第2話
放課後、教室に残った凪咲と俺は教卓の前で話し合いを始める。
「凪咲、どうして僕を尾行したりしたんだ」
「それは、太一が私に話したいことがあるんじゃないかと思って」
「残念ながらそれは勘違いだ。僕は凪咲と話したいことなんてひとつもない」
「っ……!?」
凪咲が苦悶の表情を浮かべる。その表情に痛々しさを覚えるものの、僕はきっぱり言わなければいけないと思ってはっきり告げる。
「僕は凪咲とやり直すつもりはない」
そう僕がはっきりと告げると、凪咲は泣きそうな表情を浮かべながら目に涙を溜める。
「……嘘つき」
小さくそう呟くと、頬に涙が流れた。
「私のこと好きって言ったのに」
そう言い残すと、教室を出て走り去っていった。付き合っていたよしみだ。傷つけるのは本意ではないが、こういうことははっきりさせておかないと後々面倒ごとになる。僕は断腸の思いで凪咲に今の僕の気持ちを告げたのだった。
凪咲との話し合いを終え、教室を出た僕は真っすぐに帰宅しようと学校を出る。
だが、ここで僕はまたも目を丸くする。なんと十メートルほど離れた位置に凪咲がいたのだ。まさかまた尾行するつもりだろうか。さすがにこっぴどく振った手前、そんなことはないだろうと思ったが念のため走って学校を出た。百メートルほど走って振り返ると、果たして凪咲は一定の距離を保ちついてきていた。僕は頭を抱えながら、諦めて歩き出す。
僕に注がれる視線を強く感じながら、僕はできるだけ早足で家へ入った。
僕が家に入ると凪咲はしばらく僕の部屋の窓をじっと見つめている。そして、三十分ほど経った後、踵を返して立ち去った。
僕は溜め息を吐きながら優愛に電話する。
「どうしよう。また凪咲に尾行されたんだけど」
「あはは、モテる男は辛いね」
「笑い事じゃないぞ。これ毎日続けられたら精神的に持たないって」
「だったら何か部活を始めてみたら? 今は学校終わって真っすぐ帰るだけだけど、部活始めたら帰宅部の凪咲ちゃんは帰るしかないじゃん」
確かにそれも一つの手だ。だが、今更どこかの部活に所属するなんてことができるとは思えない。馴染める気がしないし、そんな不純な動機で部活を始めても誰も歓迎はしないだろう。
「どうすればいいんだ」
「じゃあさ、あたしと部活作ってみる?」
優愛はそう言うと、口笛を吹いてみせた。
「どういうことだ?」
「だからさ、あたしと二人だけの部活作ってみたらいいんじゃないってこと。アニメ研究会とかでいいっしょ」
「いいのか?」
「あたしも太一とアニメ談義するのは楽しいし、いいよ」
アニメ研究会なら特に何かをする必要もない。うちの学校は部活に対して緩いから、すぐに部活も立ち上げられる。
「よし、それでいこう」
話をまとめた僕と優愛は早速翌日から部活新設の申請をすることにする。
朝学校に登校して、教室に入ると、既に優愛が申請書を記入し終えたところだった。
「書いといたよ」
「じゃあ僕が職員室に持って行ってくるよ」
そうして僕は職員室へ足を運ぶ。視線を感じて振り返ると、凪咲の姿があった。学校でもストーキング行為は続くのか。僕は溜め息を吐きながら、職員室に申請書を提出する。
そして迎えた放課後。僕と優愛は活動場所である第一資料室に足を運ぶと、二人でまったりと過ごすことにする。そうして二人でアニメ談義を始めて十数分、優愛が手洗いに席をった。そして引き戸を開けると、そこに凪咲が立っていた。
「うわ……びっくりした。凪咲ちゃん、どうしたの?」
まさか放課後まで付きまとわれると思っていなかった僕は、凪咲という名前にびくりとする。
「えっと、何してるの?」
凪咲は資料室の中を覗きながら優愛に聞く。優愛は僕を見て溜め息を吐くと、正直に答える。
「部活。アニメ研究会作ったの」
「なら、私も入るわ」
そう言って資料室の中に押し入ると、強引に入部届を書いてしまった。当然、部活である以上、僕たちに拒否する権利はなく、入部を認めることになる。まさか元カノと別れた後も同じ部活で活動することになるなんて。僕がしたこと全て裏目に出て、僕は深いため息を吐きたくなる。
「それで、アニメ? 何を研究しているの」
「えっとね、ただアニメについて話してるだけ」
「私はたぬえもんぐらいしか見たことないわ」
じゃあなんでアニメ研究会に入った。そう突っ込みたい衝動を抑えながら、とりあえず凪咲も楽しめるようにアニメのブルーレイを持ってきた。それを視聴しようということになり、ブルーレイレコーダーにディスクを入れ、アニメを再生する。僕と優愛は既に見たアニメだったが、凪咲は初見だ。どんなリアクションをするのか興味がある。
凪咲はアニメには否定的な立場だったから、僕とあまり趣味が合わなかった。僕がアニメのキャラを推していると、そのキャラに対して嫉妬したし、グッズは捨ててと言われたこともある。当然拒否したが、凪咲がもっと強引な性格だったら勝手に捨てられていたかもしれない。
その凪咲がどんなリアクションをするか、俺は注目して見守る。
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