私はいらない子

第26話 オリバーの即位式

　晴れ渡る空の下、スペイニ国の中心に広がる広場の一角には、色とりどりの屋台や露店が並び、食べ物や飲み物を求める人々で賑わいを見せていた。焼きたてのパンや香ばしい肉の串焼きが漂わせる香りが空気を包み、果物や甘い菓子が山積みにされた店先では子供たちの笑い声が響いていた。

　商人たちは熱心に商品を勧め、音楽家たちが奏でる軽快な旋律が活気をさらに高めていた。広場の至る所で歓声と笑顔が広がり、まるで国中の祝祭の中心地となったかのようだった。しかし、遠くの鐘楼が荘厳な響きを奏でると、賑わいはピタリとおさまり、一斉に辺りは静寂に包まれる。ついに、オリバーの即位式が始まるのだ。

　騎士たちが整然と並び立ち、広場の中央に道を作った。その道を進むのは、王の装束に身を包んだオリバーである。彼の姿に民衆からどよめきが起こり、期待と歓喜が波のように広がっていった。

　オリバーの顔には穏やかさとともに、強い決意が浮かんでいた。まっすぐな眼差しで進むオリバーを見つめる民衆の間からは、彼がもたらした平和と希望に対する感謝の声が響き渡る。幼い子を抱えた母親が深々と頭を下げ、年老いた者はひざまずいて感謝の祈りを捧げる姿も見られた。オリバーが歩みを進めるたび、歓声と涙が重なり合い、広場の雰囲気は熱気に包まれていく。

　広場の中央に設けられた玉座の前でオリバーが足を止めると、そこには豪奢な装いを纏った若きアレクサンダー皇帝が待っていた。その目には温かな感情が宿り、今ではオリバーの即位を見届けることに誇りと期待を抱いていた。

　アレクサンダーはオリバーを見つめながら内心で考える――この男なら、双子の妹であるビクトリアを託すのにふさわしい。彼が導く未来はきっと、民にとっても輝かしいものであろう、と。

　アレクサンダーは神聖なる儀式の象徴である王冠を掲げ、厳かに宣言した。

「オリバーよ。その勇気、誠実、そして民を慈しむ強き心を讃え、今ここにスペイニ国の王としての位を授ける。我がローマムア帝国の名において、汝の王位を認め、重き使命と栄光を授けよう」

　その声は広場中に響き渡り、オリバーの頭上に王冠が置かれると、民衆の歓声が一斉に沸き起こった。大地が震えるような拍手と歓声に包まれる中、オリバーは深く心に誓った――この国をさらに発展させ、民と共に平和な未来を築くことを。

　ビクトリア（アグネス）は双子の兄アレクサンダー皇帝が、オリバーに王冠を授ける様子を間近で見守っていた。オリバーが王冠を受けるその瞬間、ビクトリア（アグネス）の心には未来の展望と共に、オリバーに対する愛情で胸がいっぱいになった。この先には、二人の結婚式が控えている。それはこの和平を祝うと同時に、新たな未来への誓いを込めた大切な儀式となるだろう。

　オリバーは玉座に就き、民衆に向かって力強く手を挙げる。彼の姿に対し、ビクトリア（アグネス）は心の中で静かに言葉を紡いだ。

　「あなたと共に歩む未来を、私は全力で支えるわ」

　アレクサンダーはビクトリア（アグネス）の気持ちを感じ取り、わずかに口元を緩めた。やっと見つけた妹と離れるのは寂しいが、これで良かったのだと、心から思えたのだ。

「僕はこの地を、これまで以上に発展させ、誰もが平等に暮らせる未来を築くことを誓います！」

　オリバーが広場を見渡しながら高らかに宣言すると、再び歓声が巻き起こったのだった。