第6話




少し落ち着いた私は少し冷静になり、改めて木々が途切れた少し離れた目線の先、軍用車の前に立つ屈強な男たちの姿を見た瞬間、私は驚きで言葉を失った。


こちらの様子を伺っているのは軍人のような風貌で、車の横には迷彩柄の重厚な車両が止まっていたからだ。


兄の姿とは異なりあからさまに軍の人達が数名こちらの様子を伺っており、その周辺に数台の見るからに軍用ドローンが車両の周りを旋回し風切り音を上げ、その場は異質な感じだった。


私は兄の方を見上げ、先ほどの出来事の余韻に浸りながら問いかけた。


「お兄ちゃん、どうしてこんなタイミングで助けに来られたの?」


兄は一瞬黙ってから、私の方に目線を送り説明を始めた。


「ああ、国からの依頼で階層任務の帰りだったんだ。国の依頼だから軍関係のヤツ等と一緒にな。その帰りに偶然に救助信号を拾ったんだ。位置を確認したら、すぐ近くだったから様子を見に来たら、リナがバカそうな男に絡まれてたってたってわけだ」


「救助信号?私、そんなの送った覚えはないけど……」


私は混乱していたからそんな暇も無かった。だからこの子MD6に指示を出した記憶もない。


「リナには内緒だったが、俺が買ってやったそのドローンには自立認識の状況感知プログラムがインストールされている。軍用版だから当然に機密だがな。ちなみにリナには対処不可の外敵が出た場合は特攻して自爆する優れモノだ。人程度なら即死させれるぐらいだな」


「えっ、何それ?めっちゃ怖いんだけど」


「ん?当然だろ?それぐらいの護衛がないと、探索者試験なんて受けさす訳ないじゃないか」


「聞いてないんだけど……」


「言って無いからな。機密だって言っただろ」


「おかしいと思ったんだよね……。誕生日プレゼントがこんな高価なものだったからさ……」


「安心しろ。家にあるAIロボは全部そんな感じの機能がついている」


「安心って……。えっ……もしかしてポチAIドッグ、も……」


「……まぁ俺の仕事柄、面倒な奴が湧くってことだ。その対策に国から支給されたモノだから気にするな」


何、その間……絶対何時も一緒に寝てるポチにもそんな物騒な機能が付いてるじゃん。


「まぁ話を戻すが、幸いそこまでの危険度が無かったから、そいつが救助センターに信号を送ったらしい。それで近くにいた俺がたまたま来たってだけだ」


「な、なるほど……」


因みに、家族とのプライベートな会話だからMD6は高度を上げて会話を拾わない様にしてある。視聴者に聞かれて良い内容じゃないから、よかったよ……。


でも偶然とはいえ、兄がそんな危険な瞬間に現れたのは、本当に助かった。


「内容はどうあれ、本当に助けてくれてありがと」


「ああ、どういたしまして」


その時、車のそばに立っていた大柄な男が笑いながら声をかけてきた。


「やあ、無事で何よりだ。ホシナミが『緊急事態だ』って言った時、俺たちも何の事か分からなかったけど、まさか妹さんだったとはな」


彼は優しそうな目で私に安心感を与えながら英語で話しかけてきた。何故ココに外国の人が?っと一瞬戸惑ったが、軍関連ならありえるかと自己解決した。


「はい。星波レンの妹で星波リナです。今回は心配かけてすみませんでした。それと、ありがとうございました」


私は当然に英語で名乗りお礼を述べた。


「いいってことさ。仲間の家族は俺たちの家族も同然だからな。ってか、レンがファーストネームか」


「名前なんてどうでもいいだろ。それに誰が仲間や家族だ。今回の任務を一緒にしただけだろうが」


「おいおい、つれないねぇ。一緒に死地を共にした仲じゃないか。俺たちは仲間だぜ」


アメリカ人?の男性がそう言って笑うと、他の仲間たちも頷き、穏やかな空気がその場に広がった。


「さあ、早く帰ろうぜ!スシとトンカツを食べに行きたいからな!」


「組み合わせ悪すぎだろ」


「ガハハハッ!いいんだよ!久々の日本だからな。食いまくってやるんだよ」


少し呆れたジェスチャーを浮かべながら兄は私に向き直った。


「リナも、今日はもう疲れただろ?この車で家まで送って行くよ」


確かにこれ以上は配信する元気も無いし素直に頷いた。そして車はゆっくりと森の道を進み出した。


私が兄と共に森を抜け、軍用車に向かって歩いている最中、配信はまだ続いており、視聴者たちのコメントが絶え間なく流れている。慌ただしい状況の中でコメントを読む余裕はなかったが、今ようやく、皆がどれだけ心配してくれていたのかが伝わってきた。


