第12話
20階層での生活も体感だが既に数か月が経過していた。
相変わらず見渡す限りに砂ばかりだが、今は遺跡みたいな場所にいる。最初見つけた時は驚愕したが、これの存在のおかげで俺は今も生き延びている。
オオトカゲを食べてから劇的に体力や筋力が向上し、そのおかげで結構な距離を歩く事が可能となった。そして、行きついたのがこの場所だ。
この場所はゲートの場所と同じく襲われたりしない。遺跡の中には雨も降らないのに水が湧き出る場所があり、更には植物が生え果実までもある。
余りのご都合の良さに驚きはしたが、有難く拠点とさせてもらっている。
ヤツ等も追っても来ることもない。多分だがもう死んだ者と扱われているのだろう。下層で結晶石が取れるのに態々危険を冒してまでこの階層までは来ないだろう。出口は一つだけ。仮に俺を探したところで、どうせ殺すだけだし、めんどくさいだけだ。
俺はというと、この数日は実験に明け暮れていた。
実験と言っても色々な物を食べてみるだけだが。
まず、この湧き水。この存在が俺の生死を分けたと言えるだろう。有難いことだが最初の頃やはり腹痛に見舞われた。激痛までには至らなかったおかげで発熱などは無かったが激しい下痢に悩まされた。
体への向上効果は無かったが、腹痛や下痢で体力が奪われるのが通常だが、逆に多少ではあるが体力が戻る感じがした。
次に果実、サボテンの実やヤシの実、更には名前までは知らないが何かの木から生えている実やツタにぶら下がっている果実みたいなものもあった。
これらも同じく最初に腹痛がきたぐらいで食べるには問題なかった。こちらは栄養素が豊富なのか、荒れ果てた肌などが劇的に改善される効果がある。
最後に遺跡の外に出てくる生き物。大型の牛は流石に狩ろうとは思わなかったが
最初に死闘を繰り広げたオオトカゲより小ぶりのトカゲや蛇にサソリは狩って食べてみた。
これらは腹痛から始まり激痛に発熱へと変わって行ったが、治まった頃にはやはり体の向上効果は見られた。力が増し敏捷性の向上に感覚の鋭さが増した感じだ。更には体への影響もあり、瘦せ細っていた俺の体に徐々に膨らみが増し、体を鍛える事によって筋力と変わっていった。
これらのおかげで今の俺は筋力も付いた健康体へと変貌した。
奴隷生活の頃はヨハンのおかげでガリガリとまではならなかったがヒョロヒョロの細い体に、荒れ果てた肌、絶え間ない傷のせいで膿を出しては治りを繰り返し変色してしまった傷跡などなどボロボロだった。それが今では嘘の様だ。
だが、チートみたいな力は今では打ち止めとなった。
最初の頃は食べたり飲んだりすると色々な痛みがあったが、今では全く痛みが無くなった。それと引き換えに体の向上は見られない。水の効果はあるが、ただそれだけだ。
なので、俺は純粋に体を鍛える事にしたのだ。体力は戻るから鍛え放題だしな。
ここより上の階層へと行きたいのだが、まだ不安がある。だから体を鍛えた。何時までもここに住み、人生を終了させる訳にはいかないからだ。
20階層でこれだけ体の向上が見られるのであれば、その上の階層では更に進化出来ると思っている。
そして最終的には最下層に戻り、この地獄からの脱出をするのが目標だ。
21階層へは何時でも行ける。何故ならこの遺跡の中にゲートがあるのだから。
しかし、行くには武器も無いので心細い。なら体一つで行くしかないが、まだ足りない感じがする。何か見落としているものが無いか考え、思いついた事があった。何故か大事に置いていた最初のオオトカゲの色付きの結晶石だ。
流石にこれをこのまま食べる訳にはいかないので、舐めて見たりしたが変化は無い。次に考えたのが砕いて食べる選択だが、かなり強度があるのか中々に砕けない。
これを投げつけてサソリお結晶石が砕けて無くなった事を考えると、同じ結晶石でなら砕けるかもしれないと考えたのだが、狩って得た無色の結晶石の方が砕けてしまう。試しに無色を粉上にして思い切って食べてみたが体に異常や変化は無かった。
