第31話 エース
僕は受け取った箱の中身を見た。
「こ、これってエースメダルですよね!」
中身は金色に輝くエースの称号を示すメダル。敵騎を十騎撃墜した者だけが貰えるメダルだ。
遂に手に入れたんだ!
僕のトータル撃墜スコアは十四騎と、十一騎のカザネさんを超え、十六騎のマッシュ君にも迫ってきた。
ついに同期のトップ二人と、肩を並べるくらいまでになったんだ。
そう考えると嬉しさが増してくる。
僕が浮かれていると、中佐が真剣な眼差しで話を大きく変えてきた。
「それで話しは違うのだがな、君達の飛行隊はしばらくの間、敵の爆撃騎の迎撃任務に当たってもらいたい」
今までは哨戒任務が殆んどだったのだが、これからは迎撃が主な任務になるという。つまり敵を探しに行くのではなく、来るのを待つということか。
さらに中佐。
「詳しくはマーク小隊長に話しておくから、後で聞くように」
そこで僕とマッシュ君は、そこから追い出されるように外に出た。そして宿舎に戻る道を歩き出した。
途中、マッシュ君が僕の足の怪我に気が付き、ヒールポーションをくれた。そう言えば怪我をしていたのをすっかり忘れていたよ。
翌日になると病院に行っていた何人かが、退院して宿舎に戻って来た。
しかし全員ではない。
それを知らせる為にカザネさんは、いつもの様に取り巻き女子をニ人連れて、男子部屋へと堂々と入って来た。
「トーリ、復帰人数を知らせにきたわよ」
ここで初めて退院の人数を聞く。
「あ、カザネさん。わざわざありがとう。それで何人が復帰出来たの」
「それがね、たったの三人なのよ」
それは目の前にいる女の子二人とカザネさんってことだ。
ヒールポーション使ってこれだ。
かなり酷い負傷が多かったんだと思う。
「ビーナス隊長も駄目だったんだ?」
「そうなのよ。それでこの私達三人で小隊を組むことになったのよ。それで私が小隊長代理なの」
僕達ビーナス飛行隊は、一瞬にして半数になってしまった。
それからカザネさんは野戦病院で色々と情報を仕入れてきたようで、僕とマッシュ君にもそれを話してくれた。
「敵のゴブリン地上軍は、戦線を一気に押し上げて来てるらしいのよ。でもこれ以上戦線を下げたくない上層部はね、ここで踏ん張るって言ってるらしいの」
完全に敵に押されているな。言い換えれば負けている。
カザネさんはさらに話を続ける。
「それからね、本当かどうか分からないんだけど、撃墜スコアトップのボング大尉なんだけど、東部戦線で撃墜されたって……」
衝撃的過ぎた。
ロバート・ボング大尉が撃墜された?
これが本当なら大変なことだ。
確か現在のスコアは二十五騎だったか。
我が軍の撃墜トップでエース中のエース。
そのトップエースが撃墜……
近くにいたマッシュ君は、ゴーグルを磨く手が止まっている。やはり衝撃は隠せないようだ。
もしそれが本当だとしたら、我軍の士気に関わる一大事だ。
そんな話している時だ。
空襲警報の鐘が鳴り始めたのは。
真っ先に反応したのはマッシュ君だった。
「ほら、行くぞ。俺達の任務の最優先は敵騎の迎撃だろ!」
促されるまま、僕達は走って宿舎を出た。
格納庫にはマーク小隊長が既に到着していて、僕達の翼竜も飛び立つ準備万端だ。
マーク小隊長が大声を上げる。
「前線の監視塔から空襲の合図である
凄い大編隊だ。
慌てて僕達は翼竜に乗り込み、そのまま舞い上がる。
その時、僕達以外の飛行隊の友軍五騎が舞い上がって行くのが見えた。
だがその五騎を入れても敵の数の方が多い。
ある程度高度を上げると、マーク小隊長を先頭に僕達六騎は編隊を組む。
今回は発見が早かったので、敵のいる高度まで上がって行けそうだ。
敵の数は多いが、高度さえとれればまともに戦える。
しばらく飛ぶと敵影が見えてきた。敵はアズダルコ系の攻撃騎と、プテラノドン系の護衛戦闘騎の編隊だった。
敵もこちらに気が付いて、護衛のプテラノドン八騎がこちらに向かって降下して来た。
僕達としては攻撃騎へ向かいたいのだが、敵の護衛騎が邪魔してくる形だ。
そこでマーク小隊長から手信号で合図。
『護衛戦闘騎に構うな、攻撃騎を討つ!』
その言葉の通り飛行軌道は変えずに、真っ直ぐに上昇を続けるマーク小隊長。僕達もそれに続く。
そこへプテラノドン八騎が斜め前方から迫って来る。
しかしマーク小隊長が方向を変える気配はない。
このままだと、敵の砲筒の一斉射を喰らうんじゃないだろうか。
敵八騎の一斉射はさすがにキツイぞ。
そう考えていた矢先に、敵の一斉射撃が始まった。
だがその寸前、見計らったようにマーク小隊長の翼竜が下降旋回。
僕らもそれに付いて行く。
すると頭の上を火槍が幾本も
「凄い!」
思わず声が出た。
見事な回避タイミングだ。
この部隊で小隊長をやっているだけのことはある。
火槍が通り過ぎると再び上昇。
気が付けば敵の攻撃騎の編隊正面、やや下方に位置していた。
物凄い数の敵攻撃騎だ。
マーク小隊長が腕を大きく後ろから前に振った。
『突撃』の合図だ。
マーク小隊長はこの状態からさらに加速させる。
皆付いて行くのがやっとだ。
散々上昇しておいて、さらに加速とか普通ならば無理だ。
魔力が持たない。
操竜士も大変だが翼竜はもっと辛いはずだ。
ただ、僕だけは違った。
辛いどころか、まだ余裕がある。
なんなら小隊長を追い抜けるかな。
そんな事はしないけど。
そしてマーク小隊長が遂に砲筒を撃った。
それに合わせて他の者も、砲筒の引き金を引いた。
有効射程よりもかなり遠い距離だが、僕達なら命中させられる。
一騎あたり二発の発射。
それが六騎で合計十二発の火槍が、敵の先頭辺りを飛ぶ攻撃騎群へと放たれる。
マーク小隊長は命中確認をせずに反転。退避飛行に移りつつ上半身をひねり、放った火槍の命中を確認している。
白く伸びた火槍の軌跡が、敵の攻撃騎の編隊に吸い込まれて行く。
すると敵編隊の中の何騎かが、バランスを崩すのが見えた。
だが落ちない。
確実に何本かは命中しているのに。
そこで視力の良い僕には見えてしまった。敵の翼竜の下へパラパラと落ちて行く火槍が。
刺さらなかった?
かなり遠くから放ったからだろうか。威力が落ちたとか?
するとマーク小隊長は敵の護衛騎の方を見ている。
僕もそちらに目を向けると、敵の護衛騎は僕達とは別に上がって来た友軍騎と混戦状態らしい。友軍騎には悪いが、これなら敵の攻撃騎に集中出来る。
マーク小隊長もそう判断したようだ。
僕達は敵の上空へと上昇して行く。
そこでカザネさんの小隊と二つに別れる。
僕達マーク小隊とカザネさんの小隊とで、波状攻撃を行なう作戦だ。
しかしそこで見逃していた誤算があった。
それに気が付いて僕は叫んだ。
「攻撃騎の編隊後方、敵の護衛騎!」
敵の護衛騎はまだ他にもいた。しかも隠れるように攻撃機の編隊に交じっていたとは。
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