「みんな、こんなに心配してくれてたんだ……」


私は目線をコメントの逆再生アイコンに固定して戻しながら、画面に映る無数のメッセージを確認した。


『おいおい、大丈夫なのか!?今すぐ逃げろ!』

『ヤバい、男二人が絡んでる……怖すぎる!』

『誰か助け呼んだ方がいいんじゃ……?』

『ちょ、真っ黒の人!?なんだこの展開!』

『更に怪しいのキターーーwww』

『フェイスガードで顔見えないけど、スタイルやばっ』

『は? お、おにいちゃん、だと……』

『マジの兄?そこんとこ詳しく!』

『え、まさかの兄登場!?超展開すぎるwww』

『イケボwww』

『ドスが効いてるイケボ……』

『お兄さんカッコよすぎる!!映画かよ!』

『ナイス兄貴!マジで救ったな!』


更に続くけど、その数々のコメントに、私は驚きつつも笑みをこぼした。


視聴者たちは心配しながらも、兄の登場に対してまるでドラマや映画を見ているかのように反応している。特に兄の登場シーンでは大興奮だったようだ。


「みんな、心配してくれて本当にありがとう……」


先ずは心配してくれた視聴者さんに感謝を述べた。


「無事だから、もう大丈夫だよ」


その時、さらに続々とコメントが流れてきた。


『やっとコメに反応してくれた』

『でもよかった!無事で安心した……』

『いや~、助かって本当によかったよ!』

『お兄さん、マジでヒーローだな』

『軍用車!?何者なの!?』

『兄は軍人?かっこよすぎるんだがw』

『軍車両の中とか生で見るの初めて、カッケー』

『フフフ、吾輩が説明して進ぜよう。この車両はヴァルキリーX、用途に応じて様々なモジュールを取り付け可能。偵察、輸送、戦闘、医療支援など、ミッションに応じたカスタマイズができ、ドローン発射モジュール、医療用ポッド、ミサイル発射システムなどが取り付け可能である。高度な技術を搭載した多用途な軍用車両で、様々な地形や作戦に対応できる万能兵器。人工知能によるサポートやモジュール交換が可能で、偵察から戦闘、救護活動まで幅広く対応できるため、小型で階層ゲートに乗る事が確認されダンジョンでは非常に有効なのである』

『長文乙』

『軍オタ乙www』


視聴者たちの反応は、兄に対する驚きと称賛に満ちていた。私は少し照れながらも、改めてみんなに話しかけた。


「実はね、お兄ちゃんはエリートシーカーで、上の階層の帰りだったみたい。誰かが出してくれた救助信号をたまたまキャッチして助けに来てくれたの」


MD6の事は言っていいのかわからないから、とりあえず視聴者の誰かの通報でって事にした。その言葉に視聴者たちはまたもコメントで溢れ返った。


『お兄さん、シーカーだったのか!それもエリートって!すごすぎる!』

『兄貴、スタイルと目だけ見てもイケメンっぽいな。しかし配信の中でこんな展開ある!?』

『助けてくれたのはマジ感謝!』

『ガチで映画のワンシーン!』

『推しの危機に手に汗握ったわ…!』


流石にこれ以上はボロが出そうだし、何より疲れたから今日はここまでにしよう。


「みんな、本当にありがとう。心配かけちゃってごめんね。今日は色々あったからここまでにするけど、また次の配信で会おうね!」


彼女が配信を終了しようとすると、最後のコメントが目に入った。


『ええー、もっと兄様のことを詳しく!』

『次はもっと詳しく教えてねー』

『お疲れ様!次の配信も楽しみにしてるよ!』

『次は安全な場所で頼むぜw』

『ヒーロー兄貴にもよろしく!』


私は笑顔で配信を終了し、兄の方を向いた。


「みんな、すごく心配してくれたみたい。お兄ちゃんも大人気だよ」


兄は軽く肩をすくめて微笑んだ。


「俺は配信には向いてないが、今回だけは仕方ないな」



そして軍用車は森を静かに走り去り、ダンジョンから出て自宅へと向かった。




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