第3章 第4話 おしゃべりな魔物とユウマの“勝利”

マー君と母魔物が無事に再会し、場の緊張感は一気に和らいだ――はずだった。しかし、状況は予想以上に妙な方向に進んでいくことになる。


「本当に助かりましたわ、あなたたちのおかげでマー君が無事に帰ってきましたの。私ったら、ついお散歩に夢中になってしまって、気づいたらこんなに離れてしまっていたんですのよ。いやはや、あの子ったら少し目を離すとどこかに行ってしまうのです。」


母魔物は息つく間もなく、矢継ぎ早に話を続けていた。優雅な声色とは裏腹に、その饒舌さには圧倒されてしまう。私は何とか微笑みを保ちながら、彼女の話に耳を傾けていたが、次第に苦笑いが浮かんでいた。


「ええ、まあ、そうなんですね…マー君、無事でよかったです。」


私は彼女の話に相槌を打ちながら、内心では「この話、いつまで続くんだろう…」という気持ちが芽生え始めていた。横で見守っているリグルとザグルも、母魔物の饒舌さにすっかり呆れているようだ。


「兄者、あのお母さん、ずっと話してるよ…。リーナ、大丈夫かな?」


リグルが心配そうに囁くと、ザグルも少し苦笑いを浮かべながら答えた。


「弟者よ、リーナの忍耐力が試されているようだな。あれは手ごわい相手だ。」


そんな中――。


「やあっ!これでも食らえ!」


ユウマだけは、依然として母魔物に向かって剣を振りかざしていた。母魔物が一切気に留めていないにもかかわらず、彼は全力で戦っている(?)つもりだった。


「ユウマ、もういいのよ…」


私は何度もユウマを止めようとしたが、彼は「僕が倒さないと!」と言い張り、ますます真剣な表情を浮かべて剣を振り続けている。母魔物はおしゃべりに夢中で、ユウマの攻撃にはまったく気づいていない。


「それでですね、マー君がまだ小さい頃は――」


母魔物は話を止めることなく、次々とマー君の幼少期の話を展開していた。その長い話に、私はますます苦笑いが浮かび、どうやって切り上げればいいのか頭を悩ませていた。


「そろそろ…帰られるんですよね?」


私はやんわりと会話を終わらせようと試みたが、母魔物はまだまだ話す気満々のようで、マー君の成長記録を延々と語っていた。リグルとザグルも、完全にうんざりした顔でため息をついている。


「ふんっ!とどめだ!」


そんな中、ユウマは最後の一撃を決めようと力強く剣を振り下ろした。しかし、そのタイミングと同時に――。


「では、私たちはこれで失礼しますわ。マー君、お別れを言いなさい。」


母魔物がふっと姿を消し、マー君もそのまま森の中に溶け込むように消え去った。その瞬間、ユウマは驚いた顔をして振り返り、誇らしげに叫んだ。


「見ましたか、リーナ先輩!僕、ついに魔物を倒しました!」


彼は自分がとどめを刺したと信じ込んでいる。実際は母魔物が消えただけなのだが、そのタイミングがあまりにも絶妙だったため、ユウマは完全に「自分が倒した」と錯覚していた。


「ユウマ…すごいわ!やったわね!」


私は微笑みを浮かべ、ユウマを褒めることにした。彼の自信を無駄に壊すわけにはいかないと思い、私はあえて真実を告げるのをやめた。


「兄者、またユウマが誤解してるよ。」


リグルがため息をつきながら言い、ザグルも苦笑いしながら頷いた。


「弟者よ、これが彼の成長の一環だと信じよう。」


二匹の竜は呆れつつも、ユウマの自信に満ちた姿を見守っていた。私は内心で苦笑いを浮かべながらも、ユウマが得意げに胸を張る姿を微笑ましく見つめていた。

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