第37話 大編隊襲来
どうやら飛行隊長のビーナス大尉は退院したようだ。
向こうも僕に気が付いたらしく、手を降ってきた。僕は慌てて停止して、直立不動にて敬礼で返した。
……なんか笑われてしまったよ。
でも笑顔は女神だったな。
格納庫に入ると、僕は直ぐにククリのそばにいる整備兵に言った。
「直ぐ飛び立ちます!」
だが整備兵は申し訳なさそうな表情で口を開く。
「それが……連装砲筒の修理がまだ間に合っていません。ひとつだけならいけるんですが……」
ひたつだけか……
仕方無い。
「構いません、それで出撃します」
ひとつでも八連装だ。
八発ならワイバーンの時と変わらない。全然いけるんじゃないのか。
僕は走ってククリに乗り込む。
すると直ぐに防護柵を外され、自由になるククリ。
そこでククリから念話が送られてきた。
『やっと自由になれるか。しかしこの防護柵は何とかならんのか?』
「そうだね、君の活躍次第では信用してくれて、外す許可が降りるんじゃないの」
飼い慣らされた翼竜といえども、暴れられたら危険なのだ。全ての騎乗用の翼竜には、こうやって乗らない時には、防護柵が施されるのが普通である。
それを外すとか無理がある。ましてや我軍唯一のドレイク、恐らく許可は降りない。
それを知った上で曖昧な返答をしたつもりなのだが、ククリは俄然ヤル気を見せた。
『そうか、そうか、活躍すれば良いのだな。して、何をすれば良いのだ』
そんな事を聞いてきた。
マズいな、誤魔化すために言った言葉に食い付かれたよ。
「そ、そうだね。ロック鳥を撃墜かな〜」
『なんだ、それなら簡単だな』
簡単だと!
僕は慌てて言い直す。
「えっと撃墜って言っもね、一騎じゃないから。一度の出撃で一個飛行隊のロック鳥の全滅位活躍しなきゃ駄目だよ。二騎や三騎程度なら、僕がワイバーンで既に落としたからね」
危ない、危ない。
簡単にクリアされてしまうところだったよ。
『ほう、ほう。それはちと厄介だな。だが何とかしてやろう』
一回の出撃で一個飛行隊となると、少なくても十二騎のロック鳥だぞ?
何とか出来るレベルじゃないはずだ。こいつ、分かって言ってるのか?
何とかするとか言うこいつが、何か怖くなってきた。
こうして僕はククリに乗って、大空へと舞い上がった。
しばらく飛んで行くと、遠くの空に敵の編隊が見えてきた。
一個飛行隊以上いそうだ。言うなれば大編隊だ。
そして敵を判別出来る距離まで近付いて驚いた。
敵の編隊なんだが、それは十二騎編隊のロック鳥だったのだ。一個飛行隊だね。
何たる偶然と言うべきなのか。
それに加えて護衛騎が多数いる。
それを見たククリは、こんな念話を送ってきた。
『人間の言葉で、“飛んで火に入る夏の虫”ってあったな。楽しくなってきたぞ』
何か嫌な予感しかしないんだけど。
僕はいつもの様に敵の編隊の上空へと上昇する。
敵は前回のことがあるためか、かなり高空を飛んでいて、このドレイクでさえも到達するのに苦労する高度だった。
しかしヤル気がみなぎっているククリは、物凄い勢いで急上昇して行く。
騎乗している僕が辛いほどに。
そして遂に、高空を飛ぶ敵編隊の上空に到達した。
敵の護衛騎は全く付いて来れず、振り切ってやった。
上空から見下ろすロック鳥の編隊は、敵の姿とはいえ壮観だった。
とにかくデカい。
前に見たのは幼鳥だったらしいが、今見てるロック鳥は間違いなく成鳥である。
迫力が違う。
その飛ぶ姿は威風堂々としており、他を寄せ付けないオーラさえ感じさせる。
それが十二騎か……やっぱ無理だろうな。
すると僕の気持ちを察したのか、ククリが念話を送ってきた。
『さあてと、簡単にはいかなさそうだがな、ここは種族の違いを思い知らせてやろうぞ』
もうやるしかないみたいだ。
連装砲筒の火槍は八連発だ。それで十二騎のロック鳥を落とせるのか?
