第17話 大鷹
ローレンツ少佐はさらに話題を振ってくる。
「そう言えば君は撃墜スコアが六騎となったそうだね。おめでとう」
「ありがとうございます……」
「それで、君みたいな平凡な成績で騎兵学校を卒業した者が、どうやってそこまで撃墜スコアを伸ばせたんだね。特殊な技能でも持っているのかな」
少佐が言いたいのは何となく分かった。
僕が騎兵学校での“意思疎通事件”のことや、禁止飛行のことだろう。
だけどそれを特殊な技能と言うならそうだろう。
「はいそうですね。僕は人とは違ったものを持っているのでしょう」
あっさり認めたことに、少佐は少し驚いているようだ。
「そうか……それなら君は“ギフト”と言う言葉を知っているかな」
「はい、贈り物の事ですよね。それが何か?」
「そう返してきたか、まあ良いだろう。かなり警戒させてしまった様だからな」
ちょっと態度に出てしまった様だ。
だけど上官だから余り邪険には出来ない。
「あの〜、それで少佐殿が僕なんかに何の用事でしょうか」
「いや、今日のところはもう退散するよ。また日を改めて正式に会うとしよう。それでは失礼」
一応は敬礼しておく。
しかし何だったんだろうか。
この時の僕はローレンツ少佐に関しては、大して気にもしておらず、直ぐに記憶を頭の片隅に追いやった。
□ □ □
ゴブリンの大攻勢で前線が大きく下がり、僕達の飛行隊も新しい飛行基地へと移った。
そこで初めて知ったのだが、この大攻勢で多数の操竜士が戦死したと聞く。僕達ホイ飛行隊からは戦死者は出なかったが、重軽傷者が何人か出ていた。
幸いなことにオトマル兵曹ほど重傷ではなく、入院後には復帰出来るらしい。
ただ人数が減った分、部隊内で再編があった。
なんとケンキチ君が僕と同じウーゴ小隊へと入って来た。
「トーリ君、よろしくね!」
ケンキチ君が目をキラキラさせながら、力強く握手してくる。
「こっちこそよろしく」
僕も負けずに手を強く握り返した。
そして早速その日の内に、ウーゴ小隊への新しい作戦説明のために、僕達三人は会議室に集められた。
そこには攻撃隊の隊長達もいた。
説明によると、それはいつもの哨戒任務ではなく、攻撃騎の護衛をするというもの。
僕達が元々いた飛行基地の近くに、ゴブリン歩兵が駐屯しているらしく、そこを叩きに攻撃騎が六騎出るという作戦。
その護衛をウーゴ小隊の三騎で担えと言う。
たった三騎でだ。
かなり無茶な作戦だが、やるしかない状況なので仕方無い。
そこでウーゴ小隊長が僕に小声で言ってきた。
「トーリ、戦闘になったらお前は自由行動を取れ。ケンキチのことは俺に任せろ。分かったな」
僕が小隊長に付いて動くよりも、自由に動いた方が良い動きをすると考えたらしい。
「良いのですか?」
「ああ、良いも何もこれは命令だ」
そこまで言われたら僕もそれに従うまで。
説明を終えると、攻撃隊の隊長達と僕達はガッチリと握手を交わした。
「すまんが守りは任せる」
「はい、命懸けで守ります!」
そして僕達は大空に舞い上がった。
六騎の味方攻撃騎は大型種のワイバーンで、その全てが複座となっている。今回は大型の
それが六騎分だから、全部で十二個もの大型の
敵の駐屯地は大打撃だろう。
全部当たればの話だが。
僕達はいつもより広い間隔を空けた編隊を組んで、攻撃騎の上空から護衛した。
出発して間もなくすると、雲の切れ目に敵の哨戒騎三騎を発見。
敵もこちらに気が付いて向かって来る様だ。
三騎なら何とか抑えられる。そう思ったのだが、近付いて来る敵騎を見て青ざめた。
プテラノドンではなく、大鷹が三騎だったからだ。
偵察部隊の時に先輩から警告されていた「大鷹には注意しろ」の言葉を思い出す。
プテラノドンとは段違いの能力を持つ、翼竜ではなく
だが逃げる訳にはいかない。僕達は友軍の攻撃騎を守る任務がある。
ウーゴ小隊長が上昇を始める。
少しでも有利な位置に出ようという考えだ。
三騎の大鷹は僕達の護衛騎を無視して、攻撃騎の編隊に突っ込んで行く。
そうなったら上昇している場合じゃない。
ウーゴ小隊長が急降下に移る。
僕とケンキチ君もそれに続く。
すると降下中に、ウーゴ小隊長から自由行動を取れとの合図がある。
僕は了解の敬礼をして、一人編隊から離れる。
ケンキチ君が手を振っているので、僕も軽く振り返す。
そして僕は覚悟を決めた。
でも今までに無く落ち着いている気がする。
「ハルバート、僕を手伝ってくれ」
何となく口にしてみた言葉だったが、ハルバートがそれに返答するように小さく鳴いた。
まさかと思ったが、今は確認している余裕などない。
僕はウーゴ小隊長達とは反対方向に回り込む。
そこでウーゴ小隊長とケンキチ君の二騎が、大鷹の上空側面から攻撃を仕掛けた。
小隊長が二発の火槍を発射すると、続いてケンキチ君も二発発射。
そして急上昇。
敵騎は直ぐに回避行動をとる。
合計四発の火槍は、三騎の大鷹の間をすり抜けていった。
「あれを余裕で避けるのか?!」
だが牽制攻撃にはなった。
攻撃を仕掛けようとしていた大鷹は、完全に邪魔された形となったからだ。
大鷹は反転。
編隊を整えて仕切り直すようだ。
そこへ僕が急降下して行った。
編隊から一騎だけ遅れた大鷹がいる。
そこへ火槍を発射。
放ったのは二発。
思ったより良い軌道で飛んで行く。
しかしーー
「あれも避けるのか!」
軽く回避された。
だが二発の内の一発が大鷹の翼を
羽根が飛び散る。
大鷹が苦しそうに鳴き声を上げるが、落ちる気配はない。
足りない。
もう一回!
旋回しながら上昇。
相手より高度があれば、戦いを有利に進められる。
高度を上げた所で翼をひるがえし再び降下。先程の大鷹にもう一度攻撃を試みる。
チラリと小隊長達に目をやると、かなり劣勢だが友軍攻撃騎は守り切っている。
頑張ってくれ!
僕は視線を元の敵に戻す。
降下しながら大鷹の側面を捉える。
絶好のタイミングで引き金を引いた。
発射された二発の火槍が、空に白い煙の軌跡を残して飛んで行く。
さっきより良い!
しかし大鷹はそれをも
またも驚かされた。
やはりプテラノドンとは違う。
大鷹の方が機動能力が圧倒的に上。
当たらなかったのではなく、避けられたのだ。
大鷹の能力は、僕が考える以上だったということ。
僕が再び高度を取ろうとすると、大鷹が旋回上昇。
僕に騎首を向けた。
しまった、撃たれる!
完全に不意を突かれた。
オトマル兵曹の撃たれた光景が
やられる……
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