第26話 飛行隊の実力






 敵は急降下を始めた。


 このままだと僕達は真後ろから攻撃される。


 そこでやっと小隊長からの合図が出た。


 合図と共にイクラ小隊長が反転して、敵の真下に入り込む軌道をとった。

 護衛騎全員がそれに従う。


 てっきり真正面から撃ち合うかと思ったら、そうではなかった。

 敵の真下に入り込んだ僕達を追おうとすると、敵はさらに急角度で降下しなければならず、それをやれば速度が出過ぎて地面に激突の可能性が高まる。

 それをしないで安全策をとるならば、敵は僕達よりも低空へ行って、味方攻撃騎を追尾する選択をするはずだ。

 ただそれをした場合は、僕達に後ろに付かれることになる。


 さすがイクラ小隊長だ。

 瞬時の判断が凄い。


 案の定、敵騎はそのまま僕らを通り越して、低空へと降下して行った。味方の攻撃騎を追尾するつもりだろう。

 

 だが、そうはいかない!


 僕達は反転して敵の後を追って降下し、追尾の態勢をとる。


 しかし敵の方が速度が出ていて、中々追い付けない。 

 それも最初だけだ。水平飛行に移ってからは、徐々に距離が縮まっていく。


 このまま行けば、六騎全部撃墜出来るんじゃないかと思った矢先。

 

 一斉に敵が散らばった。


 突如、左右上下バラバラに飛行を始めたのだ。


 これには驚いた。


 一斉にやるとなると、かなり難しい。お互いにぶつかるから恐れがあるからだ。周囲の状況を判断する洞察力と、思い切りの良い行動力がないと、中々出来るものでもない。

 それで分かったのが、こいつらはあなどれないということ。


 一斉に散るなんて想定してない僕達は、当然次の行動に迷う。

 こっちも釣られて各自が勝手に追尾しようとすると、下手したら味方同士で衝突する可能性も出てくる。


 僕は迷った。


 どうする?


 適当な敵を追尾する?


 ベテラン操竜士ばかりだから、きっと避けてくれる?


 次の瞬間、味方騎は綺麗に散って行った。


 僕も編隊を崩して周りに合わせる。


 追尾する訳でもなく、単に編隊を解いて散っただけだが、それを打ち合わせ無くやって退けるこのメンバーは凄い。

 僕もその中にいることが、何だか誇らしい。


 そこからは乱戦となった。


 六対六だが、僕達は味方騎を守りながら戦わないといけない分、ちょっと不利だ。

 それに敵の操竜士の腕が良さそうだ。間違いなく苦戦する。


 敵も味方も完全に散り散りの乱戦状態だ。これだと下手すると同士撃ちする。

 そんな中で翼竜が一騎、真っ逆さまに落ちて行くのが見えた。


 プテラノドンだ!


 その後直ぐにマッシュ君の翼竜が通り過ぎた。


 マッシュ君が撃墜したようだ。僕も負けてはいられない。

 一番近くの敵に狙いを付けて後を追う。

 

 時々自分の後ろを気にしながら、前の敵を追尾する。前ばかり気にしていると、いつの間にかに後ろをとられたりする。それが乱戦での恐ろしさだ。


 お互いの後ろをとろうと、大空中戦が始まった。


 そんな中で僕がこっそり追尾していた敵に、気が付かれてしまった。

 とはいえ、背後はとった。後は砲筒の正面にとらえるだけだ。


 敵は急な軌道変更で僕を振り切ろうとする。


 だが僕はピタリと取り付いて離れない。


 それで敵は狙いを付けられないように、プテラノドンの身体を左右に振り始めた。


 射程内ではあるが、こうも振られると、中々当てられるものじゃない、

 それでも一発だけ火槍を発射。


 火槍は敵騎の横を通り過ぎる。


 駄目だ、やはり当たらない。


 しかし僕は背後に付いたまま離れない。


 すると敵はらちが明かないと思ったのか勝負に出る。


 急な旋回を始めたのだ。


 しかしそれは悪手でしかない。

 僕にとってはチャンス。


 旋回することにより速度が落ち、敵翼竜が急接近。


 僕の目の前を横切る様に、やや背中を見せて飛んでいる。


 僕は迷わず引き金を引いた。


 砲筒から煙を吐いて、連続して二本の火槍が飛ぶ。


 しかし思った以上に敵の動きは早かった。


「外した!」


 だが諦めない。


 敵の動きに合わせて急旋回。


 今度は先程よりも、身体二つ分先を狙って火槍を発射。

 時間差を付けて三発だ。


 一発目二発目と翼竜の前を通り過ぎる。

 これも外したかと思ったが、三発目が首をかすめた。


 バランスを崩した翼竜は、旋回軌道を止めて真っ直ぐに飛び始める。


 そこへ僕は斜め上方から追加の火槍を放った。


 火槍は翼竜の頭を撃ち抜く。


 すると一回転したかと思うと地面に激突。


「やった、撃墜!」


 ふと後ろを見ると、マーク小隊長が僕の後方を守ってくれている。


 そして気が付けば、戦闘は終わっていた。

 敵が一騎も見当たらない。僕が交戦している間に逃げたのかもしれない。


 散らばっていた味方は自然と編隊を組み飛び始める。騎数に変化無し。味方に被害は無いようだ。


 そのまま僕らは飛行基地へと帰投した。

 

 基地に戻ると指揮所に報告するため、各自戦闘状況を共有したのだが、話を聞くと全員がそれぞれ一騎ずつ撃墜したようだ。

 六人が各自撃墜ということは、つまり敵全騎を撃墜したということ。


 これは凄い!


 味方被害なしの上に敵は全騎撃墜とか、これはドリームチームじゃなかろうか。

 この飛行隊にいるならば、負ける気がしない。


 凄い飛行隊に入ったもんだ。今更ながら驚く。

 

 それからカザネさんが遂に十騎撃墜を達成して、エースの称号を得て嬉しそうだったな。

 羨ましい……




 □ □ □




 その夜、僕達ビーナス飛行隊の宿舎に訪問者が来た。


 来たのはこの日に護衛した攻撃騎の男達、つまりはマッシュ君がボコボコにした奴ら。

 入口の女子護衛兵に呼ばれてマッシュ君と一緒に外へ行けば、そいつらが立っていた。


 続いてカザネさんと取り巻き女子の一人が出て来た。これで今日の護衛隊の士官以外は揃った訳だ。


 向こうの男達も士官以外の翼竜乗りだ。しかし複座だから四騎分の八人もいる。


 喧嘩になったら、これはさすがのマッシュ君も勝てないだろうな。

 女子護衛兵に望みを賭けよう。


 カザネさんが腰に手を当て口を開く。


「何? ボコられたいのかしら」


 いきなり喧嘩腰な物言いはよして欲しい。


 すると男の一人が返答。


「あ、そうじゃないんだ。今日は護衛の礼を言おうと思って来ただけだよ」


 するとカザネさん。


「あら、そうなの。でも任務だからね。礼など必要ないわよ。言い方変えるなら、任務じゃなければ助けないわよ」


 だから〜、いつもひと言多いんだよね、カザネさん!


 それを聞いた男の一人が「なんだとっ」と言って一歩前に出た。


 すると女子護衛兵二人が詰め所から外に出て来て、剣の柄に手を掛ける。

 

 一触即発になったんだけど、勘弁してほしい。


 






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