第18話 奇襲作戦
僕はオトマル兵曹の撃たれた時の様子、そしてゴブリン歩兵と対峙した時の戦闘光景を思い出す。
その時感じたのは恐怖。
一瞬身体が硬直したと思う。
まさにその時だった。
上空の雲の切れ目から、突然一騎の翼竜が現れた。
それは緑色をしたワイバーン。
みるみる急降下して近付いて来たかと思ったら、パッパッと何かが光った。
火槍を発射しようだ。
そのまま低空へとすり抜けて行く。
気が付けば僕を攻撃しようとしていた大鷹に、火槍が二本突き刺さっていた。
大鷹はそのまま
助けられた……みたいだ。
緑色のワイバーンはさらに速度を上げて、小隊長達の方へ向かう。
あっと言う間の出来事だった。
小隊長達はというと、二騎の大鷹に振り切られ、味方攻撃騎への攻撃を許してしまっていた。
そこへ緑色のワイバーンが乱入。
大鷹二騎は
だが、それだけでは無かった。
さらに二騎の緑色のワイバーンが現れ急降下。
合計三騎が大鷹へ乱入して行ったのだ。
そうなると一気に形勢は逆転し、敵の大鷹二騎は逃走を始めた。
敵が逃走を始めると、緑ワイバーンは敵の追尾はせず、騎首を飛行基地方向へ向けた。
哨戒任務の帰りだったようで、基地に帰投するらしい。
僕はお礼を言いたくて、緑ワイバーンに近付いた。
するとその一騎に見知った顔があった。なんとそれはマッシュ君だった。
同期のあのマッシュ君だ。
僕は嬉しくなって大きく手を振ると、マッシュ君も僕に気が付き、小さくだが手を振り返してくれた。
そのまま彼らは基地へと飛んで行った。
その後、僕達の編隊は再び攻撃目標地点へと急ぎ飛行を続けた。
そしてグングンと高度を上げて行き、目的地の敵歩兵駐屯の上空に到達。
すると敵駐屯地から対空射撃を受ける。
高射砲筒からの射撃だった。
攻撃騎は確実な命中よりも安全を優先し、かなり高い位置から敵上空へ侵入した為、ほとんどの敵火槍は僕らに届かない。
だが一部の火槍は、僕らの高度まで到達。かなり近いところで爆裂した。
幸い撃墜された者はいなかったが、負傷したワイバーンが何体が出てしまったようだ。
これにはちょっと驚かされた。
我が軍の高射砲筒でも、ここまで届くのは殆ど無いはずだ。
それでも全ての大型の
高空からの確認だからかなり不鮮明ではあったが、投下した
そう敷地内に落ちた、だけだ。
恐らくだが被害は軽微だろう……
僕達は基地に戻ると、まずは全員が戻れたことを喜んだ。
その上で敵の対空砲火の被害が思った以上だったことを実感した。
ワイバーンの身体に無数の小さな傷が出来ていたからだ。
酷いのになると、破片が深く突き刺さっているワイバーンもいる。
中には攻撃騎の操竜士やオブザーバーにまで、破片による負傷者がいたくらいだ。
これらを見ると、敵は火槍に命中率の向上と爆裂魔法のふたつを呪符したのではないだろうか。
そんな高価な火槍を使った可能性がある。
しかもあの高空まで届く性能の砲筒だ。
それも踏まえて士官達は、指揮所に報告をしてくれるという。
ウーゴ小隊長は指揮所へ報告に向かうというので、僕とケンキチ君もそれに付いて行く。マッシュ君の宿舎を調べるためだ。
ちゃんと礼を言いたいからね。
僕にとっては命の恩人だし。
指揮所でマッシュ君の居場所を聞くと意外と遠い。歩いてニ十分掛かる。往復で四十分か。
時間的に宿舎の門限までに帰ってこれなくなりそうだ。
個人的な用事に二足竜を貸してもらえる訳もなく、ここは
ついでに撃墜スコアを見てから帰ることにした。
するとマッシュ君の撃墜が、先程の撃墜で遂に十騎になっていた。
十騎撃墜でエースの称号がもらえるとか。
実戦に出て
だがスコアボードを見ると、撃墜一位は変わらずロバート・ボング大尉で、撃墜記録はニ十騎に増えている。
マッシュ君は凄いがまだまだ追い付かないか。
さらにカザネさんの名前を調べると、彼女の撃墜は八騎とあった。
僕の六騎でもまだ追いつかない。
僕はケンキチ君と「皆凄いね」と何度も言いながら宿舎に帰った。
最後にケンキチ君がボソリと言った。
「トーリ君も十分凄いんだけどね……」
何も言えなかった。
□ □ □
朝になると新たな任務が、我がホイ飛行隊に命じられた。
何と戦闘騎だけでの敵飛行基地への奇襲攻撃だ。
夜明け前に飛び立ち、日の出と共に敵飛行基地に接近。
そして太陽を背にして降下。
二個の
戦闘騎の様な小型の翼竜でも搭載出来るメリットがある。
それでも小型の戦闘用ワイバーンに爆装する訳だから、運動性は極端に落ちる。だから輸送中に敵に見つかったらお仕舞いだ。
そして重要なのは、この作戦の成功の成否はあくまでも奇襲であって、敵にどれだけ被害を与えたかではない。
何故なら、出撃する騎数はたったの六騎。それも搭載するのは威力の小さな
つまりこの奇襲の本当の目的は、敵に精神的ダメージを与える事。
ハッキリ言って大攻勢の仕返しみたいなものだ。
そしてホイ飛行隊から二個小隊が選ばれた。
僕達ウーゴ小隊とビーン小隊の六騎だった。
ケンキチ君は露骨に嫌な顔をしているが、僕はやる気満々だ。
そして当日の日の出よりだいぶ前、ほとんど夜の内に僕達は飛行基地でワイバーンに乗り込んだ。
地上の数カ所に
それに少し飛んだら、月明かりが唯一の明りとなってしまう。
僕達六人はワイバーンに乗り込み、松明と月明かりを頼りに夜の大空に舞い上がった。
夜は寒いかと思ったが、意外と快適だった。
しかし高度が上がってくると、徐々に寒くなってくる。
僕は持って来た毛皮の服を着ようとするが、風圧で上手く着れない。
それでちょっと手を滑らせた瞬間、毛皮の服が夜空に消えていった。
そこから僕は、夜の空に震え続けることとなる。
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