第28話 連続撃墜







 フラフラで飛んでいるワイバーンに騎乗していたのは、カザネさんだった。


 撃墜されたのは女性陣の小隊ばかりのようだ。


 カザネさんのワイバーンはかろうじて飛んではいるが、あの感じだと長くは持たないだろう。

 それが分かっているのか、着陸しようと地面に近づいて行く。

 だがワイバーンの太ももには火槍が突き刺さっている。下手したら着陸の際にワイバーンが横転して、カザネさんは潰される。


 カザネさん、上手く着地して!


 そこへ再び敵が降下して来た。


 マーク小隊長が旋回して退避飛行を始める。

 僕もそれに付いて行こうとすると、マッシュ君が反対方向に急旋回。


 独断行動に出たみたいだ。


 それを見たマーク小隊長は呆れた表情で僕にも「自由飛行しろ」と合図を送ってきた。


 そこからは乱戦になる。


 とは言っても僕達が不利な態勢なのは変わらない。


 僕はカザネさんを守ろうと接近。


 するとカザネさんは笑顔で手を振る。「私はだいじょうぶ」とでも言ってるみたいだ。


 カザネさん自体は元気な様だ。少し安心した。


 僕はちょっと嬉しくなって手を振り返そうと片手を挙げた時だった。


 空から何かが降って来た。




 ――爆樽ばくたる




 気が付いた時には、ものすごい風圧と煙が辺りに漂っていた。


 低空を飛んでいたのでもろに爆風を受け、もう少しで飛ばされるとこだった。

 着地態勢だったカザネさんのワイバーンは、爆風に吹き飛ばされてクルッと半回転しながら地面に突っ込んだ。


 一瞬のことだった。


 カザネさん……


 駄目だ、そんなの駄目だ。


 きっと見間違いだ。


 そんなはずがない。


 たった今、手を振っていたんだよ?


 おかしいよ、有り得ない!


 僕は地面にスレスレの高さで、周囲を飛び回り叫んだ。


「カザネさん! カザネさん!」


 そこへさらに爆樽ばくたるが着弾。


 さっきより近い!


 一瞬の閃光。


 風圧と破片が全身を襲う。


 相棒のハルバートが大きく傾く。


 目の前が真っ暗になる。


 そして記憶が一瞬消える。


 ・

 ・

 ・

 ・


 気が付くと相棒のハルバートは地面にうずくまり、僕は騎乗したまま気を失っていた。


「着陸したのか……」


 爆風のせいか、耳鳴りがする。

 周囲を見渡すが、煙で良く見えない。

 安全ベルトのおかげで、僕は地面に投げ出されずに、騎乗具に座ったままだった。

 一旦降りようと安全ベルトを外していると、徐々に煙が晴れてきた。

 すると地面に横たわる、もう一匹のワイバーンが見えてきた。


 カザネさんのワイバーンだ!


 僕は急いで安全ベルトを外し地面に降り立つと、カザネさんのワイバーンに近寄る。


 するとそこには、地面にうずくまるカザネさんがいた。


 僕に気が付き顔を上げるカザネさん。


 生きていた!


 良かった……


 だが怪我をしたようで、肩から血が出ている。


 それでも無事なのは分かった。


 僕は走り出す。

 そこで自分の足を怪我していることに気が付いた。

 だがそれどころじゃない。


「カザネさん、怪我、大丈夫?」


 カザネさんは力無く頷く。


「ヒールポーションは持ってるの?」


 カザネさんは割れた容器を見せる。

 

「そうだよね、凄い衝撃だったから割れちゃうよね……これ、良かったら使ってよ」


 僕は自分のヒールポーションを差し出す。


「あ、ありがと……」


 そう言って受け取りはしてくれたが、何故か使おうとしない。

 疑問に思い聞いてみる。


「どうしたの?」


「その足……」


 カザネさんは僕の怪我した足を心配してくれているらしい。


「ああ、これね。もうポーション使ってこれだから。気にしないでよ」


 そう言って誤魔化した。

 ポーションはひとつしかないとは言えない。


 それでカザネさんは、やっとヒールポーションを使ってくれた。


「カザネさん、僕はまだやることがあるから、ここでじっとしていてね。あとで迎えに来るから」


 僕はそれだけ言うと、相棒のハルバートの元へと向かう。


 見たところハルバートに外傷は無いが、グッタリしている。

 僕はハルバートの頭を撫でながら声を掛ける。


「上で遊々と飛んでいる鳥を落とさないといけないんだ。手伝ってくれる?」


 するとそれに返答するかのように小さく鳴き声を上げた。


 それを聞いて僕はハルバートに騎乗する。


 そして空を見上げた。


「そこで待ってろ、今から行く!」


 手綱を握り締め、再び空に舞う。


 ハルバートが苦しそうだが、僕の意志に従い必死に翼を羽ばたく。


 伝わる。


 ハルバートの気持ちが理解出来る。


 今僕はハルバートと意思疎通が出来ている。


 それだけじゃない。


 ハルバートの身体の中を流れる魔素を感じる。

 その魔素をハルバートが魔力へと変換する様子が分かる。

 

「僕ならもっと効率良く変換出来るよ」


 自然と出た言葉だったが、本当にそれが出来る気がした。


 僕は目を閉じる。


 ハルバートの体内に流れる魔素を、代わりに僕が変換していく。それは膨大な魔力へと変わっていく。


 すると見る見るハルバートの力がみなぎるのが感じられる。


 さっきまでの元気の無い姿が想像できないほどに。


 ハルバートが力強く羽ばたく。


 速度が増す。


 さらに翼を羽ばたく。


 速度が急速に上がっていく。


 そこでハルバートが雄叫びを上げた。


 そして急上昇を始める。

 信じられない程の上昇力だった。


 しかし敵のプテラノドンが黙っていない。

 当然のことながら、突然急上昇を始めた僕に矛先が集まる。

 敵の編隊が下降しながら次々に砲筒を撃った。


 火槍が僕に集中する。


 ハルバートが身体を左右に振る。


 ハルバートの身体が自然と自分の手足のように動く。


 右から火槍が迫る。


 斜めに避ける。


 左から火槍が接近する。


 右にロールして避ける。


 一瞬背面飛行になるが関係無い。


 さらに火槍攻撃は続く。


「邪魔!」


 上昇からの反転、急降下。


 火槍を発射。


 さらに反転して発射。


 そして再び急上昇。


 下を覗くと、二騎のプテラノドンが落ちて行くのが見えた。


 さらに軌道上にプテラノドンが一騎。

 正面から突っ込んでくる。


 良い度胸だ……しかし!


 こちらが先に火槍を発射。


 敵が撃つ前に翼竜の首を貫く。


 バランスを失ったプテラノドンが、回転を繰り返しながらこちらに向かって来る。


 ハルバートを斜めに滑らせる。


 すると恐怖の形相のゴブリン操竜士が横を通り過ぎて行った。


 この騒ぎで敵の護衛騎が混乱し始めた。


 そこへ友軍騎が突っ込んで行った。

 あとは友軍に任せて大丈夫そうだな。

 これで奴を落とせる。


 上空を睨みながら再び上昇した。


 目指すは大型の鳥系魔獣!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る