第30話 司令官と戦果報告
僕は必死だった。
あの巨大な鳥を落とさなくちゃという使命感から、全力で戦った。
火槍は使い果たし、勢い余って騎乗格闘まで挑んでしまった。
無茶だったとは思うが撃退は出来た。
そうだ、基地に戻ってプテラノドンを追い払わないといけない。
僕はゆっくりと高度を落として行く。
しかし敵の攻撃は終わっているようで、味方騎は地上へと着陸している最中だった。
それにしても基地周辺は酷い有様だった。
爆撃で穴だらけだ。
まだ燃えている建物もある。
僕も格納庫近くの空いたスペースに着地する。
そこで気が付いた。相棒のハルバートが傷だらけだ。
火槍が
だけと僕には真っ先にやることがある。
僕は直ぐにカザネさんを迎えに行かなければいけない。
だが着陸してみると、彼女はすで格納庫の近くにいた。
ヒールポーションの効果なのか、かなり元気そうであった。ちょっと安心した。
カザネさんは手を振りながら小走りで近付いて来る。
その勢いのまま、僕に飛び込んで来た。
「トーリ!」
いきなり抱き着かれたんだが。
や、やらかい……
おおっといかん!
「カザネさん、傷の具合はどうなの?」
「もう大丈夫、トーリのおかげね」
そう言って笑顔を見せる。
ち、近い……
思わず顔が熱くなり、視線をそらしてしまう。
だけど、ちょっと良い匂いがするんだよな。
――た、たまらん!
こ、こういった時、僕の手はどこへ持って行けば良いのだろうか。
僕は両手をニギニギさせながら迷っていると……
男の声が掛かる。
「お楽しみ中悪いんだが、トーリ、お前の報告を指揮所で待っているみたいだぞ。急いで行ってくれるか」
お楽しみ中って……
僕は慌ててカザネさんから離れて、声のした後ろを見る。
「マーク小隊長、ご無事でしたか!」
声の主は僕の小隊の隊長だ。慌てて敬礼。
その横にはマッシュ君もいる。
「マッシュ君も無事だったんだ。良かった……」
するとマッシュ君。
「無事だったけどよ、今回はトーリに完敗だな。トーリ、お前すげ〜な?」
そうだった。
低空で三騎のプテラノドンを撃墜し、高空へ上がって巨大な鳥魔獣を二騎も落としたんだ。
でも、それより被害が気になる。
「そう言えば、他の皆は無事なんですか」
カザネさん以外にも、小隊の仲間が何騎か落とされているはずだ。
しかもその後に
その疑問にマーク小隊長が答えてくれた。
「殘念ながら我が飛行隊の女性小隊の殆んどが、野戦病院行きとなった。戦死も二名いる。重傷者もいたから、もしかしたらもっと増えるかもしれない。殆んどが敵のいる高度に到達する前にやられたよ。ビーナス隊長も離陸寸前に爆発の破片を食らってな、野戦病院へ担ぎ込まれたよ」
何てことだろうか。
敵と対峙する前にやられてしまったのか。
しかも戦死者がいるなんて……
落ち込んでいるとマーク小隊長に背中を叩かれる。
「ほら、しっかり歩け。指揮所へ行くぞ」
僕達は早足で指揮所へ向かう。
カザネさんは野戦病院へ行くと言うのでそこで別れた。
そして指揮所に到着してみると、そこはボロボロだった。
爆発で半壊となっていて、とても中へ入れる状態ではない。
それにまだ爆撃の
そんな中に一張の天幕が張ってあり、そこが仮の指揮所とのこと。
マーク小隊長を先頭に僕達は、その天幕の中に入って行く。
すると中には中佐と少尉がいた。
中佐って言ったら、この飛行基地の司令官だ。
ちょっとビビる。
司令官に直接報告なんて初めてだよ。
そこで今回の敵の空襲に対しての、僕達の戦闘報告をする。
報告の全部をマーク小隊長がしてくれたのだが、そこで疑問が生じる。僕とマッシュ君は必要ない気がするんだけど。
そんなことを考えていたら、急に僕とマッシュ君の話になり、マッシュ君が自ら説明を求められた。
