あまのじゃくな元カノが僕をストーキングしている

オリウス

第1話

 高校生のカップルが破局する割合はおよそ七割らしい。

 高確率で、高校生のカップルは破局してしまうようだ。

 例に漏れず、僕、松岡まつおか太一たいちひいらぎ凪咲なぎさも半年間の交際に終止符を打った。


「それじゃ、もう話し掛けないでね」

「こっちのセリフだ」


 喧嘩別れのように終止符を打った僕たちは、それぞれ別の道を歩いていくことを決めた。

 そんな彼女とはもう学校では二度と話すことはないだろう……そう思っていたのだが。

 放課後、学校を出ると凪咲が一定の距離を取ってついてくる。凪咲の家は俺の家とは方角が違うはずだから、こっちに付いてくるのはおかしい。

 それでも気のせいだと思って気にしないようにしていた。

 何か用事があるのだろう。そう思って無視しして歩き続けたが、それでもやっぱりついてくる。俺は流石におかしいぞと思い、道を変えて本屋に立ち寄った。

 振り返ると、凪咲は付いてきている。綺麗な長い黒髪と目鼻立ちの整った顔がこちらをはっきりと見ていた。

 なんだなんだ。どういうことなんだ。明らかにつけられている。俺に対する嫌がらせか?

 俺は適当に本を物色した後、店を出る。

 振り返ると一定の距離を取って凪咲がしっかりとついてきていた。俺は困惑し、頭を捻る。

 さすがに俺は我慢できずに踵を返す。そして凪咲に近付こうとすると凪咲は俺から距離を取る。

 きりがないと思い、諦めて俺は家に帰った。

 家の窓からカーテンを開けると、いる。電柱の影にじっとこちらを見つめてくる凪咲の姿がはっきりと見えていた。

 俺は恐怖で震えあがり、無視をすることにした。

 これでも一応半年は付き合った間柄。通報するなんてことは俺にはできない。明日学校で事情を聞くしかない。そう決めた俺はその日は眠ることにした。


 翌日、学校に登校した俺はその足で凪咲の元へと向かう。同じクラスということもあり、俺よりも早く登校していた凪咲は友達と談笑している。


「ちょっといいか」


 俺は凪咲を呼び出すと、人が寄り付かない階段裏まで連れていく。


「なによ。話し掛けないでって言ったわよね」

「お前こそ昨日はどういうつもりだ。俺の後をつけたりなんかして」

「つけてないわよ。私も本屋に用事があったの」

「お前、俺の家までついてきてたじゃないか」

「それは……そっちに行きたい気分になったのよ」


 なんとも無理やりな言い訳をする凪咲。どうあっても俺を尾行していたことを認めるつもりはないらしい。

 俺は溜め息を吐くと、なんとかストーカー行為をやめさせようと釘を刺す。


「とにかく、もうあんなことはやめろよ。それだけだ」

「……いいじゃない」

「なんだって?」

「私がどこで何をしてようが、あんたには関係ないでしょ」


 そう強く言い放った凪咲は踵を返して教室に戻っていく。


「なんなんだ」


 俺は呆然と立ち尽くし、頭を掻くのだった。


 教室に戻った俺に幼馴染の女子が話し掛けてくる。


「おす、太一。なんかしょぼくれてない?」


 そう話し掛けてきたのは幼馴染のの小宮こみや優愛ゆあ。明るい茶髪のショートヘアで、泣きボクロがあるのが特徴的だ。優愛には隠し事ができない。俺は昨日あったことを優愛に話した。


「うーん、それってまだ太一に未練があるってことじゃない?」

「やっぱりそういうことになるのか」

「そうとしか考えられないけど」


 優愛は俺と凪咲が付き合っていたことを知っている。むしろ優愛には付き合う前からいろいろ相談に乗ってもらったりもした。凪咲には俺から告白したので、俺から別れを切り出すことになるとは思わなかった。


「やり直してあげる気はないの?」

「ないな。あいつ酷いことばかり言うんだ」

「素直になれないだけだと思うけどね」

「だとしても、毎回悪く言われるのはストレスなんだよ」


 凪咲はとにかく口が悪い。「付き合ってあげたのはたまたまフリーだったから」とか「あんたのことは好きでもなんでもないわ」など、俺としては付き合っている実感が薄かった。

 だから凪咲は俺のこと好きでもなんでもないと思っていた。だが、別れた直後にこうして尾行という奇行に出ている。

 

「今更俺は凪咲とやり直すきはない」

「だったらきっちり振ってあげるべきだね」


 もう一度、きちんと二人で話をする必要があるだろう。僕はそう決意し、凪咲にメッセージを送った。

 すぐに既読がついて返事がくる。


「今日の放課後二人で話しましょう」


 優愛はそのメッセージを見ると、深く溜め息を吐いた。


「太一も悪いと思うけどね。せっかく付き合えたのにあたしとも仲良くしてたし」

「それはだって優愛は幼馴染じゃん。よそよそしくなんてできないよ」

「それが女の子は不安になるんだよね」


 結局、別れた原因も優愛と距離を置けと言われたからだった。さすがにそれはできないと言ったら愛が偽物だとか、色々言ってくるから流石に嫌気が差してしまった。それまでで積もり積もっていた僕は別れを切り出してしまったのだった。

 俺にとって優愛も大事な幼馴染だ。距離を置くなんてできない。


「まああたしは嬉しかったけどね。太一があたしとの関係を大事にしてくれて」

「当たり前だろ」


 とにかく、放課後の話し合いで決着をつける。僕はそう決意し、朝のホームルームに集中した。


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