第35話 ドレイクで空戦








 翌日に格納庫へと行くとグリーン・ドレイクには、整備済みの八連装の砲筒が二機搭載されていた。

 今日はこの武器の試射を行う予定だ。

 早速僕は八連装砲筒の説明を受け、ククリに騎乗して試射を行う準備をしている時だった。

 馬に乗った兵士が走って来る。

 何事かと思ったら、敵の編隊が接近中だという知らせだ。

 それを聞いたローレンツ少佐は、悪魔のような笑顔を見せたかと思ったら、僕の方に向き直って告げた。


「トーリ上等兵曹、良い機会じゃないかね。我軍の新兵器の強さを思い知らせてやるんだ。ゴブリン軍に本当の恐怖を思い知らせてやりなさい。ふふふ……」


 簡単に言ってくれるが、まだ試射さえしていない武器をいきなり実戦で使えとか、かなり無茶な要求なんだけど。

 まあ、上等兵曹の僕が少佐の階級に、文句など言えはしないんだけどね。

 それでは少し暴れますか。


 整備兵が防護柵を外し、ククリから離れたのを確認。僕はククリに命令した。


「舞い上がれ、ククリ!」


 ククリが背筋を伸ばして一声鳴くや、ドタドタと地面を蹴って走り出す。

 そして格納庫を出るや、一気に翼を広げて空に舞い上がった。

 飛び上がった途端、あの重い連装砲筒を二個も搭載しているのを忘れさせるほど、優雅に大空を飛んでいた。

 ククリの羽ばたきひとつで、高度がグンッと一気に上がる。

 先に出撃した友軍迎撃騎が必死に上昇する横を、僕は余裕で追い抜いて行った。

 それはビーナス飛行隊の編隊だった。

 マーク小隊長やマッシュ君にカザネさんが手を振ってきた。

 気まずいながらも僕も手を振り返し、さらに高空へと上昇して行く。


 しばらく飛ぶと敵影が見えてきた。

 今回は小規模な編隊のようだ。と言っても十二騎いる。

 護衛騎が八騎と攻撃騎が四騎。

 護衛騎の方が多いなんてのは初めてだな。

 それと攻撃騎がアズダルコ系の中でも大きい部類で、ケツァルコアトルス系の魔獣。首の長いのが特徴の翼竜だ。大きいが故に運動能力は低いが搭載量は多い。攻撃騎というよりも爆撃騎だ。


