入ると男が2人女が1人いた。


 年齢ば自分と同じぐらいだろうか、体格は子供にしては大きいと感じる見た目から横暴な性格が見て取れるものが話しかけてきた。


 「おい、アルテ遅かったじゃねぇか。とりあいず貰った報酬だせ。」


 この男の言葉に恐怖を抱いているのか体は震え、慣れた手つきでパンと貰った貨幣の半分を男に渡した。


 「おい、いつもより少ないじゃねぇかふざけてんのか?」

 

 少なく渡したのがバレた様だ。

 男は蛇の様な睨みを効かせ威圧をしてくる。

 体は震えるが所詮は子供どう乗り切るか考えた。

 自分の体の状況、スラムという環境、おどおどした性格全てを考慮し辻褄が合う様に発言をした。


 「ごめん。。。帰ってる時に知らない子供に襲われちゃって、僕、全部取られたくなかったからこれで全部だって言って、少し渡した。」 


 おどおどした様な口調に自我が弱そうな発言、この体の元持ち主には嫌になる。


 男はアルテが自分に嘘をつくことができないことを日々の生活や性格から判断したのか深く聞かなかった。

 代わりに男はアルテのお腹を一発殴った。


 「糞、俺の金が、次は殴られてもいいから金だけは全額持って帰ってこい。」


 イライラした様に言葉を発した後、パンの半分とお金を全て取り部屋の奥に消えていった。

 

 部屋に残っていた女が俺に語りかけてくる。


 「仕事お疲れ様、あの怒りようじゃ、あなたは今日ご飯食べれそうにないし。パンは全部いいわよ。」


 そう言い残った女は自分の部屋に戻り、最後に残ったもう1人の男は何も発さずに部屋に戻って行った。

 俺はパンを手に取り自分の部屋であるだろう場所に入った。

 古臭いベットが置いてあった、思考をまとめる必要があるそう思いパンを食べ、ベットに横になり自分がどのような立場に立っているのかを考え始めた。


 体が求めている安全な休息に答えた結果なのか、元の体の持ち主が持っていた記憶を曖昧に思い出してきた。


 名前はアルテ、歳は不明だがおそらく10歳ほどだと自認している。アルテの性格上1人で過ごすのが難しいと自分自身で思っていたのか、盗みや仕事をして働いた賃金をこの家のボスの様な男<ダンツ>に渡して共に生活していた。


 もう1人の男は名前は思い出せないが寡黙な男だったことを覚えている。


 女の方は名は<アリア>、気が強くダンツとは親密な様子で頭が回る女だということは覚えていた。


 そして最初に広場にいた時に仕切っていた男の名は<ジェルバン>、顔は胡散臭いが体格は良くいかにも強そうな男だった。

 仕事をスラムの餓鬼どもに斡旋し始めたのも2週間前ほどだった。

 そしてアルト自身が思っていたのは報酬の破格差だ。パンは普通だがもらえるお金の量がスラム基準にしては多すぎた。


 仕事の内容と言ったら、荷物運びや、よく分からない葉っぱや薬を飲み込む治験の様な仕事まで幅広くジェルバンから紹介されていた。


 子供達は決められた時間に広場に行き、毎日違った依頼を受け取り、達成したら報酬をもらえる。

 子供達自身も依頼の内容はかなり怪しく不気味に思っている者は多いだろう、しかし誰もがその報酬の多さに意見を言う者がいなかった。

 アルト自身もそうであった。


 もちろんこの2週間ちょっとで最初に依頼を受けていた子供が途中からいなくなったと思ったら、別の子供が入ってくるという状況が発生していたが特にみんな気にしている様子はなかった。

 

 そして俺が一番に引っかかっている点はこの仕事が招待制にあること、年が10歳前後を集めていることだった、ジェルバンが直接勧誘し引き受けた者だけが集まっている。


 もちろん、仕事の報酬の旨さはスラムの子供たちの中で広がっており、決められた時間に勧誘を受けていない子供の大勢が、ジェルバンに追い返されていたことを目撃している。


 記憶の混濁が少なくなっていく、思考がまとまっていく。

 前のアルトは毎日死にたくないと思いながら、生きることに貪欲になっていた様だった。

 

その考えが俺の頭を反芻している。


 この男は前世に何があったか分からないが、このふざけた環境を最大限に楽しもうとしていた。


 一旦の目標を馬鹿なガキ共を出し抜いて前のアルト君のために安全に生きる生活ってやつを実現させようかな。


 そんな風に考えた後、記憶の混濁が完全になくなった。しかし、考えすぎた結果からなのか頭は熱く意識は朦朧とし、そのままベットの上で早めの就寝をすることになった。。。。。。。






 


 ダンツの声で目が覚めた、寝起きはスッキリしている。

 朝になっていた。

 ダンツはいつも通りの時間に部屋にいるみんなに聞こえる様な声で叫んだ。


 「お前ら朝だぞ、集まる時間だ。」

 

