第22話 人体実験
ローレンツ少佐の話しはこうだった。
「君のギフトの内容は恐らく“テイム”だよ」
テイム?
飼育兵ってこと?
「それって動物を飼い慣らすって意味のテイムですか」
「そうなんだがな、君の場合は魔獣も対象に入っているな。言い換えれば魔獣使いだよ」
「えっと、それってサーカスとかにいる猛獣使いですよね」
「そうだが、魔獣を従える能力と言った方が良いかな。だから君は翼竜を従えて、上手く空を飛べるようにコントロールも出来ると言う訳だよ」
でもそれくらいなら、ベテラン操竜士にだって出来そうだけどな。
僕が納得のいく顔をしていないのが分かったのか、ローレンツ少佐はなおも説明を続ける。
「しかしだな、現時点では君のそのギフトは完全に発現していないと思ってる。君はまだ自分のギフトに目覚めていないんだよ。もしそれに目覚めていれば、恐らくだが初めて見る魔獣であっても飼い慣らせるよ。それがドラゴンであってもな」
「ドラゴンも飼い慣らせる……それが本当なら確かに凄いですよね。単なる能力の域ではないですもんね」
「そうだな。まさに神から授かったギフトだよ」
そうか、僕にそんな能力があるなら確かめてみたい。
「それで僕がギフト持ちかどうか確かめる方法はあるんですか?」
そこでローレンツ少佐は少し自慢げに話し出した。
「それがあるんだよ。私が長い年月を掛けて作った魔道具が。ギフトというのはね、元々魔法由来の能力なんだよ。そこで私は魔法探知に目を付けてだね――」
長くなりそうだな。
・
・
・
・
・
「――という訳でトーリ君には、私が開発した探査魔道具で調べさせてもらう。君がギフト持ちかどうか、それにその規模まで分かるはずだよ。楽しみにしてくれ」
大丈夫なんだろうか。
今の説明聞いたら逆に不安になってきたんだけど。
そして僕は別の天幕に通された。
そこには一脚のイスと沢山の魔道具が並べられている。
白衣を着た兵士も沢山いた。
僕は少佐に指示でイスに座らせると、変な魔道具の帽子やコードを繋げられる。
さらに、何故か革ベルトで手足を固定された。
「トーリ君、心の準備は良いかなっ」
ローレンツ少佐が目を爛々と輝かせて聞いてきた。
まるで狂った錬金術師みたいだ。
「は、はい。どうぞ……」
そう言うしかないでしょ。
「では、始めましょう」
少佐のその言葉で、白衣の兵士が魔道具に魔力を流し始めた。
ついに始まった。
人体実験……
魔力を流し込んでしばらくすると、何だか様子がおかしい。
「少佐、反応がありません!」
「何を言ってる。そんなはずはない。良く水晶体を見てみろ」
「……やはり変化ありません」
「それなら魔力の流量を上げるんだ、二倍にしろ」
「分かりました。魔力量を二倍にします」
本当に大丈夫だろうか。
そもそも僕が聞こえるところで、そんな会話しないで欲しい。
「少佐、水晶の反応に変化ありません」
「まさか、それは有り得ないだろ。仕方ない、魔力の流量を三倍にするんだ」
「少佐、それは危険です。被検体を害する恐れがあります!」
「構わん……やるんだ!」
いや、ちょっと待て。
だから全部聞こえているんだって。
次の瞬間、全身に稲妻が走る。
そして身体が激しく震えた。
し、死ぬ!
しかし、そうはならなかった。
「少佐、水晶体がもちません!」
「くそ、止めろっ、魔力の流入をストップしろ!」
こうして僕のギフト判定の調査は終了した。
僕は魔道具を全て外され、引きずられる様にして、別の天幕に案内された。
僕はそこで出されたハーブティーを口にしながら、イスに座って少佐が来るのを待った。
良く見ると、身体のあちこちに火傷が出来ているんだが。
そして唐突に入口が開かれ、ローレンツ少佐が入って来る。
「持たせてすまんな。ちょっと調査結果に疑問があってな」
僕は実験中の会話に疑問がある。
何よりさっさと結果を知って帰りたい。
「それでどうなんです。やっぱり僕は凄いギフト持ちなんでしょうか」
ローレンツ少佐は直ぐに答えず、僕の対面のイスに座る。
そして少し納得のいかない表情で言った。
「結果から言うと、トーリ兵曹。君にはギフト持ちの素養などない」
「は?」
「君がギフトを持っているはずはない、という調査結果なんだよ。残念だな」
いやいや、あれだけ期待させておいてそれかい。
返す言葉も無い。
すると少佐はさらに話を続ける。
「こんな結果になるとは、私も思わなかったんだ。私が睨んだ人物でギフト持ちじゃなかったなんてのは、今までひとりもいなかったんだよ。それにトーリ君に関しては、かなり自信があったんだけどな」
そこまで言われると、何だか僕が悪いような気さえしてくる。
「そうなると僕の能力って、何なのでしょうかね。翼竜と意思疎通が出来たのはウソじゃないですし」
「そうなんだよ。過去の文献にもテイムのギフトは記録があるんだ。だからてっきりギフト持ちなのかと思ったんだがな。そうなると単なる能力ってことになるな」
「翼竜と意思疎通出来ることが、単なる能力ですか」
「少なくてもギフトではないという結果だったんだよ。一応過去の文献をもう一度調べてみるとするよ。何かあったら連絡する」
そう言って追い出された。
何かホッとしたような、納得出来ないような微妙な気持ちだ。
だが改めて僕の能力に疑問が生じてくる。
人に言われて見れば、どう考えても不思議過ぎる能力だ。
逆にギフトだと言われた方が楽だったかもしれない。
謎のまま放って置かれるのは気持ち悪い。
僕はモヤモヤした気持ちのまま、宿舎へと向かおうとした時だった。
「おいトーリ兵曹、ちょっと待て!」
声の方に振り向けば、そこにはホイ飛行隊長がいた。
僕は慌てて敬礼して言葉を返す。
「ホイ飛行隊長じゃないですか。いったい何でしょうか」
ここは指揮所でもあるからホイ飛行隊長がいてもおかしくはないのだが、何か僕に用事でもある雰囲気だな。
ホイ飛行隊長は僕に近付いて来て言った。
「トーリ兵曹、司令部より先ほど転属の辞令が出た」
「転属ですか?」
現在のホイ飛行騎兵隊は定員人数が足りていない。補充兵が来るなら分かるが、人数を減らされるのは変だとは思う。
でも僕は兵士なんで上からの命令には従うしかない。
「そうだ、転属命令だ。安心しろ、転属先も飛行騎兵隊だ」
それは良いのだけどねえ。
「ホイ飛行隊長。上からの命令には従いますが、何で僕が転属させられるんでしょうか。せめて理由だけでも教えてもらえませんか」
反抗的な態度と思われるかもしれないけど、どうしても知りたかったから聞いてしまった。
「理由を知りたいか。良いだろう。聞いて驚くな」
そしてホイ飛行隊長の返答を聞いて、驚く僕だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます