第2話 欲を叶える悪魔
「働きたくねえな」
日曜夜11時。
男は明日の仕事に備えて寝る準備をしていた。
ギリギリまで起きていたいという気持ちはあったが、それを押し殺し部屋の電気を落とした。
今している仕事を好きな訳ではない。
というか、どんな仕事も仕事というだけで好きになれそうにない。
最近は生きるために仕事をしているのか、仕事の為に生きているのかどっちだか分からなくなっていた。
「………ああ、一生生きていけるだけの金があったらなぁ」
そう呟きつつ、眼を閉じる。
然し、暫くすると布団に潜り込んでいた男に尿意が襲い掛かる。
その脅威は少しづつ、だが確実に男を眠りから引き剥がし、遂に男は堪らずトイレに向かうために部屋の電気をつけた。
「………ふぅ」
脅威が去った男は安堵のため息を吐きながら寝室(1LDK)に戻ってきた。
だが、そんな男を出迎える謎の人物が部屋の中央に座っていた。
「どうもこんばんわ」
「嘘だろ誰だてめぇ」
男は既に寝ぼけていたのかもしれない。あまりにも突然のことに大声を上げることは無かった。
茫然と、目の前の謎の人物を見つめ立ち尽くしていた。
「わたくしこういうものです」
謎の人物──左右の縁の色が違う眼鏡をかけた青い口紅のピエロ──は右手を差し出した。
すると手の上の空間にディスプレイが現れ、『悪魔』と表示されていた。
「私ルーシフェと申します。よろしければ条件次第で貴方様の願いを叶えましょう」
二回目になるが、男は寝ぼけていた。困惑も解消され始め少しづつ覚醒に向かっているとはいえ、寝ぼけていた。
「じゃあ、一生働かずに済むぐらいのお金をください」
「………なるほど。それは明日の朝から仕事をしなくていい状態にしたいということでよろしいですか?」
「はい、それでいいです」
「うけたまわりました」
再びディスプレイが表示され、今度はそこに契約内容が記載されていく。
「では、こちらが契約内容になります。簡単にご説明させていただきますとご契約者様の寿命を4年だけいただく代わりに一生働かずに生きていけるだけの金額をご用意させていただきます」
「それは口座に入れてくれるということですか」
「ええ、悪魔ですからもちろんお手の物でございます。内容を確認していただきよろしければサインとハンコのほうをお願いいたします」
男はピエロ野郎に渡されたペンで空中のディスプレイにサインを書き、押せるのか疑問だったハンコを無事に押した。
「では、契約完了でございます」
その言葉がピエロが目の前にいた最後で、男が次に目を覚ました時には朝になっていた。
契約書は、ディスプレイを表示する端末として残されており、契約内容も昨夜のままだった。
口座を確認すると、金額は一円も増えていなかった。
男は仕事を辞めた。
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