第2章 第1話 ユウマ、初めての単独挑戦

竜兄弟に言われてからというもの、私は少しずつユウマに自分で立ち向かわせる訓練を取り入れることにした。正直、心の中では「私が守ってあげたい!」という気持ちが渦巻いているけれど、彼の成長のためには必要だと自分に言い聞かせている。


今日の訓練は、ユウマが単独で挑戦する初めての模擬戦だ。今までは私がすぐ横にいて、何かあればすぐに飛び込んで助けていたけど、今日は違う。私が距離を取って見守るだけ。もちろん、心の中ではもうハラハラドキドキが止まらない。


「リーナ先輩、今日は僕が一人でやります!ちゃんと見ていてください!」


ユウマは自信に満ちた笑顔を見せながら、木剣を握りしめて訓練場に立った。その姿が頼もしく見えるけれど、私の中では不安が募る。だって、彼が失敗したらどうしよう…怪我をしたら…そんなことばかりが頭をよぎる。


「頑張って、ユウマ!君ならできるわ!」


私は少し離れた場所から声をかけた。彼に自信を持たせるために笑顔を作ったけれど、実は心の中では「大丈夫かな…」と不安が消えない。


ユウマは訓練相手に向かって剣を構え、模擬戦が始まった。相手は経験豊富な騎士だが、今日は手加減してくれることになっている。それでも、私は目を離すことができない。


「行くぞ、ユウマ!」


相手が剣を振り下ろしてくる。それに対して、ユウマはなんとか剣で防いだ。よし、いい感じ!でも、その後の動きがまだぎこちなく、相手に対してうまく反撃ができていない。


「頑張れ、ユウマ…!」


心の中で必死に応援しながら見守っていると、ユウマが一瞬、バランスを崩したのが見えた。危ない…!そう思った瞬間、相手の剣がユウマの木剣を弾き飛ばし、ユウマが倒れてしまった。


「…あっ!」


私は体が反射的に動き出しそうになったけど、すぐに踏みとどまった。ここで飛び出したら、彼に自立のチャンスを与えられない。そう、これは彼が成長するための試練なんだ。私は唇をかみしめながら、彼がどう立ち上がるかを見守った。


ユウマは驚いた顔をしていたけれど、すぐに自分で立ち上がり、木剣を拾い直した。そして、相手に向かって再び構え直した。その姿に、私は胸が熱くなった。彼は諦めていない。そう、ユウマはこんなところで終わる子じゃない!


「ユウマ…!」


私は心の中で彼に叫びながら、彼が再び相手に立ち向かう姿を見つめていた。相手も少し驚いたようだったが、今度は少しユウマに時間を与えるように攻撃を緩めた。


ユウマは集中し直して、少しずつ動きを取り戻していく。まだぎこちないけれど、彼の目は真剣そのものだ。剣が再びぶつかり合い、ユウマは必死に応戦している。私は彼が次第に成長しているのを感じながら、ただ祈るように見守っていた。


しかし、次の瞬間――相手の素早い反撃で、ユウマがまたしても危険な状況に追い込まれた。彼が今にも倒されそうになったその瞬間、私の手から無意識に攻撃魔法が放たれた。


「えっ…」


気づいた時には、火の玉のような魔法が相手の騎士に直撃していた。敵役の騎士は大きく吹き飛ばされ、転がりながら「またかよ…」とぼやきつつ地面に倒れ込んだ。


「すごい!僕、やったんですか!?」


ユウマは驚いた顔で自分の手を見つめ、信じられないように喜び始めた。私はその瞬間、彼が誤解していることに気づいたけど、言い出せなかった。だって、彼が自信を持っているんだもの。


「そ、そうね…ユウマ、すごいわ!君の力よ!」


私は笑顔を作り、何とかその場を取り繕った。ユウマは自分が攻撃魔法を使えたと信じ込んでいる。それが彼の自信になっているなら、今はそれでいいかもしれない。


「兄者、リーナ、またやっちゃったね。」


リグルが小声で私に耳打ちしてきた。ザグルも「まあ、彼が喜んでいるなら、それで良いだろう」と呟いた。


「そうね…でも、次は本当に彼の力で頑張ってもらうわ。」


私は心の中で反省しながらも、ユウマが誇らしげに胸を張る姿を見て、少しだけホッとした。彼はまだ成長途中だ。それでも、少しずつ前に進んでいるんだと信じている。

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