第29話 記者会見
次の週、政府主催の記者会見が開催された。
全国のメディアが注目する中、レンと政府高官が壇上に現れた。その姿はテレビやネットを通じて全国に生中継されている。会見場には詰めかけた報道陣がひしめき、カメラのフラッシュが途切れることなく焚かれていた。
壇上の中央には政府の広報官が立ち、スーツ姿のレンが少し後ろで控えている。その立ち姿からも漂う存在感に、会見場の雰囲気は緊張と期待で張り詰めていた。
「本日は、我が国のダンジョン政策に関わる重要な情報を共有させていただきます」
広報官の低く落ち着いた声が会場に響く。背後のスクリーンには、先日のリナの配信映像や関連資料が映し出される。
「皆様もご存じの通り、ダンジョンは我が国のみならず、世界各地において未知の脅威であり、同時に貴重な資源の供給源でもあります。これまで日本政府は慎重かつ徹底的な調査を行い、国民の安全を最優先に運営してまいりました。しかし、近年、各国間での協力がますます重要となってきております。そのような中で、日本とアメリカが連携して行った今回の特別作戦について、公にする時期が来たと判断いたしました」
広報官が間を置き、スクリーンにはアメリカ軍と日本人の星波
「この作戦の中心的な役割を担ったのが、こちらにいる星波蓮氏です」
会場がざわめき、カメラが一斉にレンに向けられる。彼は静かに立ち上がり、壇上の中央へと進んだ。
「初めまして、星波レンです」
その声は低く穏やかでありながら、確固たる自信が感じられた。彼は一礼し、会場の全員を見渡した。
「まず、このような場を設けていただき、そして私の活動に興味を持っていただいたことに感謝いたします」
彼の言葉には堅苦しさはなく、それでいて真摯な態度が滲み出ていた。続いて内閣府広報官はスクリーンを指差しながら、具体的な作戦の内容を語り始めた。
「先に一つ重要な事実をお伝えさせて頂きます。超弦未確認物体、通称、塔やダンジョンと呼ばれる内部で、米国と日本国が繋がる特異点が発見されております。この発表が遅れたことは、領有権の問題、更には地球規模での調弦未確認物体の構造を解明する鍵となる可能性があり非常に重要な発見です。そのことから発表には慎重にならざるを得なかったのです」
会場がざわめく。
「そして今回の星波氏が参加した作戦では、その特異点を調査することが目的でした。そして星波氏は我が国が誇る世界のトップシーカーなのです」
その発表に会場内は湧きたった。
すぐにスクリーンには、特異点と呼ばれる場所の映像が映し出されていた。広報官はその映像を指しながら説明を続ける。
「これが特異点内部の映像です。この地点に幾多にも存在するゲートとなる日本側と別の場所に存在するゲートから米国側へと繋がっていることが確認されました。そしてこの調査は発見元である米国からの我が国へと協力を求めてきたものです」
あくまで発見したのはアメリカ側とのことを主張した上での内容だったが、この発表は日本及び世界にも衝撃をもたらす内容だった。
「その他にもこの特異点にはゲートが存在していますが、それが何を意味するのか憶測でお伝えすることはこの場では避けさせていただきます。この現象について日本及び米国で連携し解明を進めておりますが、未だその謎は解明されていません。ただこのことはダンジョンの生成メカニズムに関する新しい理論を構築するための重要な手がかりとなり得ると我々は考えております」
記者たちのざわめきの中、レンの能力に関する質問が飛んだ。
「星波さん、あなたの役割について具体的に教えてください。この特異点調査でどのような活動を果たしたのですか?」
レンは少しだけ微笑みを浮かべた後、答えた。
「私の役割は、状況分析と戦術指揮に特化したものです。特異点内部の環境は通常のダンジョンとは異なり、探索者の生命維持に直結する複雑な問題が数多く存在します。その中で、私はチーム全体の安全を確保しつつ、効率的に情報を収集することでした」
さらに、彼の身体能力や戦闘技術についても質問が飛んだ。
「具体的な能力や技術についてはこの場では公表を控えますが、ダンジョンに特化した能力を保有しているとだけお伝えしておきます。その力のこともあり私はこれまで
その言葉に会場はさらにざわつき、SNS上でも「日本のSランク登場!」とトレンド入りするほどだった。
「これまで星波氏の存在を非公開としてきた理由は?」という質問が飛ぶと、政府の担当者が答えた。
「星波氏の活動は、極めて高度な機密事項であり、これまで公開することで国際的な混乱を招く恐れがありました。しかし、今回の状況を受けて、透明性を確保しつつ、日本がダンジョン政策の最前線であることを世界に示すべきだと判断しました」
「では、今、星波氏を表舞台に立たせる理由は何でしょうか?」
これに対してレンが少し間を置き、答えた。
「ダンジョンはこれからも人類にとって未知の領域です。探索者がただ戦うだけではなく、その活動が未来の安全や発展に繋がることを示すべきだと考えています。そのために、私は私自身の存在を公にすることを決断しました」
