第32話 敵編隊へ挑む
敵の攻撃騎だけの編隊かと思っていたのだが、その後方にはしっかり護衛騎が付いていた。
それに気が付いて僕は叫んだは良いが、皆に声が届く訳もなく、マーク小隊長はそのまま攻撃のため降下を始めた。
きっとマーク小隊長のことだ、気が付いているに違いない。
そう思い、僕も編隊を崩さず付いて行く。
カザネさんの小隊も追随する。
マーク小隊長は、敵の編隊のほぼ真上から急降下を始めた。
そこへ敵護衛騎が速度を増し、攻撃騎を守る様に被さって上昇して来る。
その数六騎。
護衛騎と僕達は真正面で対峙することになる。
上昇して接近する護衛騎に下降する僕達ビーナス飛行隊。
マーク小隊長は騎首を攻撃騎に向けたままで、このまま行けば相打ちとなる。
どうするつもりだ?
すると突然進路を変えるマーク小隊長。
回り込む様に急旋回だ。
敵騎は上昇に魔力を使い過ぎて直ぐには反転できず、あっという間に側面をさらす。
そこへマーク小隊長の火槍が飛ぶ。
火槍は翼竜の頭部を貫いた。
撃墜だ。
すると敵騎は編隊を解いてバラバラに逃げて行く。
そうなると乱戦となる。
そこでマッシュ君は水を得た魚の
僕もここぞとばかりに暴れ出した。
敵の護衛騎と空戦状態となると、敵も味方も高度が段々と落ちて行く。
ただ、僕は違った。
皆が敵の護衛騎と戦っている間に、僕はその戦闘空域から離れる。
敵の護衛騎ではなく、攻撃騎に戦闘を仕掛けるためだ。
僕は急上昇して敵の編隊の上空へと出る。そこから下を眺めると、二十騎ほどの大編隊が見えた。
その下方では友軍騎が、敵護衛騎と空中で格闘戦をしている。
皆には悪いけど、僕は敵攻撃騎をやらせてもらう。
十分に高度をとったところで、翼をひるがえして降下に入る。
そして編隊の先頭を飛ぶ、敵攻撃騎の上方正面より攻撃を仕掛けた。
後方からだと、翼竜の後部に据えてある砲筒に狙われるからだ。
あれだけの数の砲筒から狙われたら、たまったものじゃない。
ここは正面から行くに限る。
僕は降下しながらワイバーンに声を掛けた。
「行くよ!」
それに反応するようにハルバートが雄叫びを上げる。
ハルバートは翼を引っ込めて、長い首を真っ直ぐに伸ばす。
その恰好で降下すると空気の抵抗が少なく、速度が急激に増していく。
降下速度が増すに伴い、僕は前向姿勢となる。
あっという間に敵の攻撃騎が目前に迫る。
そこで気が付いた。
敵騎の違和感に。
敵の攻撃騎の翼竜は、何やら身体に身に着けていた。
革鎧?
そこで先程の光景を思い出す。
敵騎に向かって放った火槍が、刺さらずにパラパラと落ちて行く光景を。
革鎧に防がれたのか……
敵の翼竜は身体の要所を鎧で被っていたのだ。それで火槍が刺さらなかったわけだ。
ならば革鎧の無いところに当てれば良い。でも狙えるのか?
そんな事を考えている内に、敵からの魔法攻撃が始まった。
しまった、接近し過ぎたか!
僕は避けることはせずに、火槍の狙いを付けることに全力を注ぐ。
たかが石弾魔法だ!
魔法攻撃が飛び交う中、狙い澄まして砲筒の引き金を引く。
ドンッという発射音と閃光。
火槍が飛んで行く。
僕は直ぐに翼竜を操作。
敵騎にぶつかるギリギリで反転上昇。
体中の血が下がり、目の前が暗くなり、身体が翼竜に押し付けられる。
気を失いそうだ。
必死に耐えて、体内の魔素を操作する。
すると目の前が明るく回復する。
そして騎首を水平に戻し、攻撃した敵騎を覗き込む。
僕の放った火槍は敵騎の首を貫通。
クルクルと
頭部は革鎧があるが首は無防備だった。そこへ上手く命中したのだ。
「良し、行ける!」
僕は再び敵騎の上空から真逆様に降下を始めた。
しかし今度は先程よりも明らかに抵抗が激しい。一騎撃墜されて敵も本気になったのか、砲筒の固定具を取り外し、向きを変えて火槍を飛ばしてきた。
さらに射程距離外にも関わらず、魔法攻撃までしてくる。
物凄い数の火槍と魔法弾が、たった一騎の翼竜の僕に飛んでくる。
正直この防御射撃の中へ突っ込んで行くのは勇気がいる。
だが今更後へは引けない。
僕はその激しい防御射撃の真っ只中へ降下して行った。
ハルバートの身体を右に左にへと揺らし、狙いが定まらない様に飛ぶ。
それでもたまに火槍がすぐ近くを掠めて行く。
敵編隊に肉薄。
魔法攻撃がくる。
魔法の石弾がハルバートに命中。
大丈夫だ。これくらいはワイバーンの皮膚で受け止められる。
砲筒の引き金を引く。
時間差でもう一発。
火槍が白い軌跡を残して飛んで行く。
最初の一本目が先頭を飛ぶ翼竜の首の付け根に命中。
遅れて二本目の火槍が、二番目を飛ぶ翼竜の右翼に突き刺さった。
どちらも革鎧が無い所。
首に火槍を受けた翼竜は、暴れながら落下して行く。
右翼に受けた翼竜はコントロールを失い、直ぐ隣を飛ぶ翼竜に衝突。
二騎がもつれ合いながら墜落して行った。
良し、三騎撃墜。
でもまだだ!
僕は一旦敵攻撃騎の下へと潜り込む。
そして急上昇。
魔力の消費が激しい。
でも……まだやれる!
敵翼竜の腹が目前に迫る。
その腹部分には、
ただそれは木でガードされている。
「そんな板切れ程度ならっ」
叫ぶと同時に砲筒を発射。
狙い違わず火槍はガードされた板を貫通、
たちまち爆発が起こり、ゴブリン兵もろとも敵騎は四散した。
その爆発で編隊に乱れが生じた。
敵翼竜が驚いて、勝手な動きをし始めたからだ。
「これで四騎撃墜。次っ!」
僕は次の標的を選びながら、爆発の横をすり抜けて上昇して行く。
そこで編隊の中央付近に、少し変わった形の翼竜を見つけた。
複座ばかりの攻撃騎の中で、この翼竜だけ三座なのだ。
「あれが編隊長騎だな……」
僕はそう確信した。
ならばやることは決まっている。
僕は十分に高度をとると、そこから一気に降下する。
もちろん狙うは編隊長騎らしき翼竜だ。
敵の編隊の中央へと降下して行くのだが、これがまた物凄い防御射撃だった。
しかし先程までの様なしっかりとした編隊は組めてない。大きく乱れてしまっている編隊からの防御射撃など、恐れるに足りない。
僕は砲筒の引き金を握り締め、真っ直ぐに降下して行った。
そして引き金を引く寸前だった。
ハルバートがガクンッと揺れた。
しかしハルバートからの意思疎通では何も伝わって来ないし、飛行するのに不都合もなかった。
それならと、僕は構わず引き金を引いた。
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