 迎え撃とうと敵の護衛騎が直ぐに接近して来ようとするが、ゴブリン軍の主力プテラノドンの能力ではドレイクに敵うはずもない。

 逆に大きく引き離し、敵編隊の上空に出た。


 そこで敵の護衛騎がプテラノドンでは無いことに気が付いた。

 タラソドロメウス系の翼竜みたいだ。

 プテラノドンよりも小型で、トサカ《・・・》が大きか目立つ翼竜。そして小型故に小回りが利く。


 しかし爆撃騎といい護衛騎といい、敵は新しい翼竜をどんどん投入してくるな。

 だがドレイクの能力なら全く問題無い。それにこっちには連装砲筒がある。


 僕はドレイクを急降下させた。


 敵の護衛騎はまだ僕に追い付けずに、必死に上昇中だ。


「邪魔だ!」


 急降下しながら連装砲筒を発射。


 ドンッドンッと大きな反動がドレイクの身体を揺さぶる。

 思った以上に反動が大きい。


 敵の護衛騎も火槍を撃ってくるが、こちらの方が火槍の低伸性能が圧倒的に良い。

 敵の火槍は直ぐに山なりに落ちて行くが、こっちの火槍は真っ直ぐに飛んで行く。


 しかし当たらなかった。

 反動を考慮に入れなかったからだ。

 だけどこれで大体の火槍の軌道特性は理解した。次は外さない。


 僕はそのまま敵の護衛騎を通り越して、爆撃騎へと降下を続ける。

 敵の護衛騎は慌てて反転するが、ドレイクの機動性には付いて来れるはずもない。


 僕は先頭を飛ぶ爆撃騎に狙いを付ける。

 やはりこいつも革鎧を装着していやがるな。

 しかしこの連装砲筒なら……


 僕は引き金を引いた。


 再びドンッドンッと大きな反動。

 そして閃光を残して二本の火槍が放たれた。


 撃ち終わると、ドレイクを敵爆撃騎の編隊の下へと潜り込ませる。


 その間に火槍は、先頭の爆撃騎の翼と胴体に命中。 

 運悪く革鎧の上に当たった。

 しかし心配は不要だった。


 直ぐに火槍に仕込まれた爆裂魔法が発動。

 爆発は翼を引き千切り、革鎧もろとも胴体に大穴を空けて鮮血を撒き散らした。


 僕は後方のそれを覗き見て、その威力に驚愕する。


「爆発……凄い威力だ」


 火槍に爆裂魔法を付与した威力である。思った以上に強力だった。

 

 気を取り直して今度は上昇する。

 敵爆撃騎の腹目掛けて突っ込ん行く。

 そして連装砲筒発射!


 二騎目と三騎目に掛けて、滑らせる様に連射しながら射点を変えた。


 すると二騎目と三騎目の爆撃騎に爆発。

 胴体や翼に大穴を空けて、そのまま墜落して行く。

 この連装砲筒の前では、革鎧なんて誤差でしかなかった。


 残りの爆撃騎は一騎のみ!


 再び上空に出るとドレイクを反転させて、四騎目の爆撃騎に騎首を向けて降下。

 今度は少し遠くから発射してみた。

 射程距離があるから偏差射撃がちょい難しい。


「当たるかな……」


 自信は無いが引き金を引いた。


 すると射点に自ら飛び込むように敵爆撃騎が入り込んだ。

 途端に二発の火槍が首に突き刺さり、爆裂魔法を発動。

 鮮血を散らして首が千切れ飛んだ。

 四騎目も撃墜だ。

 これで敵の爆撃騎はいなくなった。


 その頃になってやっと、ビーナス飛行隊のメンバーが上がって来た。

 そこで敵の護衛騎と空戦に入った。


 よおし、僕も加わろうっと。

 残るは護衛騎だけだ。


 僕はドレイクを急降下させる。


 グングンと降下速度が増して行く。ワイバーンとは違い、いくらでも速度を上げられそうな気がする。


 しかしだんだん風圧で息苦しくなる。

 僕は出来るだけ姿勢を低くして、風の抵抗を和らげる。


 敵騎と味方騎は乱戦状態だ。

 友軍騎に当てない様に、慎重に狙いを定める。

 そして乱戦から少し離れた敵騎に狙いを定め、僕は連装砲筒の引き金を引いた。


 強い反動を残して火槍が飛んで行く。しかし当たらない。

 敵騎は僕の存在に気が付いていたらしい。回避行動をとっている。


 僕はさらに追尾しながら、引き金を引く。既にひとつ目の連装砲筒は撃ち尽くし、ふたつ目の連装砲筒を発射している。


 だがまたも避けられた。

 この敵騎は絶妙なタイミングで回避するのだ。

 さらに追尾しようとするが、小回りの利く翼竜の能力を上手く使い、ヒラリとかわされて、どうにも真後ろを取れない。

 この敵の護衛騎の操竜士は、中々の腕前である。もしかしたら敵のエース級の操竜士なのかもしれない。

 そういえば翼竜の頭の革鎧が赤く染められているな。

 ちょっと恰好良いとか思ってしまった。僕もやろうかな。


 そんな事を考えていたら、その赤兜が僕の後ろに回り込もうと急旋回してきた。


「させないから!」


 僕も半ば強引にククリを下降旋回させる。

 

 急激な旋回で体中の血液が一気に下がる。

 そうなると立ち眩みの様な状態になる。

 そこで魔力を自分に注ぎ、それを回復する。学校で習った回復法だ。


 だが敵の赤兜はまだ付いて来る。


 ならばと僕は宙返りを試みた。









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