第11話



死んだオオトカゲの横で安堵が抑えきれず座り込む。


横目で見ると狂暴そうな顔がそこにある。平常時なら泣きながら逃げている自分が想像できる。


そこで俺は思った。


19階層の植物が食べれたのだから、こいつも食えないかな?っと。


しかし、火なんて無い。食べるとしたら生でだ。


だが、問題は食べる場所だ。


また気絶でもすれば致命的なのは必然。


なら、捨てるかとの選択も頭に過ったが、運良く倒せたこいつをここで捨てて前に進んだとして、何時かは餓死する未来が見える。


やはり食うしかない。気絶する確率の方が高いのは間違い無いが、こんな砂漠で餓死なんて真っ平ごめんだ。




そして、俺はオオトカゲを食べるという決意を固めた。




まずどこから手をつけるかを考え、ゆっくりと手順を組み立てる。火もなく、乾いた砂漠の中で生のまま食べるしかない。この状況で重要なのは、食べられる部位を選び、最低限の準備をすることだ。


トカゲのどこを食べるべきか、まず考える。


筋肉が多い部位、特に太ももや尻尾の付け根の肉が比較的多く、栄養価も高いはずだ。内臓もあるが、毒素や寄生虫のリスクがあるため、可能なら筋肉部分に集中するのが安全だろう。


そう決めると、ナイフをトカゲへと向けた。


オオトカゲの皮膚は硬く、鱗が表面にびっしりと覆われているため、食べる前に皮を剥ぐ必要がある。ナイフで首元から皮に切れ目を入れ、少しずつ引っ張って剥がしていく。できる限り、肉に鱗が付かないよう丁寧に剥ぐ。


剥ぎ取った皮の下から現れた筋肉を観察する。


筋繊維がしっかりしており、硬そうだが、栄養価のためには仕方がない。ナイフで太ももや尻尾の付け根の肉を切り取り、食べやすい大きさにする。繊維に沿って薄く削ぐようにすることで、噛みやすくなるはずだ。


更に続けて、腹部にナイフで切れ目を入れ、内臓を確認するが、食べるかどうかは慎重に判断する。内臓は栄養豊富だが、寄生虫のリスクが高い。胃や腸の内容物は砂漠で食べた不明なものが含まれている可能性があるため、内臓には触れず、筋肉だけを食べるのが無難と考える。


解体した残骸であるトカゲの上に切り分けた肉が有る。


眺めてみても仕方がない。俺は口へと近付けた。そして覚悟を決め目を瞑り、口の中へと放り込んだ。



死ぬほどに、――不味い!



余りの不味さに吐き出してしまった。


まず、最初に感じるのは強烈な血と鉄の味。それはまるで、古びた釘を噛んだような金属感で、噛むごとに口の中に広がる生臭さが鼻をつく。筋肉の繊維は驚くほど硬く、ゴムのように弾力があり、噛み切るのには相当な力が必要だ。噛んでも噛んでもまるで歯を拒むかのようで、口の中でまるで砂利を噛んでいるかのような、ザラザラした砂の残り香さえ感じる。


次に、苦み。これは想像以上で、乾燥した風に晒されたせいか、わずかに腐敗したような苦さが奥に広がってくる。舌に絡む不快な後味がどこか土と混ざったような複雑な味で、飲み込むのが躊躇われるほどだ。


さらに、体液が染み出す部分は、少し温かくて粘り気があり、まるでぬめりのある油を直接すすっているかのようだ。苦味と鉄っぽさ、そして生臭さが絶妙なハーモニーを奏でており、もう一口進めるのには相当な覚悟がいる。


「死ぬほど不味い」という表現が正しいだろう。砂漠のオオトカゲ、極限状態でなければ絶対に食べるべきではない味。


だが、正に今がその極限状態だ。


俺は無理やりに次から次へと口に入れた。あまりの不味さに涙を流し、咽ちらかし、吐き出そうとする本能を無理やりに押し込め、そして飲み込んだ。


口残りも最悪で、気持ち悪い。


余りに気持ち悪いので希少な水を舐めるのではなく、ゴクゴクと飲み込んだ。


そして少し落ち着くと、アレが始まる。


そう、腹痛だ。


果実と変わらず激痛へと変わっていく。そして、体が熱く汗が吹き出す。その為に頭痛も眩暈も始まった。


やはり無理だったかっと、諦めかけ死を覚悟したが、意識を手放す事はなかった。走ることは流石にキツイが体も何とか動く。


もしかして、体が適応でもしたのかと頭に過るが、確証はない。だが、気絶しないのであれば、まだ生きる可能性はある。


周りを警戒しながらに激痛が収まるまで待つ。運がいい事にオオトカゲと直面した時から他からは襲われていない。


それからも長い時間は体の痛みが続くが、暫くすると何とか収まってきた。


すると、解体したトカゲの死体が、蝋燭の火を消す様にフッと消える。


解体している時に、体の中にあったこぶし程はある大きさの結晶石は取り出している。持っていても邪魔なだけだが、癖とは怖いものだ。


この結晶は濃い赤色のクリスタルだ。薄い緑色と薄い黒色なら数回だが見たことはある。こんなに濃い色は初めてだ。


片手に持った結晶石を空にかざしてみる。やはり俺には価値が解らない。只のクリスタルにしか見えない。


命令され取っていたから何も思わなかったが、今考えるとこんな物の為に俺は何年も奴隷生活を強いられていたのかと思うと、腹が立ってくる。


クソがっ、と叩きつける様に地面へと投げつけた。


その時に違和感を実感する。


結晶石は割れはしなかったものの、異常とまではいかないが、俺の力ではあり得ない程に砂にめり込んだのだ。


呆気に取られながらに、もしかして結晶石にはそんな機能があるのかと不思議に思い、小さくクレーターっぽくなった先にある結晶石をもう一度取り出してみてみる。


あれ程の衝撃で傷一つ無いが、発光している訳でも無いし、力を感じるとかも無い。変化も無く普通だ。


そこで俺は思いつく。俺の力が増したのか?っと。


石がおかしいのでは無く、果実の時もそうだったし、トカゲを体に取り入れた事で俺の力が向上したのでは無いかと考えた。


なら、試してみたくもなる。


試せそうな生き物なら進めば幾らでもいる。結晶石が原因の場合もあるので、邪魔だが検証の為に結晶石を持ってそのまま移動する事にした。


幾分か進むと、もううんざりする程に見慣れたサソリが砂の中から飛び掛かってきた。


今回は検証もあるので、すぐに殺さずに避けて見下ろした。


まず結晶石からだと思い、サソリを目掛けて投げつける。


やはり先程と変わらず、その場の砂が爆散し、同時にサソリも木っ端微塵で粉砕してしまった。サソリの結晶石すら見当たらない事を考えると砕け散ったのだろう。こちらの結晶石の方が強度はあったみたいだ。


やはり、この結晶石なのかと思うが、まだ確証はない。


そのまま数歩進んだところで同じ様に襲ってきたサソリを今度は掴み取った。毒は無いが刺して攻撃してくるので尻尾部分を引き千切り、そのまま利き手である右手に持った。


そして、大きく振りかぶって地面に叩きつけた。


固い結晶石程では無いが、砂煙と同時にサソリが爆散した。


やはり石では無く、俺自身が強化された感じだ。


なら、ここのものを取り入れる事で体が強化されるのかと推測してみた。




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