どう考えても火槍の本数が足りないよね?
まさか格闘戦とか勘弁してほしいよ?
僕の心配をよそに、ククリはロック鳥の編隊目掛けて急降下して行く。
僕はいつも通りに、編隊の先頭を狙う。標的がロック鳥とあって巨大なことから、当てるのは難しくはないだろう。問題なのはこの連装砲筒の火槍が、ロック鳥に効果があるのかどうかだ。
ほぼ垂直に降下して行く。
風圧が物凄い。
騎乗具が吹き飛びそうだ。
風圧に堪えながら、連装砲筒の照準線状にロック鳥を持っていく。
「偏差を考慮して……」
僕は引き金を絞った。
反動と共に火槍が飛んで行く。
直ぐに騎首を起こして上昇。
標的のロック鳥を
火槍は左翼の付け根に突き刺さったように見える。
そして付与魔法が発動して爆裂。
「どうだ?!」
ロック鳥が鳴き声を上げた。
効いている?
そしてロック鳥がグラリと傾く。
少し高度が落ちたが、直ぐに持ち直した感じだ。
ただ速度が急激に落ちて行く。
みるみる編隊から離れて行く。
一発じゃ落とせないが、連装砲筒の火槍は明らかに効果がある。
「いける!」
そこで再び急降下。
編隊から離れたロック鳥は、恐らく基地に帰投出来ないだろう。途中で力尽きて堕ちるはず。
ああいう状態を僕らは“死に体”と呼んでいる。こういった場合、放って置いても墜落するから手出しはしない。もはや戦力外だ。
撃墜確認が出来ないからスコアには入らないだろうが、今は一騎でも多く戦線から離脱させる方が重要だ。
飛行基地を爆撃されるのは避けたい。
今度は二番目を飛ぶロック鳥を狙う。
そこへ敵の護衛騎が四騎、低空から迫って来た。
それを無視して連装砲筒の照準に集中する。
敵の護衛騎四騎が、一斉に射撃を始めた。
あるったけの火槍を撃ってきたみたいだ。二、三十本の火槍が僕とククリ目掛けて迫りくる。
全部は避け切れない!
敵の火槍が命中する前に引き金を引いた。
連装砲筒の発射と共に、ドンッドンッと衝撃が襲う。
そして二本の火槍がロック鳥目掛けて飛んで行った。
直ぐに反転して上昇。
その直後、ククリに衝撃が走る。
敵の火槍が何本か命中したのだ。
しかしドレイクの
「ククリ、大丈夫かい?」
『問題無い』
頼もしいじゃないの。
さすがドレイクと言ったところか。
そこで僕が放った火槍二本を確認する。
頭から血液を散らせながら落下して行く、ロック鳥が見えた。
今度こそ撃墜だ。
これで撃墜未確認が一騎、撃墜確実が一騎となった。
残るは十騎。
僕を攻撃した護衛騎は、上昇しきれずに降下していく。態勢を立て直して再び攻撃してくるつもりだろう。タラソドロメウス系の戦闘翼竜だ。
そこでビーナス飛行隊の方を見ると、かなり苦戦している。敵の護衛騎の数が多過ぎるのだ。
だが助けに行ける程の余裕なんて、今の僕にはない。
そんな事を考えている間に、先程の護衛騎四騎が再び上昇して来た。
「ククリ、気合いを入れた方が良さそうだよ」
そう僕が言うとククリ。
『何を言うか、あの程度の雑魚なら余裕で払い除けてやろうぞ』
口だけじゃなければ良いのだけどね。
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