第33話 ドレイク
砲筒から放たれた火槍が、真っ直ぐに編隊長騎へと飛んで行く。
三座の真ん中に座るゴブリンが、こちらを指差して
だがもう遅い。
火槍は恐怖するゴブリンの顔面を貫き、なおも翼竜の胴体に突き刺さった。
堪らず翼竜が鳴き声を上げ、大きくバランスを崩す。
すると、どういう訳か腹に抱えた
すると、それがまるで合図だった様に、他の攻撃騎からも次々に
友軍基地までは、まだ距離があるにも関わらずだ。
やはり指揮官騎だったのだろう。指揮官騎が
そしてしばらくはヨロヨロと飛行していた三座騎だが、遂には翼竜の力が尽きたのか、ゆっくりと高度を落として行き見えなくなった。
爆撃を終えた敵攻撃騎の編隊は大きく旋回すると、もと来た方向へ飛び始めた。帰還するようだ。
敵の護衛騎も帰って行く。
これで基地の爆撃は何とか回避した。
僕はマーク小隊長達の元へと下降しようとして、ハルバートの違和感に気が付いた。
「怪我をしてるのか?!」
僕は慌ててハルバートの身体を見回すと、後ろ脚付け根に裂傷を発見した。敵の火槍が肉をえぐったみたいだ。
何とか飛べてはいるが、早く地上に降ろして治療しないといけない。
僕は無理せず、ゆっくりと下降させて行った。
地上に降りると、僕達の飛行隊は全員無事が確認出来た。しかし僕達の他に空に上がった五騎の友軍騎は、結構な被害が出ていたと知らされた。
まずはハルバートは直ぐに格納庫の整備兵へと引き渡す。
それが終わると僕達は、マーク小隊長に各個人の戦闘結果を伝えることになった。
僕は撃墜確実が三騎、三座騎が撃墜未確認と報告。
するとマーク小隊長。
「ああ、あの三座騎か。あれは地面に激突したよ。やっぱりトーリが落とした獲物だったんだな。ということはトーリ、お前は四騎も撃墜したのか……凄いな」
聞けばカザネさんを含む他の皆はせいぜい一騎撃墜で、マッシュ君だけ二騎撃墜だそうだ。
するとマッシュ君のトータル撃墜スコアは十八騎。
僕もトータル十八騎……やった、追い付いた!
そこでマッシュ君。
「トーリ、遂に追い付かれちまったな。俺も少し気合いを入れないと駄目みたいだな。見てろ、直ぐに引き離してやるからな」
さらにカザネさんまで。
「わ、私だって負けてないわよ。絶対に追い付いてやるんだからね。でもさすがトーリね」
そう言ってウインクしてくるカザネさん。ちょっとドキリとしたよ。
そうなると気になるのが軍全体のスコア順位だ。
「マーク小隊長、指揮所に報告に行ったら、撃墜スコア順位を見てきて下さい」
僕の言葉に「もちろん」と言って、早速報告に行くマーク小隊長。
僕達は宿舎に戻った。
後で分かった事だが、東部戦線の戦況がかなり悪いらしく、撃墜スコアの情報が中々送られてこないらしい。それで、結局は撃墜順位も分からずじまいだった。
そこまで戦況が悪くなっているとは思わなかった。今僕達が戦っている西部戦線も芳しく無く、ちょっと不安ではある。
その翌日のことだった。
宿舎に伝令兵が来た。
伝令は僕個人宛てだ。
その差出人は情報部戦術科のローレンツ少佐である。
何でも渡す物があるからすぐに来いというもの。
僕は伝令兵が乗って来た馬に乗せてもらい、翼竜の格納庫にやって来た。
そこは普段使われていない格納庫である。少し大きめに造られていて、爆撃用の翼竜でも格納出来る大きさがあった。
中へ入って驚かされた。
そこには巨大な翼竜がいたからだ。
少し金属っぽい緑色をしていて、見る角度によってはキラキラと光り輝いて見える。メタリック・グリーンとでも言おうか。
