第5話
俺の作戦にケチをつけ、これで仇に復讐できると浮かれ騒ぐ俺達に水を差した言葉。その発言の主は、当然この場に居る3人の内の、残りのもう1人しか居ない訳で……。
「何を言うんだ、カーティス! 折角オリーがこんなにもいい案を思いついてくれたのに、無理だって? 何が無理なんだ、言ってみろ!」
「だって、自分磨きをして皆を見返すなんて……。そんなの僕には無理だ、絶対に無理! 2人共今の僕を見たら、それくらい分かるでしょう……?」
そう言ってただでさえ猫背気味の背中をよりいっそう丸め、自信なさげりしょんぼりと縮こまる弟君。成程、どうやら弟君は長い間王宮で蔑まれながら暮らしてきたせいで、すっかり自分に対する自信を喪失してしまっているらしい。心情としては、こんな情けない僕にそんな大それた事は成し遂げられない! ……と言った気分なのだろう。
「しかしなぁ、カーティス……」
「ふむ……。弟君、ちょっと立ってもらってもいいか?」
「へ? あ、はい」
俺が要求すると、人からの要望に応えるのが見に染み付いているらしい弟君は、直ぐに椅子から立ち上がってくれる。俺はそんな弟君に近づいて、彼の周囲をグルグル回りながらフムフムと様々な角度から観察する。更には困惑する弟君にちょっと失礼、と一言断ってから体をあちこちベタベタ触って検分した。弟君は何をされているのか分からずビックリして固まっていたが、それにも構わず俺は自分が納得するまでその行為を続ける。
「うーむ、成程。結構痩せているし背中も酷く丸まってるが、ある程度肉をつけて姿勢を直せば、背も高いし素敵な貴公子になれる素質があるな。髪も適当に鋏を入れて手入れすればいい。肌が白いのはこのままだと不健康にしか見えないが、ある程度血色さえよくなれば見栄えする。その遠慮がちな態度も自信をつけて立ち振る舞いを叩き込めば見違える筈だ。安心しろ、弟君。君は輝く宝石としての素質を持っている! 後は磨いて仕立てるだけでいい!」
グッとサムズアップして笑顔で弟君に確約する。全て予想でしかないが、我ながら俺の見る目は確かだぞ。家では殆ど教養を授けられなかったが、その分家の外で沢山の人達に色んな経験をさせてもらった。社交界でも俺の存在は気に食わないが、目利きだけは信用できるという人間も多いくらいだ。その俺から言わせてもらえれば、弟君は多くの伸び代と可能性を秘めた宝石の原石だった。
「おお! プレイボーイのオリバーがそう言うなら間違いない! カーティス、大舟に乗ったつもりで安心して自分磨きをするといい!」
「いや、だから僕は」
「弟君に関しては、俺が全面的にサポートしようじゃないか。本当はそれぞれの分野の専門家を集めてチームを組みたいところだが、大々的にやる訳にはいかないからそこは我慢だ。俺だけだと不安かもしれないが、安心しな。これでもファッションや美容に関しては昔っから口煩く色んな人から仕込まれてきていて、一過言あるんだ。絶対に変な事にはなりはしないよ!」
「それはいい! 助かるよ、オリバー! それなら、俺は必要な物品や金銭を用立てようじゃないか。場所も用意して、2人が集中できる環境を作って……これは忙しくなるぞ!」
「だから、2人共少し」
「それならついでに、俺達が篭っている間に国外に出る為の根回しとか下準備も頼んでいいか? 多分大仕事になるし、俺達はそっちまで手が回らないと思うから」
「勿論だとも! 喜んで手配させてもらうよ! 王家や世間に向けた対応や、他の家族に対するあれそれも俺がまとめて対処しておくな? 後決めておく事は……そうだ! カーティスのお披露目はいつにする? 大変身にはそれなりに時間は要るが、あまり時間をかけ過ぎるのもよくないよな?」
「それなら、今度の俺達の学園卒業式の時なんかどうだろう? 卒業式の後にある父兄参加のお祝いパーティーだったら卒業生の家族なら学生以外も参加できるし、国中から大勢の人間が集まるしきっと噂の周りも早い。そこでドカンと派手に一発打ち上げて、皆の話題を掻っ攫うんだ!」
「それ、スッゴクいいな! 時期も丁度2ヶ月後くらいだし、丁度いい! 少しスケジュールがタイトかもしれないが、俺の弟で優秀なカーティスなら、それくらいできる筈だ!」
「……」
「卒業式なんて退屈な式典でしかないと思っていて参加する気があんまりなかったが、これだけ面白い見ものがあるなら絶対出席しなきゃな!」
「全くだぜ! よーし、それじゃあオリバーはカーティスの指導と役、俺はその他雑用とサポート役。お披露目のタイミングは約2ヶ月後の俺達の学園卒業式後のお祝いパーティーの時。それぞれ自分の役目を全うして、最大限実力を発揮し、にっくき王家の鼻をあかしてやろうじゃないか!」
「時間は有限、早速今から作戦開始だ! やったるぞ、おー!」
「おー!」
俺とティモシーの間でどんどん話は進み、あれよあれよという間に様々な事が決まっていく。弟君はオロオロとしながらも途中途中ちょっと、待って……だとか小さな声で言っていたようだが、俺達の勢いに流されてちゃんと口を挟む事はできなかった。彼が呆然としている間に、俺達2人は押し切る形で様々な事を決定づけ、当事者の弟君を置いてきぼりに全てが動き出したのだった。
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