第3章 第2話 雑魚討伐と予期せぬ涙
ユウマが次々と雑魚魔物を討伐していく中、私たちはさらに森の奥へと進んでいた。彼は自信に満ち溢れ、剣を振るうたびに成長しているように見えたが、私はまだ無意識に手を出してしまっている自分に悩んでいた。
「リーナ先輩、次の魔物も僕が倒しますよ!もうすっかりコツが掴めた気がします!」
ユウマは振り返り、誇らしげに笑みを浮かべた。彼の自信は嬉しいが、私は内心で「次こそ、ユウマが本当に自分の力で倒してくれたら…」と祈らずにはいられなかった。
「そうね、ユウマ。すごいじゃない。けど、気を抜かないで、油断は禁物よ。」
森の奥深くへ進むにつれ、雑魚魔物との戦いも少しずつ厳しさを増していったが、ユウマはその度に勇気を持って立ち向かい、少しずつではあるが確実に成長していた。
「兄者、ユウマは本当に成長してるね。」
リグルが微笑んで言うと、ザグルがゆっくりと頷いた。
「確かにそうだ。だが、リーナの過保護が続く限り、ユウマが自信を持てるかどうかは別問題だな。」
竜たちの会話が耳に入るたび、私は心の中で反省しつつも、どうしても彼を放っておけない自分がいた。ユウマが怪我をしたり、失敗して自信をなくすことを考えると、どうしても手を出してしまう。
「さあ、もう少し進みましょう。ユウマ、次も慎重にね。」
私は彼に声をかけ、再び森の奥へと歩みを進めた。しかし、その時だった。周囲の空気が急に重くなり、冷たい風が吹き抜けた。何かが近づいてくる――今までとは違う、強力な気配が感じられる。
「リーナ、何かが来るぞ…」
ザグルが緊張した声で警告すると、茂みの奥から巨大な影がゆっくりと現れた。その姿は、これまで見てきた雑魚魔物とはまったく違う。鋭い爪と牙、体全体に纏う闇のオーラ。その一見して凶暴そうな姿に、私はすぐにただの雑魚ではないと悟った。
「こ、これがラスボス…?」
ユウマが剣を握りしめ、目の前の魔物を睨みつけた。彼の手がわずかに震えているのが分かるが、勇敢にも一歩前に踏み出した。
「リーナ先輩、僕がやります!」
再び、ユウマは前へと進もうとしたが、私はすぐに彼を引き止めた。
「待って、ユウマ!この魔物は今までの相手とは違うわ。まずは慎重に様子を見て。」
私の言葉にユウマは少し戸惑いながらも頷き、剣を構えたまま魔物を睨みつけた。私も剣を抜き、いつでも戦えるように構えた。魔物はじっとこちらを見つめ、動きを見せずにその場に立ち尽くしている。
「リーナ、これは…ただ事じゃないぞ。」
ザグルも厳しい表情を浮かべ、リグルも緊張した様子で頷いた。
その瞬間、魔物が一歩を踏み出したかと思うと、突然――。
「ぐすっ…ううう…」
信じられないことに、魔物は急に鼻をすすり始めた。私たち全員が一瞬固まり、次に起こったことに唖然とした。巨大な魔物が、涙をボロボロと流しながらその場にしゃがみ込んでしまったのだ。
「泣いてる…?」
ユウマが驚いた声で呟き、私たちは同じように動きを止めた。凶悪な外見とは裏腹に、目の前の魔物はまるで子供のように涙を流し、嗚咽を漏らしている。
「何…これ?」
私も戸惑いながら、目の前で泣き崩れる魔物を見つめた。これまでのラスボス級の魔物とはまったく違う状況に、どう対処していいのか分からなかった。
「兄者、泣いてるよ…。こんなの初めて見た…。」
リグルが信じられない様子で言うと、ザグルも眉をひそめて答えた。
「弟者よ、これは確かに予想外だ…。どういう状況なんだ?」
目の前に立ちはだかっていたはずの恐ろしい魔物が、いきなり泣き出すという異常事態。全員がその場で動けず、次の一手を考えることすらできなかった。
しかし、この状況が次にどう繋がるのか――私たちはその答えをまだ知らなかった。
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