第11話

「ただいまー」


午後6時。


歩が家に帰ってきた。


僕は歩より20分ほど早く帰宅し、自室にいた。




「おう裕樹!俺さ、また彼女できたわ」


昨日までの不機嫌さが嘘のように、爽やかな笑顔で報告してくる。



「彼女3人目だよ?3人目。同時進行とかできるかな〜」


「歩。今日舞香と話したんだけどね、また三人で遊びたいって言ってたよ」


「は?舞香?」


「うん。けど、彼女が3人もいたら忙しくなるの…かな?だからほんとにたまにでいいんだけど…」


「悪いけどお前らみたいな底辺と遊んでる余裕なんて無いんだわ。一緒にいても映えねえし。俺のイメージが悪くなんじゃん?」


「底辺……?」


「そーだろwお前は言わずもがな、舞香とか俺の歴代彼女の中にもいないレベルのブスだからww」


「ブス………」



僕は歩の言葉を聞きながら、舞香の笑顔を思い出していた。



僕に気持ちを打ち明けたときの照れた顔。


みんなでまた遊びたいと言ったときの無垢な瞳。


僕を褒めてくれる時の……優しい声。







僕は気づいたら机の上からカッターを取り出し、歩の部屋の方へと向かっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る