その緑色翼竜は僕が格納庫に入るや否や、その大きな頭をこちらに向け、緑色の瞳で僕を睨んだ。
僕は一瞬で全身が硬直した。
蛇に睨まれたカエルのように。
「おお、トーリ兵曹、やっと来たか」
その声で我に返り、声の主に顔を向ける。
そこにはローレンツ少佐と、数十名ものその部下達が何やら作業をしていた。
「ロ、ローレンツ少佐、遅くなりました……」
そう返答をしたは良いが、緑色翼竜が気になって、そちらをチラチラ見てしまう。
するとローレンツ少佐が笑いながら言った。
「ははは、驚いたかね。グリーン・ドレイクだよ」
それを聞いて再び僕は驚く。
ドレイクなんか初めて見るからだ。
確かドレイクはドラゴンと外見は変わらず、ブレスを吐くかどうかの違いだけ。つまりドラゴンを見てるのと一緒。そう考えただけで身体が委縮してしまいそうだ。
僕は返答出来ずにいると、ローレンツ少佐は話を続ける。
「このドレイクはたまたまテイムに成功したんだがな、ちょっと気性が荒くて中々乗り手が見つからなくてな。そこでロバート・ボング大尉なら乗りこなしてくれるかと思ってね、彼のいる東部戦線へ送るはずだった個体だよ」
それを聞いて納得した。
エース操竜士のボング大尉なら、きっと上手く乗りこなしてくれると思う。
しかし、ボング大尉は確か……
「あの〜、ボング大尉は撃墜されたって聞いたんですが、大丈夫なんでしょうか」
「ああ、確かに撃墜されたと報告があったよ。だけどボロボロの翼竜で何とか不時着させ、かなり負傷はしたが命は取り留めて今は入院中だよ。復帰はまだ先になるらしいがね」
「生きてるんですね。それは良かった、安心しました」
僕が大きく息を吐いてホッとしていると、ローレンツ少佐はやや声を強めにして言った。
「それでだな、ここからが本題だぞ、トーリ兵曹」
「はい?」
僕が驚きの表情を向けると、ローレンツ少佐は笑みを浮かべながら説明を始めた。
「ボング大尉が不在の今、このグリーン・ドレイクの操竜士が居ない。そこで白羽の矢が立ったのが、トーリ兵曹、貴官という訳だ」
「え、え、ちょっと待って下さい。僕、ですか? マッシュ君とか他にもエース級はいるのにですか?」
「そうだ。私は貴官しか居ないと思っている。過去の実績もあるしな」
僕は大慌てで両手を振って見せて返答する。
「いや、いや、だって僕にはハルバートがいますし、ドレイクなんて無理ですって」
「ドレイクだからこそ君なんだよ。それに貴官のワイバーンは負傷したと聞いたぞ。
そう言われたらもう何も言えない。
「了解しました……」
こうして僕はこの恐ろしげなドレイクに乗る事となった。
ただ、ローレンツ少佐の説明はまだ続いた。
「ーーそれでこれが新しく開発した砲筒だよ」
そう言ってローレンツ少佐は、近くにある砲筒を何本も束ねたような形の金属をペシペシと叩いた。
新しく開発、その言葉通り新型の砲筒をこのドレイクに搭載するつもりらしい。
つまり僕は新型武器のテストも兼ねるということ。
新型の砲筒は八連装の砲筒で、一斉射撃は出来ない代わりに、連続射撃が出来る仕様となっている。これをニ器搭載、つまり火槍を十六連発で発射可能であった。
さらに火槍には常に二重の呪符が施されていて、命中率向上の呪符に加えて、爆裂魔法の呪符が施されているという。
しかもロック鳥対策で、槍が対象に刺さってから爆裂発動するように、遅延魔法の調整がされているんだとか。
「無敵じゃん」
思わず声に出てしまった……
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