 その言葉を合図に各々の部屋からみんなが出てきた。


 「とりあいず飯取って、仕事に行ってこい。」


 みんなが集まってから抑揚のない声で話した。

 ダンツは毎朝みんなから受け取った報酬を元にご飯を分配していた。ダンツが多くを中抜きしているので、渡した額に見合ってない内容の時がほとんどだった。

 

 俺の分は用意されていなかった。

 まぁいいかと思い、居心地が悪かったので少し早めに集合場所に行こうとした時にダンツに呼び止められた。


 「アルテ、少し待て。」


 思い出した様に話しかけてきた。

 

 ゆっくり近づいてきて、俺のズボンのポッケに手を入れて隠していたお金を取られた。


 疑問が頭に浮かんだ。昨日は完全に騙せていたはずなのに、周りを見ると隣でアリアがほくそ笑んでるのを見て、アリアが報告したことを理解した。

 

 どう言い訳をするか、どうすれば乗り切れるのか。


 その様な考えの中で言葉を返すのが遅れ、ダンツがわかりやすく怒った様な顔で近づいてきた。


 「待ってくれ!ダンツ」


 俺の言葉を無視するように腹に一発決め込んでから、倒れた俺をボコボコにするように殴った。

 もちろん抵抗しようとしたが、生まれ変わったばかりで体格差もある中、貧弱なアルテの体でどうすることもできないままだった。


 「報酬を俺がもらうことは、お前がここで生き残るための正当な対価なのに、それをネコババするのは話が違うんじゃないのか?」


 ダンツは諭す様に言ってきた。


 「まぁいい、お前の考えてることなんてお見通しだからな。次はないと思え、早く仕事に行ってこい。」

 

 嘘をつけ、と思った。しかし、ここで反論するのもまた違うだろう。


 よろよろ歩きながら集合場所へ向かった。


 憎悪が止まらなかった。ダンツやアリアは言うまでもなく、自分自身の何もできない体が憎かった。こんなはずじゃないと思った。技術があるにしても、体が思う通りに動くことができないとこうなってしまうと認識した。


 

 そんな思考を巡らせる中で気づけば広場に着いていた。


 子供達も集まっており、依頼内容をジェルバンに1人ずつ聞きに行っていた。


 俺はつくことが遅れたこともあり、みんなが聞くのを待って最後に話しかけに行った。


 「依頼をお願いします。」


 ジェルバンは見透かし様な目で言葉を発した。


 「浅いな、体は貧相な癖に考え方だけは一丁前な餓鬼。」


 俺は目を見開いた、怒りが込み上げてくる。しかし、理性を働かさなければいけない。こいつには絶対勝てない今は反抗するなと。


 「その憎悪、眼は気に入ったよ。力が欲しいか?」

 

 意味がわからなかった、果たしてこれで欲しいと言って力というものはすぐに手に入るものなのか?

 俺はそして手に入ったとしても、対価に何を払わなければいけないかを想像した。

 俺の理性は受け入れるなと言っている。いつもの俺ならこんな馬鹿げた話すぐに無視する。


 あいつらを蹴落とす計画はできている。こんな提案受ける必要がないと、しかし俺の計画だと時間がかかってしまう。


 俺の体が憎悪に満ちている。早く復讐をしたいと、こんな抑圧されている環境で楽しく毎日を送れるわけがないと。


 体がゆうことを聞かない感覚だった。理性がはたらなくなった。


 突発的に言葉がでた。


 「欲しい、 生きるために欲しい! 馬鹿にされないために欲しい!! 楽しむために欲しい!!! 死にたくないから欲しい!!!! 何でもいいから力が欲しい。。。」


 焦っていた。こんな言葉を言うつもりはなかった。


 この慣れない環境に適応できているんだと錯覚していた。こんな馬鹿げた言葉が出るなんて。


 自分でも理解できている、頭の中では冷静な意見が脳を周っている。しかし体がゆうことを聞かない。なにかに縋りたい気持ちであった。


 ジェルバンがゆっくり答えた。


 「いいよ、とりあいず人を1人殺してきて。それが今回の依頼だ条件はね、君より体格が良い子にしようか。」

 

 淡々と俺に告げてきた。


 麻薬に犯された体に拒否する判断なんか残っていなかった。


 「わかりました。」

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 冷静になってきた。ジェルバンからは変な薬を渡された、飲んでおけと。


 以来の期間は今日の21:00時まで。首だけを持ってこいということだった。


 人を殺すのか?

 前の世界では、悪いことはやってきたつもりだ。

 だが、人は殺したことがない。

 結果は変わらないのに、意味のない考えが頭にまとわりついてきた。


 俺は家に戻り中を見る、誰もいない様だった。


 自分の部屋に入り、ベットを壊した。


 渡された薬を飲んで。


 時が過ぎるのを待った。


 ダンツが帰ってきて。


 ダンツを殺した。


 

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