第36話 飛行隊エース?
宙返りをする為に、まず下降して速度を上げる。
速度が上がったところで一気に上昇旋回。
背面飛行になるがそのまま旋回。
そして下降に移る。
さすがに赤兜は付いて来れないだろう。
後ろを見ると、赤兜は旋回の途中で翼竜が逃げ出した様だ。
ゴブリンの操竜士が、必死にコントロールをしようとしているのが見えた。
「逃がすか!」
旋回を終えて続けて横旋回。
ピタリと赤兜の後ろを取った。
反射的に引き金を引く。
ドンッドンッドンッと三連射。
最初に放った一本目の火槍が、敵翼竜の後ろ脚に突き刺さるのを確認。二本目三本目は反動の影響で外してしまった。
刺さった火槍は直ぐに爆裂魔法が発動する。
爆発。
肉片と共に後ろ脚が弾け飛ぶ。
赤兜の翼竜が悲鳴を上げた。
「やった!」
思わず叫んでしまった。
ーーが甘かった。
鮮血を撒き散らしながらまだ飛んでいる。
そこで赤兜が急降下。
逃げるつもりか!
そして降下しながら敵のゴブリン操竜士が何やら始めた。
「呪文詠唱?」
なんとゴブリン操竜士は、治癒魔法を発動させた。
なんて奴だ。
まさか治癒魔法を使える操竜士がいるとは、思いもしなかった。
治癒魔法が使えれば普通は衛生兵か軍医になる。わざわざ危険な操竜士の道を進ませない。恐らくゴブリン軍でも同じはずだ。
世界的に見ても、それほど治癒師は貴重なのだ。
赤兜は傷が癒えると低空に逃げて行く。
僕も追い掛けようとするが、ビーナス飛行隊の方が先に追い付いた。
カザネさんの小隊の三騎だ。
カザネさん達が三騎いれば、何とかなるだろう。そう思い、僕は他に敵騎はいないか確認する。
そこで友軍騎が一騎、徐々に落ちて行くのに気が付いた。
カザネさんの小隊の、取り巻き女子の一人だった。
落ちて行くがコントロールは出来ているみたいで、上手く着地は出来そうだ。
見れば敵を追っているのはカザネさん小隊で、追われているのは手負いの赤兜。追尾している方がやられるとか、全く理解出来なかった。
僕は慌ててカザネさん達を追った。
カザネさん達の後ろから見ていて分かった。赤兜のゴブリン操竜士が、後方に向かって強力な魔法を放っていた。
その魔法が届くのだ。
奴の魔法は、我軍の火槍の射程近くまで届かせる事が出来るらしい。しかも上位レベルの魔法攻撃。
治癒魔法といい、赤兜の操竜士は相当高位の呪文詠唱者のようだ。
と言っても火槍の有効射程ギリギリ位までらしく、それより少し距離をとれば射程範囲から外れる様だ。
カザネさん達は、確実に仕留めようと接近し過ぎたのだ。
しかし奴の魔法の射程距離は通常よりも長いし、翼竜に当たっても効果があることは確かだ。
奴を仕留めるには、火槍の有効射程より遠くから撃たなければならない。
つまり連装砲筒しかない。
僕はククリをカザネさん達の前へと飛ばす。
そして「任せてくれ」と合図。
するとカザネさんは「了解」の合図を返してきた。
僕はギリギリの距離まで接近。
すると赤兜から巨大な火球が飛んできた。
それはワンドで放てるレベルの大きさではない。
驚いて回避するが、火球は僕の手前で無くなった。
「届かない距離だったみたいだな。危なかった……」
気を取り直して連装砲筒の狙いを付ける。
赤兜は治癒したとはいえ、片脚が無い状態。バランス感覚が乱れていて、先程までの機敏な動きはない。
これならやれる!
少し遠い距離からだが、僕は落ち着いて連装砲筒の引き金を引いた。
「ん?」
おかしい。
火槍が発射しない。
引き金を何度引いても反応が無い。
「なんだよっ、ここで故障かよ!」
まさかのタイミングでの故障。
今までの砲筒ならば違う砲筒の引き金を引けばよかったが、この連装砲筒は砲身はひとつしかないから、一本でも詰まるとおしまいだ。
赤兜は低空を逃げて行く。
殘念だが
ビーナス飛行隊の元へと戻ると、あらかた空戦は終わっていて、最後の一騎の敵がクルクルと回転しながら落ちて行くところだった。
六騎で二倍の敵騎を迎え撃って、一騎以外は撃ち落としたんだ。上出来過ぎる結果だろう。
友軍騎も一騎落とされたが、無事みたいだし。
こうしてククリと連装砲筒の実戦試験は終了した。
格納庫に戻ると直ぐに整備兵に事情を説明し、調べてもらった。
まだ試作段階だからこういう事もあると言われた。改良と試験を繰り返して改善するもんだと言われたが、僕にはそういった知識が薄いから「分かりました」と言うしかない。
宿舎に戻り警護の詰め所前で、女子警護兵にカザネさんを呼んでもらった。
すると取り巻き女子の二人とカザネさんの三人が出てきた。
そして不時着した女の子が僕の前に出るや、直ぐに口を開く。
「トーリ上等兵曹、ご心配おかけして申し訳ありません」
そうか、僕の階級が上がったからこんな口調なのか。
「いつもの話し方で構わないよ。そんなよそよそしい口調はやめてよ」
「そ、そうですか……はぁ、無事に不時着したんで私に怪我はないから大丈夫です。私の翼竜も戦闘継続可能です。でもトーリ……さんのあの空戦、凄かったです。さすがです」
取り巻き女子とこんなにも面と向かって話するのは、初めてかもしれない。
そこでカザネさん。
「トーリって本当に凄いよね。ドレイク?に騎乗するし、変な砲筒を撃ったり〜、一人で四騎撃墜しちゃうし、どんだけなのよ」
腕を組んで睨まれてもねえ〜。
取り巻き女子も「そうよ、そうよ」と合いの手を入れてくるし。
「ごめんね、詳しくは軍事機密とかで、人に話すなと言われてるんだよ」
「そういう事なら仕方無いわね。まあ、今度乗せてもらえれば良いわよ」
え?
乗せるって、まさか二人乗りってこと?
「ええっと……」
返答に困る。
そこでカザネさんが何か思い出した様に話を続ける。
「あ、そうそう、トーリって今回四騎撃墜したんだよね。マッシュ君は二騎撃墜だから、トータル撃墜スコアでマッシュ君を追い抜いたわね」
マッシュ君が二騎撃墜なら、確かに僕はマッシュ君を追い抜いたことになる。遂に肩を並べるどこじゃなく、僕が抜きん出たのか。
何か実感が湧かないなあ。
そこで取り巻き女子の一人がつぶやいた。
「そうなると、ビーナス飛行隊でのエース操竜士ってことになるわよね?」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
するとカザネさん。
「確かにそうなるわね。トーリ、やったわね。エース部隊でトップエースになったのよ。私が見込んだ通りよ」
ますます実感が湧かないんだけど。
このエース部隊と呼ばれたビーナス飛行隊で、僕が部隊エースだって?
何とも信じられない話である。
□ □ □
翌日の早朝、最早日課となりつつある、空襲警報の鐘が鳴り響いた。
皆は同じ方向にある翼竜格納庫へと走って行くが、僕一人だけ別にある格納庫へと向かう。
そこで女の子小隊の格納庫へと走る、色っぽいねーちゃんを目にした。
よく見れば、それはビーナス飛行の隊長だった。
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