マッシュ君の話を聞いていると、マッシュ君は敵騎を二騎撃墜らしい。
そして次は僕に話が振られた。
そこでプテラノドンを三騎撃墜したこと、そして上昇した後、巨大な鳥系魔獣を撃墜確実二騎、未確認一騎と報告した。
嘘など言ってないのだが、中佐は僕の話を
そして話が終わると質問攻めだった。
どうやら地上に落ちた敵の数は、マッシュ君と僕の証言数と一致して、撃墜数は間違いないようだ。
あの巨大な鳥系魔獣は三騎落ちたというから、未確認だと思った一騎は撃墜出来たと知った。
ただし三騎目の鳥系魔獣は、地上に落ちた時はまだ生きていたらしい。
騎乗兵のゴブリンも何人か生きていたというが、敵の支配地域が近く逃げられたらしい。
敵騎は両目を潰されていた為、何とか地上部隊が止めを刺すことが出来たそうだ。
そうなると僕は今日の出撃で、五騎の敵騎を撃墜したことになる。
よくよく考えたら、これって凄い事かもしれない。
しかし少佐はそれよりも、三騎の巨大な鳥系魔獣を撃墜したことが気になるらしい。
「トーリ兵曹、君が撃墜したのはロック鳥だ。普通はワイバーンでは
ロック鳥の名を聞いて驚く。
「あれがロック鳥なんですか……」
僕、ロック鳥を三騎も落としちゃったよ。
「そうだ。幼鳥ではあるがロック鳥に変わりはないからな。それを三騎撃墜なんて耳を疑う記録だ。まあそれは一旦置いといてだな。聞きたいのは、短時間でどうやってあの高度まで上がったかだ。貴官が乗っていたワイバーンでは無理しても半刻は掛かるはず。それを四半刻も掛からず上がったそうじゃないか。それを説明してくれるか」
言葉が出てこない。
何か悪い事したみたいになってるんだけど。
でも、どう説明すれば良いのだろうか。
「説明が難しいのですが、ハルバートと――あ、ワイバーンのことですね。そのワイバーンと一体化したような感じになったんです。そうしたらワイバーンの魔素を僕が魔力に変換出来てですね、そうしたら一気に上昇出来たんです。僕が魔力変換した方が効率良くてですね。それから――」
「トーリ兵曹、ちょっと待て。当たり前の様に話すがな、私には理解できない内容だぞ。どうして貴官がワイバーンの魔力変換をするんだ。というより何故出来る。言ってることが無茶苦茶だって事が分かってるのか?」
そんな事を言われてもな。
別に嘘を言ってる訳じゃないし。
「そう言われると何も言えなくなります。でも嘘は言ってないですので、それだけは分かって欲しいです」
「そうだな。貴官が嘘を言う理由もないしな……ではロック鳥はどうやって撃墜したんだ」
「はい、
「ちょ、ちょっと待ってくれるか。爪を立てたとは、もしかして格闘戦をしたというのか。あの重武装のロック鳥に接近して……」
中佐の表情が呆れ顔になってるんだが。
「確かに防空砲筒は沢山あって避けるのは大変でしたけど、ワイバーンと一体化してたんで全部避けれたんです。それに格闘って言っても、魔法攻撃をする間だけですよ。爪を立てている間に顔面に炎弾を喰らわせたんです。そしたらうまい具合に両目を潰せたんで、直ぐに離れました。それから……えっと、なんかすいません」
中佐は親指と中指でこめかみを押さえているのが見えて、強引に話を打ち切った。
「トーリ兵曹、大まかな話は分かった。そもそも
「はい、そういうことになります」
すると中佐は机の中から何かを取り出す。
「一度の出撃で六騎撃墜は新記録だ。それと貴官はこれで撃墜数が十騎を越えた。これを渡しておく。おめでとう」
小さな箱を渡された。
僕はその箱の中身を見て、飛び上がるほど喜ぶことになる。
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