第3章 第3話 迷子の魔物と母の再会

目の前で泣き崩れている巨大な魔物――最初は強敵だと思っていたが、その正体はどうやら別のものだった。魔物は涙をボロボロと流しながら「ママー!」と時折叫び、まるで迷子の子供のようにすすり泣いていた。


「えっと…もしかして、迷子なの?」


私は困惑しながら、泣き続ける魔物を見つめた。さっきまでの威圧感はどこへやら、ただの迷子の子供が母親を探している姿にしか見えなかった。


「リーナ先輩、何をしているんですか!僕が倒しますよ!」


ユウマだけはまだ状況を理解していないようで、剣を握りしめて魔物に向かって突進しようとしていた。


「待って、ユウマ!この魔物、たぶん…倒す必要はないわ。」


私は必死にユウマを引き止めようとするが、彼は「僕がやらなきゃ!」と言いながら剣を振りかざそうとしている。


「ママー…ママー…」


魔物は泣きながら、時折その言葉を漏らしていた。私と竜兄弟はますます困惑し、どう対処していいのか分からなかった。


「兄者…これ、どうする?」


リグルが困惑した顔でザグルを見上げた。ザグルも同じように、答えに困っている様子だった。


「弟者よ、これは初めての経験だな。泣いている魔物にどう対応すればいいのか、私も分からん。」


私たちがどうするべきか迷っている最中、突然――。


「マー君!」


森の奥から、さらに大きな声が響いてきた。私たちは驚いて振り返ると、そこにはさらに巨大な魔物が姿を現した。その姿は、今まで見た魔物の中でも群を抜いて大きく、鋭い爪と牙を持っていたが、何とも優しい表情を浮かべていた。


「マー君、ここにいたのね!」


大きな魔物が泣き崩れている魔物に駆け寄り、そっとその頭を撫でた。泣いていた魔物――どうやら「マー君」という名前らしい――は、母親と思しき魔物にしがみついて涙を流していた。


「ママ、迷子になっちゃった…怖かったよ…」


「大丈夫よ、マー君。もう心配ないわ。」


母魔物は優しく微笑み、子供の魔物を抱きしめた。それを見て、私たちは唖然として立ち尽くしていた。まさか、ラスボス級だと思っていた相手が、ただの迷子だったなんて――こんな展開、誰が予想できただろう?


「リーナ先輩、何をしているんですか!今がチャンスです!」


ユウマだけは状況をまったく理解していない様子で、母魔物に向かって剣を振りかざそうとしていた。私は驚いて彼を止めようとしたが、間に合わず――。


「えいっ!えいっ!」


ユウマは母魔物に剣で何度も攻撃を加えていた。しかし、母魔物はそのことにまったく気づいていないのか、まるで蚊が止まったかのような反応しかしていなかった。


「ユウマ!待って、今は違うの!」


私は慌てて彼を止めようとしたが、ユウマは一心不乱に剣を振り続けていた。


「マー君を見つけてくださって、本当にありがとう。」


母魔物は私に向かって優しく微笑み、感謝の言葉を述べた。私は彼女の言葉に驚きながらも、何とか笑顔を返そうとしたが、後ろでユウマが剣を振りかざしている姿がどうしても視界に入り、落ち着かなかった。


「いえ、こちらこそ…あの、その…」


私はどう答えればいいのか迷っている最中、ユウマの「ペシペシ」という音が響いていた。母魔物はまったく気づいていないようで、ユウマの攻撃は全然効いていないようだった。


「兄者、ユウマ…気づかれてないよね?」


リグルが呆れたように言うと、ザグルもため息をついた。


「弟者よ、あれでは倒すどころか、存在さえ認識されていないな…」


その場の空気は完全に混乱していたが、とりあえずマー君が無事に母魔物と再会できたことを喜ぶべきなのだろうか?私たちはそんなことを考えながら、ユウマの無謀な攻撃を止める方法を考えていた。

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