第10話

「ねえ裕樹…私ね、裕樹に言いたいことがあるの」



賞状事件の次の日。


舞香は放課後、僕を学校の中庭に呼び出した。


「言いたいこと?」


「うん。あのね……私…実は好きな人がいて…」



そう言う舞香の顔はいつもより赤らんでいて、潤む瞳はこれまでに見たことのない色をしていた。


脚が震え、息が荒くなっている。


かなり緊張しているのだろう。



僕は何も言わずに舞香の言葉を待っていた。







「……私が好きなのはね…歩なの。」





僕はきっと、この言葉が出てくるのを心のどこかで準備していた。



だけど、それと同じくらいの強さで、歩ではない方の名前を期待していたのも事実だった。



「そうなんだ……」


「うん…!だから裕樹…これからまた、三人で遊ぶ機会を増やしてくれない?」


「……分かった。歩に話してみるね」


「ありがとう!」



ニコニコと弾んだ声を出す舞香は、僕の方を見もしない。



既に僕と歩と三人で遊ぶ未来を……



歩と二人で歩く未来を思い描いているようだった。

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