第24話 アレクサンダーの決断
その決断とは――
「はい? 僕がスペイニ国の国王になれ、とおっしゃるのですか?」
オリバーは驚きに目を見張りながら、戸惑いを隠せない声で答えた。
「そうだ。スペイニ国には強力な指導者が必要だ。国民から敬意と信頼をもらっているお前にしかできない仕事だろう?」
アレクサンダーが、どこか誇らしげな表情で言い切った。この頃には、アレクサンダーもオリバーの実力を認めており、好ましい感情を抱くようになっていた。
「しかし……」
オリバーの視線は不安そうに揺れている。彼が志してきたのはスペイニ国の復興であり、スペイニ国王という未来は想像すらしていなかったのだ。だが、アレクサンダーの揺るぎない眼差しは、彼がこの選択に迷いの余地を持たせていないことを告げていた。
その場には、ビクトリアも同席していた。彼女の兄であるアレクサンダーがオリバーにそう語るのを聞くと、すぐさま口を開いた。
「お兄様。オリバー様が国王になったら、スペイニ国にずっと住むことになりますよね? 私たちは一生、離ればなれになるのですか? 酷いです」
ビクトリアの声には、切実な想いと悲しみがにじんでいた。
アレクサンダーはふっと微笑み、ビクトリアの肩に優しく手を置く。
「いや、そんなことにはならないさ。ビクトリアもスペイニ国に行くんだよ。二人は結婚し、スペイニ国王夫妻となるのさ。ビクトリアを離れた地にやるのは、とても悩んだ。やっと会えた妹だからね」
ビクトリアの顔に驚きの色が広がり、その視線は瞬時にオリバーへと移る。オリバーは、少し戸惑った様子でビクトリアの目を真っ直ぐに見つめ返していた。
「……お兄様。ありがとう……私、王妃として頑張ります」
ビクトリアは少しずつ覚悟を固め、口元に微笑みを浮かべた。
アレクサンダーはその表情を見て満足げにうなずいた。
「うん、やはり『お兄様の側を離れません』とは言わないよね……やれやれ、結婚相手はローマムア帝国の貴族で皇宮の近くに住まわそうと思っていたのに……」とわざとらしくため息をつく。
「ビクトリアは私や母上と離れても大丈夫かい?」
少し寂しげに尋ねるアレクサンダーの視線に、ビクトリアは微笑みながらうなずいた。
「もちろん、寂しいですわ。でも、オリバー様がいますもの。きっと、私たちは幸せになれるはずですから、心配はしておりません。それに、私たちにはスペイニ国民を幸せにする使命がありますもの」
ビクトリアの言葉には、自らの新しい役目への決意がこもっていた。
「よく言った。それでこそ、私の妹だ。……まぁ、私や母上も頻繁にスペイニ国に行くとしよう。ビクトリアの顔を見にね。ビクトリアも私や母上に会いに、ローマムア帝国に来るんだぞ。そうだ! 夫婦喧嘩をしたら、すぐに飛んでおいで。私がオリバーを叱ってやろう」
その瞬間、皇太后が謁見の間に姿を現した。重厚なドアが静かに開き、彼女は堂々とした足取りでアレクサンダーたちに近づいてきた。
「アレクサンダー! 余計なことを言わないの!」
皇太后は凛とした声で息子をたしなめた。その姿勢には、母としての強さと気品が漂っている。
「これはこれは、お母上。ビクトリアの結婚生活が心配で、口を挟まずにはいられませんでした。母上だって、同じ気持ちでしょう? これは苦渋の決断でしたよ」
アレクサンダーは少し肩をすくめて、半分冗談めかして答えた。
皇太后は困った息子だとばかりに首を振り、ため息をつく。
「まったく、あなたも早く結婚するべきですよ。ビクトリアのことばかり心配して……これからは、自分の心配をなさい。私はアレクサンダーのほうが心配ですよ」
皇太后は微笑みを浮かべ、ビクトリアに温かな視線を向けた。ビクトリアは「お母様……」とつぶやきながら、皇太后の手を握る。
「さて、これから忙しくなるわね。まずは、オリバーが王になる即位式が先かしら? それから、ふたりの結婚式ね。私の娘を世界一美しい花嫁にしなくては……」
さて、この二人の結婚式に向けてアルバートは特別な花の品種改良をしていたのだが――
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