記者会見は佳境に入り、報道陣の質問がさらに鋭さを増していく。レンと政府高官たちは、そのひとつひとつに冷静に答えていたが、中には政府の対応や透明性を疑問視するものもあった。
「政府はこれまで、星波氏のような人物を隠してきたことについて国民に説明責任を果たしていないのではないですか?」
記者の一人が声を強めて問いかけた。その質問に会場全体が緊張する。
政府高官が口を開きかけた瞬間、レンが一歩前に出た。
「私から答えさせてください」
彼は一瞬会場全体を見渡し、毅然とした声で続ける。
「これまで私の活動が公にされなかったのは、私自身の意思でもありました。特異な能力を持つ探索者が注目されることで、その存在がダンジョン政策の障害になる可能性があったからです。国際社会における利害関係も絡みますし、私自身、表舞台に出ることが必ずしも国の利益になるとは考えていませんでした」
会場が静まり返る中、レンはさらに続けた。
「しかし、今回の一件で状況は変わりました。日本の探索技術やシーカーの能力を世界に示すことが、今後の国際協力を推進する鍵になると判断したのです。政府がこれまで慎重に対応してきたことについて、理解をいただきたいと思います」
その堂々とした態度に、記者たちは一瞬言葉を失ったが、すぐに別の質問が飛んだ。
「日本とアメリカが特異点で共同作戦を行ったとされていますが、他国との関係に影響は出ないのでしょうか?」
政府高官がマイクを持ち、口を開いた。
「特異点の存在は、世界中の国々が注目する問題です。今回の発表においては、米国間との二国間協力が主軸となりましたが、今後は他国との協力も視野に入れています。日本は、ダンジョン探索において先進的な技術と優れたシーカーを擁しており、それらを国際的な平和と安全に活用する方針です」
レンがその言葉を受けて補足するように話し出す。
「私たちシーカーは、国境を越えて未知の領域に挑む者たちです。ダンジョンという危険な空間は、どの国にも影響を及ぼします。国際協力なしに進展はあり得ません。日本のシーカーとして、私自身もその橋渡し役を担いたいと考えています」
記者会見が佳境に達したその瞬間、レンが自ら語り始めた。これまでの毅然とした表情は少し和らぎ、しかし瞳には深い決意が宿っている。会場は一気に静まり返り、彼の次の言葉を待つ緊張感が満ちていた。
「星波氏の能力はどこで身に着けたのでしょうか?」
何時かは聞かれるとは思っていた当然の疑問が、一人の記者からレンに問いかけられた。
「その質問に対し、この場をお借りし皆さんにお話ししておかなければならないことがあります」
レンの低く静かな声が、マイクを通じて会場全体に響いた。
「私は、これまで日本政府及び米国政府の支援のもとで活動してきました。しかし、それまでの過程で、私はある過酷な経験をしました。正確に言うと、当時13歳だった私が家族と海外へ足を運んだ時に拉致され、数年間、強制労働を強いられ、まさに奴隷として扱われていました」
その瞬間、報道陣が動揺し、会場がざわめきに包まれる。
「拉致された私は、地上の法や倫理が一切通じない環境で、ダンジョン内の採取作業や危険な探索を強いられました。周囲には、同じように捕らえられた人々がいて、彼らの多くが命を落としていくのを目の当たりにしました」
言葉の端々に抑えきれない感情が滲む。彼が見た地獄の光景がどれほど苛烈だったのか、誰もが想像するだけで身震いした。
「その長い年月で得た技術と能力が私を生かし、そして隙を見つけて脱出することができたのです。帰国後、政府は私の体験を極秘にし、リハビリと精神的なケアを受けさせてくれました。しかし、この事実を公にすることには長らく慎重にならざるを得ませんでした。なぜなら、国際社会における緊張を招く可能性が高かったからです」
レンの声が一層強くなる。
「私を拉致した勢力は、ダンジョン資源を不正に売買する組織でした。彼らの目的は明白で、人を利益のために利用することでした。私の拉致も、そして他国で報告されている行方不明の人達も、この現在に存在する闇なのです」
報道陣の手が一斉に上がり、質問の嵐が予感されたが、レンはそれを制するように手を挙げた。
「今回、私が表舞台に立つ決意をした最大の目的は、私のような経験をする者をこれ以上増やさないためです。そして、ダンジョンにおける国際的な規制強化を進めるためにも、この事実を公表しなければならないと考えました」
会場は異様な静寂に包まれていた。報道陣の記者たちも、次に何を質問すべきか戸惑っている様子が明らかだった。その時、政府高官が最後にマイクを取った。
「星波氏の告白により、国際的なダンジョン政策の在り方を見直す必要性が明らかになりました。日本政府は、星波氏とともに、拉致や搾取といった問題に断固として立ち向かう所存です」
その後、幾つかの質問に答えレンが静かに一礼し、会見は幕を閉じた。この話題は国内外で大きな反響を呼び、レンの存在は一層注目を集めていく。
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