それが出来ないのが上の階層へと進んでいない理由だ。
それから数日経過したある日、俺は鍛錬のために遺跡の外へ出ていた。荒涼とした砂漠は厳しいが、体力をつけるにはもってこいの環境だ。しばらく歩いていると、前方の砂地が不穏に揺れ、何かが潜んでいる気配を感じた。
身構えると、突然砂の中から巨大なサンドコブラが現れた。砂と同じ色の鱗を持ち、鋭い牙を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。蛇特有の牙が光を反射して、思わず背筋が凍る。
この距離じゃ逃げられない。
武器として持参している結晶石を手に取り、サンドコブラが飛びかかるのをかわしながら応戦する。何度も噛みつかれそうになりながらも、奴の隙をつき、渾身の力で蛇の頭を叩きつける。すると、サンドコブラは最後の抵抗を見せながらも、やがて力尽きて砂の上に崩れ落ちた。
息を整えながらも、何が起こるかわからないので素早く解体していると、ふとサンドコブラの体から鈍い赤色の光が見えた。それはトカゲ程では無いが濃い色の赤い結晶石が埋まっているのが分かる。久々の色付き石に興奮しながらに、その結晶を取り出し、以前から持っていた色付きの結晶石はこれで砕ける可能性が感じられた。
試しに結晶石同士をぶつけると、今までびくともしなかった色付きの結晶石が、簡単にパリンと小さく砕け散った。
俺はこの時、最近は痛みを感じなかったことや、色付きを取れたことで興奮のあまり失念していた。
この塔の物を体内へ取り入れると激痛をおこし下手をすれば気絶したり死ぬこともあることを。
それなのに、何も考えずに更に砕き粉末までしたものを手のひらに取り、少しだけその粉末を口に含み飲み込んだ。
瞬間、鋭い激痛が全身を貫いた。
これまでで一番の激痛だった。
腹部から焼けるような熱が広がり、次第に手足の末端までその痛みが駆け抜けていく。俺は思わず地面に倒れこみ、唇を噛みしめて耐えたが、痛みは一向に和らぐ気配がない。それどころか、まるで体の内側から肉体が裂けていくかのような感覚が全身を覆っていた。
もはや立っているのがやっとだったが、このまま砂漠の真ん中で倒れれば命が危うい。俺は痛みに耐えながらも何とか立ち上がり、足を引きずるようにして安全地帯である遺跡を目指した。視界がかすみ、体中が鉛のように重く感じるが、必死に耐えながら遺跡の入口までたどり着く。
そのまま力尽きるように遺跡の中に倒れ込むと、意識は遠のいていき、全身が暗闇に沈むのを感じた。
どれほど時間が経ったのか分からない。気がつくと、俺は遺跡の床に横たわっていた。ぼんやりとした意識の中で、体に異変が起きていることに気づく。痛みは消え去り、代わりに全身が軽く、かつ力強く感じる。視界は鮮明で、周囲の物音が今まで以上にはっきりと聞こえてくる。肌の感覚も研ぎ澄まされ、まるで別人の体のようだ。
ゆっくりと起き上がり、拳を握ってみる。そこに宿る圧倒的な力は、以前の自分を遥かに凌駕していた。
これが、結晶石の力なのだと俺は気付いた。この激痛と引き換えに、俺の肉体は新たな段階へと進化を遂げたのだ。どこか冷静にそれを受け入れながらも、心には確かな自信が芽生えた。この力を手に、21階層へ向かう準備は整ったのだと。
熱が全身を巡り、筋肉が強化されるのを感じる。まるで体が新たな活力に満たされ、感覚が研ぎ澄まされるようだった。痛みや負荷が次第に消え、どこか超越した力が宿ったかのように感じる。
ようやく得た今までの強化とは比べものにならないこの力を手に、俺は21階層へ行く準備が整ったことを実感した。
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