第12話
「良かったんで?」
シャルロッテとルイースがいなくなった執務室で、ディルクと共に片付けする哉藍が呟いた。
「何がだ?」
「本気やったんでっしゃろ?」
そう聞かれて「まあな」と笑みを浮かべながら応えた。
哉藍が言っているのはシャルロッテの事。ディルクは本気でシャルロッテに求婚していた。
「尽くフラれているがな」
「未練がましいだろ?」と自嘲するが、哉藍は厳しい表情のまま「このままやと魔導師に取られてまうで?」と返した。
ディルクは暫く考えた後、口を開いた。
「それも仕方あるまい。もしルイースがシャルロッテを捕まえる事が出来たのなら、それはシャルロッテ自身が望んだ結果だろう」
ディルクはシャルロッテの力を知っているからこそ、彼女が本気で逃げれれば逃げ切れることは分かっている。相手が偉才だと言われる魔導師だろうと、力の差は歴然だ。
そんな彼女が捕まる事があるのなら、それは彼女自身が捕まる事を望んだという事。
「逃げきれたら?」
「その時は俺が貰う」
即答で答えたが、その表情はあまり良くない。
「まあ、何となく察しは付いているがな…」
寂しそうに微笑みながら呟き、窓の外に視線を向けた…
そんな頃、ルイースの屋敷では―
「では、期間は今より三日間。範囲は地上ならばOKとしましょう」
「いいわよ」
簡単に条件を決め、軽く準備運動をしてから窓に足を掛けていつでも飛び立てる準備は出来た。
「せいぜい吠え面をかかないようにね。綺麗な顔が台無しになるわよ?」
「ふふっ、口では何ともでも言えますよね?」
「生意気言ってられるのも今の内よ!!じゃあね!!もう会う事ないと思うけど!!」
捨て台詞を吐いてから、力強く足を蹴って外に飛び出した。
シャルロッテを見送ると、ルイースはテーブルの上に会った砂時計をひっくり返し、砂を落ちるのをジッと待った。
「…魔力が尽きようと必ず捕まえますよ…」
その眼には絶対的な執心と、捕食者のような獰猛な光を滲ませていた。
❊❊❊
シャルロッテが降り立ったのは、山を二つほど超えた先にある国。
温暖な気候で作物もよく育ち、暮らす人々も温厚な者が多い豊かで穏やかな国。何故、ここを選んだのかと言うと…
「あ、いたいた。─ルッチ!!」
「げッ、シャルロッテ!?」
手を振りながら駆け寄った先にいたのは、垂れ目で目元のホクロが色っぽく、ショートヘアが良く似合うルッチと呼ばれる女性。ルッチはシャルロッテにとって、数少ない魔女仲間。
ルッチはシャルロッテとは違って、町中で暮らしている。当然魔女という事は隠して、一般人として。
「ーで?その魔導師との鬼ごっごの為に、こんなとこまで来たって?」
「まあね。縁もゆかりもない国なら簡単に見つからないでしょう?」
パイプ煙草を吹かしながら呆れるように聞き返すルッチに、火を貰いながら自分も煙草を吹かしつつ言い返した。
「ふ~ん。ま、私には関係の無い話だから、適当に頑張れば?」
手を振って、早々にその場を終わらせようとするルッチの手を掴み、満面の笑顔を向けた。
「ちょっと待ってよ。友達が困ってるのよ?少しでいいから匿って?」
縋るように目を輝かかせて懇願するが、ルッチは黙って睨みつけると、足早に逃げ出そうとする。
シャルロッテはすかさず服を掴み、逃がさないように必死に繋ぎ止めていた。
「離せ!!誰が友達だ!!そんな面倒事に巻き込む友なんぞ要らん!!」
「そんな事言わないで!!」
あまりにも執拗いシャルロッテに、根負けしたルッチが盛大な溜息を吐きながら腕組みし、目を細めて見下ろした。
「…あんた相手の力を過少してるだろ?」
「は?」
「あんたの悪い癖だよ。自分の力を過信し過ぎてる。力があるのは間違いではないが、力だけでは世の中は渡っていけない。周りにも目を向け、他人を認める事も大事だ」
突然始まった人生論に、シャルロッテは戸惑いを隠せなかった。
(急にどうした!?)
他人に興味が無いのはルッチも同じ事。と言うか、これは魔女の性質だろう。今更変えようたって簡単に変えられるものでは無い。
「る─」
ルッチに声をかけようとしたところで、全身に鳥肌が立った。
「……………チッ」
思ったよりも早い到着だわ。
「悪いけど、その言葉は聞けないわ」
「頑固だな」
「あら、ルッチも相当な頑固者よ?」
裏口を開けながらお互いに微笑み返すし、別れの挨拶もないまま、シャルロッテは姿を消した。
残されたルッチは、先程から激しく叩かれている扉の前まで行き、問いかけた。
「誰だ?」
「初めまして、私はルイース・ブロンザルトと申す魔導師です。少々お尋ねしたい事がありまして…」
名前を聞かずともルイースだと分かっていたルッチは、ゆっくり扉を開けた。
「初めまして、魔導師様がなにようか?」
「ええ、実は人を探しておりまして…」
「どんな?」
「闇夜を纏った様な美しい漆黒な髪に、見蕩れてしまうほど愛くるしい瞳。思わず口付けてしまいたくなるような唇を持った、それはそれは美しい女性です」
ペラペラと良くそんな言葉が出てくるなと感心しながらも、若干引き気味なルッチは苦笑いを浮かべるのが精一杯。
(思った以上の奴だな…)
魔力を上手く隠しているが、ここはルッチのテリトリー。誤魔化しなんて効くはずがない。
「お前の求めている美しい人物が誰の事か知らんが、毎回面倒事しか持ってこない
裏口を指差しながら伝えれば「そうですか」と何処か嬉しそうに呟いた。
「突然すみませんでした。失礼します」
軽く頭を下げながら礼を伝えると、その場を後にして行った。
「…はぁ~…祝言の言葉でも考えておくか…」
気だるそうに頭を掻きながら、ルッチが呟いた。
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