第25話 攻撃隊の護衛






 僕は叫んだ。


「マッシュ君、逃げるよ!」


 喧嘩に気が付いた暇人どもが、集まって来たからだ。


 僕は逃げながら先程の恐ろしい光景を思い出す。

 返り血を浴びたマッシュ君の薄ら笑い。

 どこか狂気じみたものを感じた。


 ある程度逃げた後でマッシュ君に話し掛けてみた。


「さっきはありがとう。助かったよ。僕だと魔法になっちゃうから、きっと大事になってたよ。それに僕じゃ勝てるとは思えないしね」


 するとマッシュ君は、僕とは目を合わせずに言った。 


「ちょっとカッとなっちまったよ……悪かった」


 急に謝られても困ってしまう。


「いや、マッシュ君が謝るのはおかしいから」


 その後、喧嘩のことがバレて憲兵に捕まる心配をしていたが、喧嘩相手の男達は誰にも言わなかったらしく、僕達におとがめは無しだ。

 それにマッシュ君を恐れてか、僕達の飛行隊へのちょっかいは一切なくなった。

 食堂でバッタリ会っても、小さい声で悪態をついて直ぐに行ってしまう。


 そんなある日、そのちょっかいを出して来た男達の部隊が、判明することになる。


 その日は朝の哨戒任務は無いそうで、代わりに敵陣地への攻撃をする味方機の護衛任務となった。


 その護衛する味方攻撃騎が、あのちょっかいを出してきた男達の飛行隊だった。


 護衛する対象の攻撃騎は六騎で、護衛するのは僕達マーク小隊と、カザネさんと取り巻き女子の一人がいるイクラ小隊だった。

 

 当日の朝に顔合わせをしたのだが、男達はチラチラとマッシュ君の動向を見ているが、特に何も言ってこない。

 何も知らないカザネさん達は、ちょいちょい嫌みを織り交ぜつつ男達を牽制する。

 何とも悪い雰囲気のまま出撃した。

 

 まさかカザネさん達が、護衛任務に手を抜くとは思えない。きっと任務は任務として全うしてくれるだろう。


 そして僕達は敵陣営を目指して飛び立った。


 地上では味方と敵が激しい戦いを繰り広げている。

 今回の目的地はそれを超えたさらに奥地。敵の物資集積場を攻撃する作戦。

 味方偵察騎が偶然に発見した場所であり、発見されたことは恐らくバレているだろうから、物資を回収される前に行ってそれを吹き飛ばそうというのである。

 敵の真っ只中を飛び越えて行く、ちょっと無謀な作戦とも思えるが、僕達の部隊の護衛だから出来る作戦だという。


 敵部隊を眼下に見ながら、僕達は敵支配地域へと進んで行くと、早速僕は敵影を発見した。

 数は多くないから哨戒飛行だろう。

 直ぐにマーク小隊長に知らせるが、どうやら遠すぎてまだ見えないらしい。イクラ小隊長も見えず、マッシュ君もカザネさんまでも見えてない。結局僕しか敵が見えてないようだ。


 するとマーク小隊長が僕に、編隊を先導するよう合図を送ってきた。

 敵に見つからないように飛べと言ってる。


 何という難題を吹っかけてきたもんだ。

 こつちは一騎や二騎じゃなく、十二騎の一個飛行隊に相当する大編隊だ。見つからない方がおかしい。


 だけど命令なら仕方無い。やってやるさ。


 幸いなことに近くに雲が見える。その中へ入り込むしかないな。


 僕は速度を上げて先頭に出ると、真っ先に雲の中へと入って見せた。

 すると僕の後に付いて、次々に雲の中へと翼竜が入って行く。


 雲の中は殆んど視界がとれず、数十メトル先は真っ白だった。

 雲の中はひんやりと感じ、体中が湿ってきて意外と気持ちが良い。

 その中を慎重に飛行する。

 視界不良だが、かろうじて周囲の味方騎が見える程度の視界はある。


 どれくらい飛んだだろうか。

 頃合いを見計らって僕は雲から飛び出した

 後に味方騎が続く。


 飛び出した所で全員が慌てふためく。


 目の前にはゴブリン兵を乗せた、三騎のプテラノドンが飛行していたからだ。

 側面をこちらに向けて飛んでいる。


 ゴブリン操竜士が僕達に気が付いて、慌てる様に旋回を始める。


 そこで僕は砲筒の引き金を引いた。


 ほぼ同時にマッシュ君も火槍を発射した。


 瞬く間に敵二騎が落ちて行く。

 

 やや遅れてマーク小隊長が下降しながら、逃げる敵へ火槍を発射。そして撃墜。

 あっと言う間の出来事だった。


 遅れて雲から出て来たイクラ小隊は、墜落して行く敵騎しか見えてないだろう。

 そして味方攻撃騎が雲から出て来た時には、敵の姿は無くなっていた。

 

 完璧な先導だったはずだ。

 しかしマーク小隊長はお怒りモードをみたいだ。

 この速度では会話が聞こえないから詳しくは分からないが、敵に見つからない様に接近では無く、敵に見つからない様に隠密飛行だったようだ。


 やらかした。


 皆の腕が良いから全騎撃したが、普通の飛行隊だったら作戦がバレていた可能性もある。


 帰ったら怒られるだろうな。


 そんな心配をよそに、僕達の編隊は目的地へと侵入して行った。

 なるべく雲の中を縫う様に飛び、敵に発見されないように進んで行く。

 目的地はもう目の前だ。


 しばらく飛んでいると、先頭を飛ぶイクラ小隊長からの合図があった。どうやら目的地はこの辺りらしいが、集積所なんて見当たらない。皆して必死に地上を探す。


 半刻ほどしてやっと目的の場所が見つかった。


 ここまで無事に来れたのは本当に運が良い。

 だけどその運もここまでかもしれない。


 僕は敵騎の編隊を発見してしまった。

 まだ少し遠いが僕達が攻撃を開始すれば、その炎を見て駆け付けて来るだろう。

 だがここまで来て攻撃しない訳にはいかない。


 イクラ小隊長に知らせたが、構わず攻撃すると命令が出た。


 六騎の攻撃隊が急降下を始める。

 僕達護衛騎は上空で待機だ。

 敵騎は僕達よりも高空を飛んでいるから、気が付かれたら不利な体勢で迎え撃たなければいけない。

 そもそも味方攻撃騎を守りながら戦うのは至難の業だ。


 味方攻撃騎は早々に爆樽ばくたるを投下し、そのまま味方支配地域へと飛行路をとった。

 このまま逃げ切るつもりだろう。

 だが敵騎は降下しながら、グングンと速度を上げてくる。

 このままだと間違いなく追い付かれる。


 低空で逃げる味方騎の上空で、僕らは後ろを気にしながら飛んでいた。

 僕としては早く反転して、敵を迎え撃ちたかったのだが、小隊長からの命令がまだ出ない。

 

 敵はもう視認出来る距離まで来ている。プテラノドン種の翼竜だ。


 そして遂に敵は戦闘態勢に入り始めた。







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