第12話

「うわあああああああっ!!!」



耳を引き裂くような歩の絶叫と、同じくらいの勢いで飛び散る血。



「おい!裕樹てめぇ…あああっ!!」


ジュッ!と液体が重く弾けるような音と共に、再び歩の声が響く。



「ねえ歩……」



机の椅子から転がり落ち、必死に顔を覆っている歩に向かって僕は言う。



「歩、いつも色んなものをいらないって言ってたよね?」


シュッ!


鋭利な音を合図に共鳴する叫び声と血の泉。



「僕…それをいつもありがたくもらってたけどさ。歩がいらないと思ってても、僕がどうしても手に入れられないものが2つあるんだよね。」


「ひいっ……やめろっ……裕樹…頼むから…」


「一つは仕方ない。諦めるよ」


舞香の笑顔を思い浮かべながら、僕はその手を歩の頬に当てて動かした。



ジュッ!



さっきよりも重めの音が響く。



「だけどね、もう一つ……」



僕はカッターの先を、歩の唇から目へと持っていった。




「歩が自分でいらないって言ってた顔……僕は欲しいんだ」


「あーーあああっっ!!!」



右目に刺さったカッターは一瞬で歩の目から落ちる。


歩は目を押さえ、床にのたうち回っている。



「眉毛、耳、鼻、輪郭、唇、そして目……僕は、歩の顔の全てが欲しいんだよ?」


「ぎゃああああっ!!はああ!!!!」



転がる歩の左目めがけてカッターを刺す。


噴出する血飛沫と透明な液体が、僕の顔を濡らす。



「歩……?いらないなら、全部くれるんだよね……?その顔……いらないんだったらちょうだいよ……」



僕は歩に向かってお願いをするように言う。





だけど歩は、また僕に意地悪をする。





歩が昨日いらないと言った僕の賞状のように、僕の言葉を無視して……


ただただそこに散乱し、床にこびりついていた。

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